悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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私も大概、トラブルメーカー……。9

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 多分、十割私が悪い。自覚がある。このまま二人が言い合いを続けるのは本当に心苦しい。

「魔法玉を塗り替えられたりすれば、魔法使いを目指すことなんて出来無くなるんだ。君はこのチームから去られたら困る」
「ち、違くてね、サディアス」
「何も違わないだろクレア、お前の魔法玉は確かにディックの魔力が入り込んでいる、それが危険だと言うのも俺は分かる。ただ、元からクレアの魔法玉には欠損があった、固有魔法の授業中だったんだ、ディックがサーチで見てやろうとしたなんてごく普通の事だ」
「それで、うっかりディックの魔力が入り込んだと言いたいのかオスカー、そんな不手際、彼が一度でもするか?俺たちの中で一番魔法が身近な環境で育っているだろう」
「だから何だってんだ?失敗の一度や二度は誰だってするだろ。それとも学園出身ってだけで、それすら許せねぇって言うのか?」

 話し合いと言うよりはどんどんと口論に発展していき、サディアスは、眉間の皺を深めていき、オスカーは声がだんだん怖くなってくる。

 ディックはもうどうするべきなのか分からないようで、オスカーの服をぎゅっと握りしめている。

 ……何とかしないと、私が悪いのに。

 でも対策を取られてしまっている。シンシアとチェルシーが両側にいたんじゃ、おちおちお嬢様言葉で叫ぶ事も出来ない。

 なんか、えっと私の話を聞いてくれそうな事!

 ぐるぐると考えて、テーブルの上にある魔法玉に目がいった、手を伸ばせばしても届かない距離に置かれている。

 ……一か八か……。

 祈るようなポーズをとって限界まで熱を手に集める。
 魔法玉を通さないと魔力はすぐに霧散してしまう。それでも、沢山沢山込めれば、私は多分今、あそこまで魔力が届けば、魔法を使える気がする。

 ……やるよー……さん、にー、いち……。

「え、ええい!!!」

 かめはめ波のように手から光がふわふわふわっと放たれて、私の奇声に、サディアスとオスカーがこちらをむく。その時には空気砲のような容量で、魔法玉へと私の魔力が届く。

 スローの世界が訪れて、一瞬遅れた皆は私に着いてくることは出来ずに、私は机に乗り上げて自分の魔法玉を手に入れることが出来て、そのまま机に飛び乗って、それから反対側へと着地する。

「おいっ!」
「クレア!」

 私が自分の魔法玉を握りしめながら、五人を見据えて答えずに沈黙する、それから数秒置いて素早く膝を曲げ、三指をつき、おでこを床に打ち付けた。

「本っ当に!!!申し訳ありませんでしたぁっ!!」

 ややスライディング式に繰り出した土下座は、ディックの目の前まで滑りお膝が痛い。

「ディック!!本当にごめんなさいですわっ!!」

 緊張から、お嬢様語尾が飛び出し、額をさらにカーペットに擦り付ける。
 勢いだけで喋りだしたので、何をどう言えばいいのかよく分からなかったが、とにかく、ディックが悪くないという事を伝えなければと考えて、下を向いていても聞こえる大きな声で言う。

「私が悪いの!!上手く言えないんだけど、多分サディアスやみんなが心配しているような魔力の塗り替えじゃなくて!!固有魔法的なもので、本当に何かの拍子に取り込んじゃったっていうか!!」

 誰も間に口を挟む人はおらず、全力で続ける。

「私の魔法玉の欠損を補えるような気がして!!ディックの魔法玉に手を触れたの私なの!!ごめんなさいっ!本っ当に反省してる!!だから、サディアスもオスカーもそんなに険悪になる必要なくて……っ、それから、ディックも全然悪くなくてっ!!……」

 自分自身でもよく分からない現象だった、でも他人の魔法玉に触れること自体、この世界では結構大問題で、ひたすらに謝ることしか出来ない。

「ごめんなさいっ!!」

 私を守ろうとして、オスカーと口論をしてくれたサディアスにも本当に申し訳ない。

「……」
「……」
「……」

 私の告白に、皆はしんと静まり返って沈黙が部屋を包み込む。気まずさ満点のその沈黙に、しばらく耐えて土下座の状態でじわじわ冷や汗をかきながら固まっていると、ガタンと椅子を引いて、目の前のディックが立ち上がった。

 一発ぐらい打たれるだろうか、と思いつつ顔をあげると、パシン、と両頬を潰れんばかりに両手で掴まれて、ディックが涙目で私を見つめていた。

「そうっだよね?!僕悪くないでしょ!!」
「うん、うん!ごめんねぇ、ディック!」
「いいよ、許してあげるよ!!もうっ、だって僕も怖くてさぁぁ」

 その瞳はうるうる涙を溜めて私を見つめる。
 
 下から見ると彼の瞳は、色素の薄いグレーの瞳をしていて、魔法玉の色の謎が解けた。

「わ、私も、すごいびっくりしたぁぁ」

 同意するとディックはコクコク頷いて、膝をついてひしっと私を抱きしめた。タックルのようなハグだったので、立っていたら、受け止めきれなかったと思うが、こちらも同じぐらいの力量で抱きしめ返す。

「君の魔法玉をサーチしてたからさ、僕の魔力がなんかすごい吸われてさぁ!!そしたら、君が僕みたいでさぁ、サーチが凄いことになってさぁ!!怖くてさぁ!!オスカーも変な魔法使うしさぁ!!ブレンダが僕らをボコすしさぁ!!」
「うん、うん!」
「起きたら犯罪者みたいに扱われるしさぁ!!」

 ディックは決壊するように、怖かった事をまくし立てる。そして、ブレンダに強制的に落ち着かせられたのは私だけではなかった事を知る。

「とにかく全部君のせいだよぉっ!!」
「ごめんねぇ!!」
「許すけどさぁー!!」

 私たちがお互いを許しあっているのをいつの間にか皆が囲んで、そして、私とディックそれぞれの襟首を掴んで引き離した。



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