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私も大概、トラブルメーカー……。8

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 自分の魔法玉を探すが、それは自分の首に掛かっていない。
  
 ……!……いや、冷静に考えよう、ディックが魔法を使えていないということは、誰かに没収されている可能性があって私も、そうだと言うことかもしれない。理由は暴れるかもしれないから、かな。

 現にディックは暴れているし、こうなる事を見越していたとすると、サディアスだろう。

「落ち着け?な?」
「うるさいっ」

 ガツッという鈍い音がなる。意図してでは無いだろうか、チームメイトの手を振り払おうとした、ディックの手がオスカーの頬をぶった音だった。

 オスカーはじっとディックを睨んで、胸ぐらを掴む。ビクッとディックが体を縮ませて、オスカーを見つめた。

「…………こんな時でもなけりゃ、殴り返してたぞ?」
「……」
「痛い目見てぇかよ、ディック」

 オスカーは地を這うような声でそういい、凄む。入学当初よりも彼の圧力は増していて、ディックは口を引き結んで、もごもごと口を動かす。

 しかし納得が行かないようで、ふるふると拳を震えさせた。

「…………」
「……チッ」

 オスカーは、舌打ちしてからディックの髪をかきあげるようにして、頭を撫でる。

「離してやってくれ、もう大丈夫だろ」
「……そうか?」
「オスカーが言うなら」

 わしゃわしゃとディックは頭を撫でられて、プルプル震えだし、ぽたぽた涙を流した。

 ……な、泣いちゃった!!

 頭を胸板に抱くようにして、オスカーはディックを抱きとめる。それに、ディックはまるで抵抗せず、ぐずっと鼻を鳴らす。

 ディックは正直何事にも動じないタイプだと思っていた。少しぐらい問題があっても、流すことができるし、自分の興味がある事以外はどうでもいいと分けて考えることが出来ると。 

 逆にオスカーの方が打たれ弱そうな不憫なイメージだったが、真逆だ。
 涙声のまま、ディックがこちらを見て口を開く。

「み゛、見せもんじゃないんだけど」
「喧嘩売んな、お前弱いんだから」
「う゛っ、うう゛」
「あ~、あんま泣くなよぉ」

 オスカーは、ディックの柔らかい頭をふわふわ撫でて、笑った。何だかものすごいイチャイチャを見せつけられているような心地になって、気恥ずかしくて目を逸らすと、シンシアと目があった。

「先日の謎がとけましたね」
「そうね」
「驚きですっ」

 コソッと会話をして、視線を戻す。ディックのチームの男子三人はとても大人しそうな子達なのでオスカーがディックを慰めているのを見て、良かった良かったと胸を撫で下ろしている。

 ディックが落ち着くまでしばらく時間がかかり、私たちはコソコソと雑談しながらゆっくりと待った。


 夕日が部屋に差し込む頃。ディックはやっと落ち着いて、私の向かいに座る。
 ディックのチームのほか三人はもう大丈夫かな、と確認しつつ当番があるようで先に解散する。

 そういえば今更ながら、夕方である。最後の記憶から察するに、バチバチと警戒しあっていた私たちをブレンダ先生が落ち着かせるために、一発かまして私を落としたのだろう。先生ってやっぱり強いんだなぁそれから、私が眠っていた時間は相当長かっただろう。

 それで結局何があったのかと、サディアスに視線を向けると、彼は、カツンと指でテーブルをノックする。

「話し合いを始めても構わないか?」

 サディアスの問いに全員が頷き、彼は私を見た。それから、苛立たしげに、テーブルの上に私の魔法玉を取り出す。それから真っ白なディックの魔法玉もそばに置いた。

「まず、クレアに聞く。君、この現象の意味は分かるか?」

 彼は私の魔法玉に触れて、コアの部分を指で擦った。そこにはいつものドーナツ型の私のコアがあるのではなく、ディックの色が入っている。あの時に見たままの状態だった。

 自分の中では心当たりはあるが、意味は分からないので、サディアスの問いにふるふると首を振る。

「わかった。一応説明するが、魔法玉は基本的に、所有者自身の魔力で満たされている。これは俺達魔法使いを目指すものの生命線のようなものだ。他人に奪われ、魔力を全て塗り替えられた時、どうなるか知っているか?」
「え?……そんなこと、できるの」
「もちろん……相手の魔力にすべてが塗り替えられてしまえば、その塗り替えた相手が死んだ場合に魔法が使えなくなってしまう。つまり、本物の戦闘で、相手を逆らえなくする手段だ」

 『ララの魔法書!』の話を必死に思い出して見るが、ピンと来ない。しかし似たような話もあった、確かそれは親愛の誓いといったはずだ。

 それは噂話程度の話として原作に、本物の魔法玉を魔法使い同士が結婚する時にお互いに魔法玉を魔力で塗り替えあって、お互いを一生大切にするという誓いだ。

 実際、ローレンスとララは簡易魔法玉でそれをやっている。あのシーンはとても感動的で記憶によく残っている。

「親愛の誓いとは違うの?」
「……違うな、たしかに、相手の魔法玉を塗り替えるのは同じだが、実際に結婚する時には塗り替えるふりだけ。そのようなリスクを追う人間は居ない。だからあくまで実用的に考えると、ディックは、君逆らえなくさせようとしたように見える」

 そう言って、サディアスはディックを睨んだ。

 確かに、私の魔法玉の中心に入っているのはディックの魔力であり、ついでに、未だにディックの魔力に包まれているような心地は感じる不思議なものだ。

「ッ僕は、何もしてないッてば!」

 怒鳴るディックの肩をオスカーが押さえて、サディアスを睨み返す。

「こう言っている以上、俺はディックを信じる。クレアの魔法玉は特殊だ、なにかの拍子にって事もあるんじゃねぇのか」
「はっ、有り得るかそんな事?俺は信じ難い。今だって、魔力を抜き去るために二人を近づけるのだって危うい。それほど一瞬でクレアの魔法玉は魔力を失ってしまう」
「おいおい、考えてみろよ。そもそもメリットがねぇだろ、クレアには悪いが、所詮はディックが塗り替えたところで罪しか残らない、それだけの価値がクレアにあるとは思えないなぁ」
「……オスカー、君は何も見えていない。価値はある、俺が知っている限り」
「……お前こそ、ナイト気取りか?サディアス様?俺らに分からないような価値があったとしてなぁ、それを大衆の前でやったら咎められるっていう事実に変わりはねぇよな、違うか?」

 ディックはサディアスに食ってかかるオスカーを不安そうに見上げて、それから何か言えと私の方を見る。
 私も言いたいのは山々だが口を挟む間がない。

「あの、ちょっと、ごめん、私」
「クレア、少し黙れ」
「そうだ、君はことの重要性がまるで分かっていない」
 
 二人に思い切り睨まれ、口を閉ざす。



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