悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
98 / 305

私も大概、トラブルメーカー……。6

しおりを挟む




 息を飲んで見守ると、指先はふにっと触れ合い、失敗かと思われたが、ふわんと謎の歪みが生まれ、CGのように二人の手が交差する。

 目を疑うような光景で、二人を見れば、なんとも言えない高揚した表情の二人と目が合う。

 手をゆるゆると動かして相手に触れないこと、そして、私の手を握って、二人以外には触れられることを確認する。

「……ミア、これじゃない?」
「アイリ、私もこれだ!って思う!」

 納得の行く魔法だったようで、二人は魔法をといて、私の手を離し、お互いを抱きしめあった。

「これしかないって思うぐらいっ、これってすごいよアイリ!」
「本当にっ、信じられない、何だかあなたに出会えて良かったとすら思ってる、ミア!」

 二人はお互いの存在を確認するようにワチャワチャと抱き合って、頬に触れたり、髪に触れたりしながら、嬉しそうに笑った。

 すごいスキンシップだなぁと思いながら見ていると、アイリに手を引かれて、その輪に加わる。
 私には関係がないような気がしたが、そんなことはお構い無しのようで、うふふと笑う二人に揉みくちゃにされる。

「……よ、良かったね?」
「うん、私たち今最高の気分、……あ」
「ミア?……う」

 そして二人は気の抜けるような声というか、吐息を吐いて、それから抱きしめていた二人が同時に、膝から崩れ落ちる。

「っうわぁ!」

 ……ま、魔力の使いすぎか!

 何とか支えようと、グッと踏ん張って、二人の腰を支えるけれど、どう考えても重量オーバーである。足がプルプルと震えて、もう倒れる寸前だ。

 ……だ、ダメだ!もう!

 私の両手からふっと重みが消える。

 二人が地面に頭をぶつけるところを見たくなくて、反射的に瞑ってしまっていたが、倒れる様な音はしなくて恐る恐る目を開けた。

 すると、子猫をつまみ上げるように二人の襟首を掴んだオスカーがいた。
 彼は何食わぬ顔で、私を見て少し困ったように笑顔を浮かべた。

「魔法はいつでも使えるようにしとけよ~、クレア」
「……うん、オスカー、ありがとう。助かったわ」
「おう……じゃあ俺、二人を先生んとこ置いてくるわ」

 オスカーがチラリと練習場の入口付近にいる、助教諭の方を見やる。
 私も見てみれば、シートが引かれていて既に意識を失った何人もの生徒が、寝かされていて、まるで野戦病院である。

 彼は二人を両脇に抱え直し、荷物を運ぶようにして歩いていく。
 
 ……こんなバタバタ、人が倒れる授業って……やばいな。

 今度は誰が倒れるか分からないので、ポケットから簡易魔法玉を出して首から下げる。

「……クレア、君の固有魔法は決まってるの?」

 すると、オスカーと先程まで一緒にいたディックが、話し相手がいなくなったからかこちらにやってくる。私は、振り返って、ディックと目を合わせた。

「うーん……ミアとアイリに相談しようと思った途端、ばったりいっちゃったから、まったく」
「ふぅん……僕が見てあげようか」
「魔力、流さない?」
「だから、もうアレはやらないんだって!オスカーも君もしつこいな」

 ディックが少しご機嫌ななめというように、ふいっと視線を逸らす。

 見るというのは、サーチで私の魔法玉を見てくれるという事だろう。ヴィンスの得意魔法なんかも当てていたし、私の固有魔法への取っ掛りになるかもしれない。

「ごめんね……お願いしてもいい?」
「ふんっ、初めからそういう風に素直に言ってよね」

 彼も魔法玉を出して魔法を使う、私は彼のまんまるのコアが綺麗に白色の光に染まるのを何となく見つめる。

 このコアのカラーリングというのは、どういうふうに決まっているのかという疑問が浮かんだが、色はさして問題では無いような気がした。

 問題は光だ、心地よく揺蕩う魔力の光、それが瞳にも宿って魔法が生まれる。
 ディックは目を瞑って、私の魔法玉を持ち上げる。
 
 遠いと見えづらいだろうと思って、一歩、彼の方へと踏み出した。すると、あまり近くで見ることがない、人の魔法玉をまじまじと見ることになる。

 何だか今日は、異様にそれが気になったが、ぼんやりしている場合ではないので、別のことを考えることにする。

 私の固有魔法についてだ。先生は、足りない部分を補ったり強化したりするものだと言っていた。

 その方向性で行くと私が補うべきなのは、簡易魔法玉の助けが無くとも魔法が使えるようになる事が先決のように思える。
 それなら、クラリスが私に触れた時のようにとまでは行かなくても、自分の魔法を自分の力で使うことが出来るだろう。

 ……自立するというのが大事だ、出来る限り力が欲しい。クラリスもそれを第一に考えろと言っていたし。

 でもそれと同時に、本当にそれだけでいいのかという気持ちも同じように存在している。だって、それでは、私の魔法は会心の一撃ということでも無く、ただただ皆に追いつくためだけの、相変わらず劣った存在ということに代わりがないのだ。

 それに、補うという事にしっくり来ない。
 
 補ったって、きっとしっくり来ないのだ。先程、二人が魔力の残量まで忘れて夢中になって高揚していたような、そういう自分にとって特別な魔法じゃないと思う。

 そう、私は私のなりたいものになりたい。足りない自分を補強するだけではなく、例えば、クラリスが私に手を添えた時のように、ピッタリしっくりくるような、同じ補うでも他人を補える人間になりたい。

 ピッタリしっくりくるような、クラリスと共にこの体がある時のようなものを他人にも与えられる人間になりたい。

 あ、と思う。そうなれる可能性は、ちゃんとこの世界の私は秘めている。そして、私はそれを望んでいる。

 目の前で煌々と光を放つ魔法玉。

 他人の魔力は嫌いだけれど、信頼のできる人間のものであれば、それなりに、心地いいような気がする。ディックは面倒な人だけど、悪い子じゃない。

 今だって私を気にしてくれている。
 ……単に暇だったということも多少はあるだろうけれど。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...