悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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私も大概、トラブルメーカー……。2

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 私と目が合うと二人の女子からはすぐにそらされてしまい、こちらまで気まずくなる。グループに振り分けられた時からこんな調子なのだ。

「じゃあ、次はどうする?クレアとディックがやるか?」
「やだよ、僕。クレアじゃ相手にならないし」
「すいませんね、ポンコツで」
「……そっちの二人は何したいんだ?俺は別にブレンダ先生が来るまで自由でも問題ないぞ」

 オスカーは私たちのやり取りに苦笑しつつ、二人に話をふる。すると二人は顔を見合わせ、やがて一人が決心したかのように、パッと私の方をむく。

「……クレア、話があるの、少しいい?」
「!……うん、いいよ」
「よしっ!言ってみろ!俺も聞いてる」
「え?じゃあ僕も?」

 ……いや、どういう状況?女子の二人と私で話があるという事だと私は解釈したのだが、オスカーはさわやかに笑って仁王立ちで話を待っている。ディックは完全につられたんだろう。

 私と同じことを思っているらしく、女の子二人も一度オスカーを見たが、他人に聞かれても困る話では無いようで頷く。

「……リアの事、本当に……ごめんなさい。最近やっとメルキシスタに戻った彼女と連絡が取れたの、ね、ミア」
「うん、アイリに言われて連絡を取ったのは私、何があったのかちゃんと教えて貰えるまでに随分時間がかかってしまって」

 今まで知らなかった、二人の名前が出てきたので、区別をつけるために二人の顔をそれぞれみる。

 髪を括っている方がアイリ、ロングヘアーをそのままにしている方がミアだろう。
 二人はとても女の子らしい子達で、さすが女性チームに入れるだけある。女の子だけのチームだと色々と、女子力が必要になると思うので尊敬だ。

「何の話だ?クレア」
「あれじゃない?不祥事でリーダー三人、うちのクラスから消えたやつ」
「あー、ビビったな、あれ」

 私が話をする前にオスカーとディックが合いの手を入れ、あまり、クラスの皆は辞めた人の事を口にしないので、知らん顔を通すのかと思っていたが話に乗っかってくる。

「アイザックをけしかけたのがリアだって知って……それで私……本当にクレアに……謝らないとって、ね、アイリ」
「うん、ミアの言う通り、入学してすぐは、クレア色々と目立ってたから、その魔法が使えないって言うのは、入学試験を誰かの贔屓で受けてないのかなって考えちゃって」
「そう、それで、ずるいって気持ちがあって」

 お互いにお互いを確認するような独特な喋り方だが、本人達は至って真剣らしい。

「それでも、他人を虐めるのは良くないだろ?」
「君がそれを言う?」
「……俺のはもう時効だろ」
「早くない?」

 オスカーとディックが私の代わりにちゃちゃを入れて、二人は気にする様子もなく、話を続けた。

「でも、事情があるってわかって……率先して虐めていた、リア達以外は、クレアに酷いことをするのは辞めようって、事になってね、アイリ」
「うん……でも、アイザックとか、納得いってない子も居て、ミアとも何だか危ういねって話してんだよね」
「そしたら、急に、リーダークラスの時に、三人掛りでクレアを襲っちゃって……」

 交互に喋られると話が追いづらいが要は、まあ、急な事だったと、そして、彼らの独断の行動だったらしい。本当の事を言っているかどうかは分からないが、疑ったって真偽は闇の中なのであまり気にしない。

「リアは、手紙で、すごく酷いことを言ってて……そうだったよね、ミア」
「うん、クレアの事、同じ教室にいれば悪い子じゃないって分かる。今でも問題はいっぱいあるみたいだけど、だから、アイリと話して二人で決めたの」
「そうなの、私たちがクレアに謝ろうって、ごめんさないクレア、男性に女の子を襲わせるなんて許せない行為だった」
「うん、アイザックは最低だけど、それを煽るようなことをした私たちのリーダーも本当に許せない」

 二人は私に深く頭を下げた。
 こんな重たい話だと思っていなかった、ディックとオスカーはそれぞれ変な方向を向いて、なんと言ったらいいのか分からないという顔をしている。

「……はぁ……」

 思い出して、ため息が出た。私が人生二度目じゃなかったら、許せなかっただろう。この子達が悪いということでもないのに、こんな風に謝られたら責め立てていたと思う。

 私の態度に、ディックとオスカーは顔を見合わせて、すすっと二人で私とアイリとミアの間に入った。

「こんな所で頭を下げられたんじゃ、クレアは許すしか無いだろ?フェアじゃない」
「うん、それに、謝罪は自分達の罪悪感を晴らすことしか出来ないと僕は思う」

 こういう時は息ぴったりで、しかも私を庇ってくれるらしい。まったく……私は良い友達を持ったな。
  
「いいのよ、オスカー、ディックありがと。すこぉし殴られたり、キスされたり剥かれたりしたけど、救出してくれた人がいたから」

 具体的に言うと、オスカーとディックは目を見張った。どうせ囲んで罵った程度だと思っていたんだろう。意地悪にすこし内容を口にしたが、ミアとアイリはそれを否定したり言い訳をすること無く、頭を下げたままだった。

 ……ちょっと大人気ないこと言っちゃったな。

「……いいのか、それは。アウトだろ」
「……僕もそう思うな。尚更こんな所で話すことじゃない」
「いいんだよ。私の中ではセーフだから……二人とも顔をあげて、今、学園
にいる人は誰も悪くない。でも、二人がこうしてはっきりと悪かったと思ってるって伝えてくれて嬉しい」

 ポンポンと二人の肩を叩く、するとおずおずと顔をあげて、少し涙を浮かべる。

「でも、私、自分がされたらって思ったら、本当に怖いだろうなって思って、ね、アイリ」
「うん、私も全然平気な顔して学園に来てるクレアを見て、無理しているかもって」
「大丈夫……そんな事より……」
「「そんな事より?」」

 ディックとオスカーがハモって私の言葉の続きを促す。

「新しく来る、編入者はイケメンかしらっ?!わたくしっそれが楽しみで仕方ありませんわァ!!」

 高らかにそう言い放つと、ミアとアイリはビクッと反応して、オスカーとディックはまた始まったと頭を抱えた。「オーホホホッ」と高笑いまでつけておく。

「ですからね……気に病む必要はなくてよ?ミア、アイリ、その事は水に流しました。気にせず、仲良くして下さるのが一番わたくしにとって嬉しい事よ!」

 偉そうに笑って、偉そうな事を言う。
 私はこういうことを恥ずかしげもなく出来るところが、この体の良いところだと思っているのだが、実際の中身であるクラリスはこんな事は言わない。
 そして実はとても落ち着いている。

 じゃあこれって、一体誰のモノマネなんだろうという深い謎があるのだがそれを考えるのはいつかの暇な時でいいだろう。

 彼女達の手を取って、両方の手でギューっと握手をする。

「お友達認定してもいいかしら?」
「……」
「……」

 キョトンとした顔をして、二人は顔を見合わせる。それから、プルプルと肩を震わせた。

「ッ……っ、ミアっ」
「アイリ、っ、……っ」

 お互いの名前を呼んで、それから「ふっ」と顔を綻ばせる。それを皮切りに二人は柔らかい笑い声をあげる。

「ふっふふふっあははっ」
「っんふふっ、はははっ」

 ……そんなに面白いかね、これ。楽しそうで何よりだけど。

 私が苦笑していると、ミアとアイリの手に力が入り、しっかりと私の手を握ってくれる。

「ッはぁっ、ふふ。……ミア、やっぱりクレアはいい子だね」
「ン、ふふ、うん、そうだねアイリ、クレアは優しい子だね」
「ありがとう、お友達認定嬉しい。仲良くしてねクレア、私はミア」
「私も嬉しい、三年間よろしく、クレア。私はアイリ」

 やっぱり髪を括っている方がアイリで、そのままにしている方がミアのようだ。間抜けな握手の仕方だが、同時に二人もお友達が増えたことを私も嬉しく思う。

「うん!よろしくね!二人とも」

 私達の少しおかしな友情に、オスカーとディックは納得行かないような何とも言えない表情でこちらを見ていた。



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