悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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メンヘラっけを感じるんだよなぁ……。6

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 テストの出来を報告し合うクラスメイト達が賑わっている中、シンシアとチェルシーは何故か顔面蒼白で意気消沈していた。

 私がどうだったか尋ねると二人して「終わりました」と答える。それがどうにも息ぴったりだったので、つい笑ってしまう。確かにテストは終わったけれどそういう意味じゃないだろう。

「大丈夫だよ、二人とも、あれだけ頑張ったんだもん、きっとちゃんと結果に繋がってる!」

 同じテストを受けた私が言っているのだ、自分の中で、自信が持てなくても、信用して欲しい。赤点は絶対に回避出来たと言い切れる。

 そんな私の自信満々な態度に二人は希望を見出したのか、しょんぼりしながらもコクリと頷いた。

 そしてサディアスは私をじとっと見ている。今日一日、一切自らの事について話をせず、暗い表情のヴィンスへと視線を送り、そしてまた私を見る。

 ……そんなにアピールしなくてもわかってるって。

 なんとなく苦笑いで返し、テストの合間に考えていた事を実行する。

「終わった事だし!会議っ!皆、サディアスのお部屋に移動で」

 慰めあっていたシンシアとチェルシーもあっと思い出したように私を見る。

 そこでもう一言付け加えた。

「ヴィンス以外、ね!」

 私がそういうと、終始反応を示さなかったヴィンスが我慢するみたいに頬を膨らませて、ぎゅっと自分の手を握る。
 
 …………あ、違う、別にヴィンスを除け者にするとか、そういうつもりもない、そういう意味じゃない。ただ、その、彼は割と頑固そうなので、作戦を立てたいだけで!

 私が、彼の思わぬ反応に頭の中で言い訳を並べているうちに、ヴィンスはガタンと席を立った。
 それから手早く荷物をまとめて、早足で去っていってしまう。

 そんな様子をチームメイト三人に、またじとっと見つめられて、思わず口を開く。

「や!……あ、いや、そんなつもりじゃっ」
「……とにかく、移動しましょうか!テストの打ち上げをやっているような状況では無いようですしっ!」
「そうですね」
「同感だ」

 私はさながら刑務所に収監される罪人のように、三人から見張られつつ、サディアスの部屋へと移動した。



「それで、何がどうなった?……すべて話せ」

 サディアスに睨まれ、二人には同情的な視線を向けられる。サディアスは、怒っていると逆らえない気迫があるのだ、二人も重々それをわかってくれているのだろう。

「……その」

 どこまで、話をするべきかというのは、決めてある。チェルシーとシンシアにはすべてを伝えなくとも、状況を理解して貰うのには一言で十分である。

「私が……必要ないと彼に言ったの」

 二人とも、どれほどヴィンスが私にすべてを委ねて居たかを、ずっと目の当たりにしていたのだ。本当はもっとややこしいが、クレアもクラリスも二人ともから、必要ないと言われた。
 それがヴィンスがああいう状態になっている原因だ。

 ローレンスと繋がっているだとか、何も考えず他人にすべて委ねる事はダメだとか、私とクラリスの思惑はそれぞれ違えど、ヴィンスが自分を肯定できる唯一の理由を否定してしまった。

「……ああ……やっと言ったのか。君の事だから、てっきりもっと非道な事でもしたのかと……」
「そうですよね!私もてっきりクレアが乱暴でもしたのかと思ってしまいましたっ」
「……わ、私もです」

 何故、私ってそんなに信用ないんだろうか。これでも常識的な方だと思うんだけど。

 三人は少しバツが悪そうに顔を見合わせて笑う。

「けれど、じゃあヴィンスは、これからどうするのですか?確か……クレアについてくるような形で、彼はここにいるのでしたよね?」

 チェルシーがふと思いついたようにそう問いかける。鋭い質問だ。シンシアも私とヴィンスの関係性について話した時の事を思い出してか、確かにと考える。

「うん」
「でしたら、彼の学費や、その他色々な費用の工面はクレアの後ろ盾の方が負担していらっしゃるのでしょう?その方にもヴィンスは要らないと言うつもりですか?」

 そう、そこは確かに大きな問題だ。
 けれど、関係性は変わるが、私はローレンスとヴィンスが繋がっていても、文句は無い。そして、ヴィンスから昨日の話を聞いたローレンスが何かしら接触してくるのではないかと踏んでいる。

 そこで、ローレンスには、今までと変わらずでも、私のヴィンスに求める事を伝えられたらいいと思っている。

「ううん、言葉が強くなってしまったから、絶縁したいように聞こえてしまったと思うけど、そんなつもりは無いよ、私はヴィンスと、その……対等な関係になりたいんだ」
「ヴィンスはそれを言った時、どんな反応をしていた?」
「……すごく……混乱していた。自分を必要としてくれるような不自由が私にあったら良かったとも言われたね」

 ぎこちなく答えると、サディアスのトラウマを呼び起こしたらしく、ふと彼は顔を逸らし目を瞑る。
 チェルシーとシンシアは驚きのあまりか、二人で顔を見合わせ、ぱちぱちと瞬きをする。

「でも……言わなければ良かったとは思ってない。今日だって、びっくりしたけど、ヴィンスは、意外とちゃんと自分の性格や我があるんだなって知れたし」
「そうですね、私もとても驚きました。私も……ヴィンスの事を誤解したままだったようで、少し反省しています」

 シンシアは少し暗い声でそう言って、眉を下げて笑う。誰だってそうだろう、先週までの私たちを見ていた人なら誰でも、ヴィンスは自分の意思がない人間に見えていただろうから。

「そうですねっ、まったく個性が無いように思っていましたけど、今日は……その、驚くほど哀愁漂っているというか!……上手く言い表せません!」
「あははっ……そうだね」

 その気持ちがすごくわかって笑ってしまう。

 私たちが笑っていると、サディアスは、少し間を置いてから、息を付き、口を開く。

「それで、結局、君の望む結論はなんだ?ここから時間をかけて通常の関係を構築していくのか、それとも、話し合いをしてすぐに解決するのか。それによって今後控えている模擬戦の戦い方も変わってくるだろう」
「うん、時間をかけるつもりは無い。私は……その模擬戦を使って……仲直りがしたいと思っているの──────



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