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不眠症ってやつでは……。8
しおりを挟むそんな風に思いながら明け方になるまで、二人で特に意味の無い会話をしながら過ごした。
窓の外を見れば、ゆっくりと空が白んでいく。もうすぐ夜明けが近い。
「……君は、短絡的に見えて意外と思慮深い」
「?……急に、何?褒めてくれてるの?」
「いや、思慮深いからこそ、見えて無いものもあるということだよ」
「……意味が分からない」
「だろうね…………その、みすぼらしいリボン、外したらどうかな」
眠たいんだか、なんだか分からないが、話が急に展開して私は首を傾げる。しかし、私のお気に入りのリボンに、みすぼらしいはないだろう。
「気に入っているから、つけてるだけ。ローレンスには……」
……関係がないって言うと怒るんだっけ……。
そう思って口を閉ざすと、ローレンスは徐に立ち上がって、私の方まで回って来た。それから布擦れの音をたてて私のリボンを解く。
「君は、私のペットだろう?どんな首輪を付けるかは、私が決められる」
「……」
そう言って彼は私の手に新しいリボンを握らせる。同じ紫系統だが、高級感のある深紫に上品なフリルがあしらわれていた。
「……ありがとう」
もっと渡し方があるだろうとツッコミを入れたかったが、一目見てこのリボンが気に入ったので、特に文句を言わずに受け取る。
その返答にローレンスは満足したのか、少しふたらついた足取りで部屋から出ていく。
「……おやすみ……またね」
私は、彼の背中に声をかけた。聞こえるか聞こえないかぐらいの声で。
自分でもなぜ、“またね”という言葉がでてきたのか、うまく説明がつかないが、アレだと思う。
普段完璧な、少女漫画の男主人公が、何らかのトラウマとかで弱点がある所を見ると、キュンとしてしまう現象というか……そういうものである。
……え、じゃあ私の中の、あの腹黒男の好感度上がっちゃったの?……それはとてもヨロシクない。よろしくないよなぁそれ。
自分の中の理性は、あの男にだけは惚れるべきでは無いと警鐘を鳴らす。そうだ、それにありえない、あのローレンスだ。クラリスの演技があったとはいえ、この体は一度、あの男のせいで人生破滅しているのだ。
それをまた、私なんかがララと敵対してローレンスに恋をしようなどとはちゃんちゃらおかしい。
彼の去った扉を眺めつつ、絶対にあの悪魔の虜にはならないぞと心に決めた。
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