悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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不眠症ってやつでは……。5

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 カンっカン、カコンッ!

 私は必死に剣を振って、シンシアへと攻撃する。彼女はそれを易々と防御をしつつ、合間に盾の魔法を使った。

「そうっ!いいですよ、クレア!」
「うん」

 木剣なので、軽いし、思い切り振ることが出来る。お茶をして寮に帰り、夕食を終えると、今日は寮に付属している夜でも練習ができる稽古室の予約をしていた日だったので、シンシアとヴィンスと足を運んでいた。

 と言っても、ヴィンスは私達の飲み物やタオルを管理しているだけで打ち込み稽古には参加しない。チェルシーやサディアスはアタッカークラスなので別段稽古をする必要が無い。そんなわけで、こうして二人での稽古である。

 私も入学したての時に比べると、相当動けるようになってきたのだが、まだまだシンシアには敵わない。息があって、腕が重たいそれでも、必死になって打ち込んだ。

「やあっ、っは……っ!」
「っ、クレア、もっと強く!」
「はいっ!」

 向きになって、大振りに剣を振るうが、シンシアは、私の一太刀をいなすようにして剣の側面で受けて、それから絡めとるようにして剣を回しそのまま下から振り上げるようにして私の剣を打つ。

「あっ」

 カァーンと、子気味良い音が響いて、私の剣が飛んでいく。魔法は盾の魔法しか使わないというルールなので、身体能力の強化はしていないはずだが、それでも剣は中を舞って、しばらくして音を立てて床へと落ちた。
 稽古室は広々としているが一チーム以上は使えない個室なので他人に当たる心配は無い。

「……また、一本も取れなかった」

 私が痺れる手を見ながら呆然とそう言うと、シンシアは剣を拾ってきて、困ったように微笑む。

「良い線までは来ていると思うんですけど、クレアには決定打が足りないように思います」
「必殺技……とか?」
「いえ、そうではなく。最後の勝を決める一手とでも言いましょうか、相手を負かす、隙をつく、そういう心意気から来る、一撃がいつもクレアには無いように思います」

 ……決定打ね……。そもそも相手を負かしたことが一度も無いので、その一手が足りないと言われるとその通りだろうと納得する。

 ……それに、いくら木刀でも、装備無しの相手に打ち込むというのは……ね。決意がいるというか、ようは少し怖い。

「……考えてみる」
「一度、勝ってみると言うのも重要かもしれないですね。来週のテストが終わったら実技の方も模擬戦があります。そちらで、前線に回ってみれば何か掴めるかもしれません」
「そっか……模擬戦か……成績には入るんだっけ?」
「えぇ、バッチ付与には至りませんが査定の対象にはなっていますから」
「そっか……頑張らないと」

 私たちが話をしていると、ヴィンスがタオルを持ってきてくれるのでお礼を言って受け取る。もう汗でビショビショだ。ジャケットは脱いでいるがスカートなんかは洗濯しなければならないだろう。

 シンシアにもいつも付き合って貰って、申し訳ない。私みたいにヴィンスが面倒を見てくれるという事でも無いのだから、家事や掃除に時間もかかるはずだ。……それに。

 彼女を見ると、タオルに顔を埋めて、数秒硬直している。それから、ふと顔をあげて小さく欠伸をした。

「シンシア、ごめんね。遅くまで付き合わせちゃって」 
「いえ、私も……打ち込み練習は必要だと思っていますから。それに、早い時間は貴族方の専売特許ですから、むしろクレアのように遅くでも稽古に付き合ってくれる人がチームメイトで嬉しいです」

 少し眠たげな顔で彼女は笑ってみせる。
 そうなのだ、寮の稽古室は、予約制とはいえ、やはり貴族方が先に食後すぐの時間などを占領しており、平民のチームは夜も外でやる事が多い。

 私達は、サディアスのなんとかもぎ取ってきた予約時間にこうして気兼ねなく練習することが出来ている。それでも日付が変わるぐらい遅い時間なのは仕方がない。

「そっか……でもサディアスにも本当に感謝だね。多分、彼がいなかったら私達色々不便だったと思う」
「ふふっ……本当ですね。身分的に泣き寝入りしなければならない部分のフォローをして下さるのはとても感謝しています。それに面倒見もいいですし」
「うんうん」
「この間、私がチェルシーと喧嘩した時、仲裁に入ってくださったんです。その時に両方の話をよく聞いてくれて」
「え、そんな事あったの?」

 思わぬエピソードに、私が驚くと、シンシアは驚いた私が面白かったのか、口元を抑えて笑う。

「いえ、その、少し前の事でまだ焦りが抜けてなかった時、チェルシーに当たってしまって」
「……そっか。全然気が付かなかったよ」

 恥ずかしそうにシンシアは少し目線を逸らす。そういえばそんな事もあった。ヴィンスとも私ともシンシアは一悶着あったのだ、チェルシーとそういう事があってもおかしく無いだろう。けれどこの一ヶ月、段々と彼女の雰囲気は柔らかくなってきているような気がする。

「……今ではどう?まだ……苦しい?」
「…………ほんの少し。けれど、クレアが言ってくれた事、私の胸に……ずっとこのっていて、貴方が努力をしているのを見る度に、私も、報われるまでは頑張ろうと思えるんです」
「うんっ、絶対報われよう!いいや、報われますわよっ!!!」
「ふっはは」

 私が拳を振り上げてそう言うとシンシアは声をあげて笑った。私も謎の深夜テンションで「オーッホホホッ!!」とお嬢様高笑いをすると、シンシアはそれがツボに入ったらしく顔が真っ赤になるまで笑っていた。



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