悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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不眠症ってやつでは……。3

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 私の最推しが決まったところで、他のアタッチを選んでいたチームメイトもポツポツと合流して来た。

 シンシアは、一つ前の新作である、仲間の声が届くアタッチを示した。

「私は、自分の基本魔法を考えるとやはり、連携が取れるようなものがいいのではないかと考えました。新作も確かに魅力的ですけど、私達のチーム特色に合っているかという点は……その」

 シンシアは、言いづらそうにチェルシーを見て、言葉を濁す。相手を否定するような言葉になってしまうからだろう。でも、冷静に考えられる時間があってよかった。確かにシンシアの案も良いと思う。

 戦っていると魔法を使う関係でどうにも自分の世界に入りがちな気もするし。
 
「皆で揃って持つのなら、長く使いたいと思っています。これなら、固有魔法が開花していっても長く使えると思いませんか?」
「そう……ですね……」

 少ししょんぼりしたチェルシーは、次にサディアスに目を向ける。すると彼は、パッと手を振る。

「俺はそもそも、アタッチを揃える必要性を感じない。実用性という面では個別で購入するのが妥当だと思うんだが」
「……それはっ!」

 チェルシーがサディアスに少し怒って迫るがそうなる事がわかっていたようで、サディアスはまたすぐに口を開く。

「ただ、俺個人の意見はそうだが、君らが賛成するのなら揃えて持ってもいい。その、女性はそういうものが好きなんだろう?」

 そう言われて、チェルシーは口を引き結んで、視線を落とす。完全にフォローの仕方を間違えたサディアスは私に助けを求めるよう、視線を送ってきた。

 ……女の子だからそういうのが好きとかじゃなく、チェルシーがなんでお揃いにしたいのか、サディアスには、分からないんだね。

 とりあえずサディアスに頭をポンポンしてやれとジェスチャーを送る。すると彼は、慣れた仕草でチェルシーの頭を撫でる。さすがお兄ちゃんである。多分、愛とか恋とかには鈍いのであろう彼は、その行動がさらにチェルシーを期待させるとわかっているのだろうか。

 ふわふわ撫でられた彼女は、頬を染めて、サディアスに恥ずかしそうに笑う。恋する乙女はいつだって可愛らしいと思う。でも、少し身分差があるところが心配だ。

「私の提案、聞いてもらってもいい?」
「は、はいっ!どんどん聞きます!」
 
 チェルシーは、はっと私の方へと向き直り、頬を赤く染めたまま真剣そうな表情を作った。そんな彼女を見ながら考える。

 ……恋か……恋だよなぁ。サディアス、面倒見もいいし、人当たりもいいし、無理することろを除けば優良物件だよね。

 そんなことを考えながら私は、作戦を力説する。
 
 皆はそれを、なんとも言えないような表情で聞いた。
 確かに、そんな顔になるのもわかる作戦だが、私たちが揃って進級するにはトーナメント戦で良い成績を残さなければならないのだ。このぐらいやっても、誰も咎めないだろうと思う。

 そして結局、私達は、私の提案したハート型のアタッチを購入した。五個セットのうち、一つだけはハートが円で守られているような形をしており、どこまでこれが通用するのか少し楽しみになりながら店を出た。

「……ほ、本当に買ってしまいましたっ!いいんでしょうか?!」
「いや、確かに一番、勝率が上がりそうな作戦ではあるが……本人がいいと言っているんだから、気にしないに限るだろう、チェルシー」
「なんというか、クレアを生贄にでも捧げるような気持ちです……」

 買ってこんなに落ち込む物も珍しい。私も確かに自分を生贄にするという表現は合っていると思った。けれどサディアスだって私をリーダーに推薦する時に囮にちょうどいいと言っていたような気がするので今更だと思う。

「いいよ、気にしないで。……でもお揃いで買えて良かったね、チェルシー」
「!……はいっ!あ、あのっ!この後っお茶にでも、行きませんか?」

 チェルシーは、思い切ったように手をぐっと握って言う。

「サディアス以外のっ四人で!!」
「え?」

 てっきりサディアスと二人で行きたいのかと思っていたのだが、予想外の言葉に、思わず立ち止まってしまう。それからサディアスは不可解というように首を傾げて、意図が分からなかったのか私を見る。
 
 いくら同じ女性で多少は、恋心がわかる私であっても、好きな人を仲間はずれにしたお茶会の意味などは分からない。

「な、なんで?」
「女子会っです!!」
「女子会……」

 シンシアが復唱してそれからヴィンスを見る。彼は変わらずニコニコと笑っているだけだ。
 女子では無い、だがここで、じゃあヴィンスもバイバイ!などという勇気はなかった。

 それに四人で、とチェルシーが言うからには、四人なんだろう。とにかく気まずい。商店街のど真ん中で突っ立っている私達を少し邪魔そうにしながら人々は行きかう。

 そしてさすがに、自分だけ帰れと言われたサディアスはすこし寂しそうな顔で口を開く。

「あぁ……楽しんできてくれ。俺はもう今日は疲れたな……」
「はいっ!また明日サディアス!」

 チェルシーが元気いっぱい答えて、とぼとぼ歩いていくサディアスの背中に手を振った。先程までのお揃いが欲しいと望む乙女心は一体どこに行ったのだと私は目を白黒させながら「さぁ!行きましょう!」という彼女について行った。


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