悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
72 / 305

倫理観……。11

しおりを挟む




 一度、来客の確認をサディアスにしてそれから、侍女ちゃんは部屋の扉を開ける。

「クレアに用があるらしい」

 サディアスは言うだけそう言って、ヴィンスと二人でやっているババ抜きに集中したいのか、ふと視線を戻す。そう思えばヴィンスは、会話は続かないがゲームの相手なんかは、私以外でもなんの問題もなくできるらしい。
 
 席を立って、扉の方へと向かう。そこから顔を覗かせたのはディックだった。相変わらずフラフラというかふわふわ揺れている。

「君ら、あれだけ険悪だったのに、……今や、クラス一仲のいいチームだね」
「あ、もしかして私の部屋にも行った?ごめんね」
「別に、オスカーが居場所を知ってたからあまり探さなかったし、問題は無いよ」
「そう?」

 私が首を傾げると、ディックは簡易魔法玉に似たような簡素な作りの宝石を取り出した。

「……もしかして、やっと出来た?」
「うん、エリアルがカンカンだったよ」
「カンカンって私に?」
「君に」
「教師棟に入るための魔法玉のお願いをしたのいつだっけ?」
「三週間前だね」
「そんなに調達に時間がかかったの?」
「いや、一日」

 ……ディックにお願いしたのが悪かったか……。まぁ、仕方ない、怒られよう。

 三週間前、エリアル先生に呼ばれているという事を思い出して、私は割と直ぐに、教師棟へと赴いた。けれど、棟に入るために、登録が必要だった。私の魔法玉を登録する訳にも行かないし、既に登録されている、職員用の魔法玉が欲しいとディックに伝えてあったのだ。
 そしてそれを言ったのが、三週間前、そして今、まさに今日思い出して持ってきてくれたらしい。

「……だって、僕はそもそもお使い係じゃないし!エリアルだって人使いが荒いんだよね、面白いことに僕を参加させてくれるなら別だけど?秘密にしたいみたいだから、僕が協力する義理がないと思わない?」

 ディックがツンとした態度でそう言って、ここまで言い訳をするという事は罪悪感はあるんだろうと思った所で、スパンと子気味の良い音が響く。

 どうやら扉の外で待っていたオスカーがディックの頭を叩いたらしかった。

「素直に謝れって、お前、嫌われんぞ」
「……だから?クレアに好かれたいとか思ってないけど……魔法玉は興味あるけど、本体はどうでもいい、ああでも?本体もおもしろ──────

 スパンとまた、オスカーが頭を叩く。なんだかだんだんこの二人の距離感や容赦のなさが上がっているような気がする。

「お前なぁ、いい加減にしろ、お前が夜な夜な言ってる泣き言バラすぞ」

 オスカーのキレ具合も上がってきているらしい。強引に肩を組んで、ディックに顔を近づける。するとディックはムッと頬を膨らませて、私に強引に登録魔法玉を握らせる。

「……僕もちょっとだけ悪かった!」
「っはは、偉いなぁ」

 うりうりとディックの頭を撫でくりまわし、オスカーはそのままディックと肩を組んだまま歩いていく。ディック単体だと、フラフラしているし、約束も授業も忘れる不審者で、感じの悪い人だがオスカーが側に居ると途端にフワッフワッの茶髪の犬のように見えるのは何故だろうか。

「あの二人って独特の雰囲気ありますよね?」

 私の後ろでやり取りを見ていたチェルシーがそう呟く。私も同じような事を思っていたので魔法玉を首につけつつ振り返って同意する。

「ね。夜な夜な二人は一緒にいて?ディックが泣き言言ってるってどういう状況?」
「きっと、鍛錬です、クレア。お互いに限界まで腕立て伏せをして、お互いを称えて本音を話す……そういう友情です」

 シンシアが目をキラキラとさせながらそう言うが、正直よく分からない。男同士だと良くあることなのかと思い、ヴィンスとサディアスを見ると、今日も今日とて、ババ抜きでヴィンスが勝っていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...