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倫理観……。10
しおりを挟む結局、その後に眠ってしまい次の日に学校に行くと、既に私を襲ったチームリーダーの三人が自主退学という形でクラスから居なくなっていた。
サディアスは深くため息をついて、シンシアとチェルシーは顔を見合わせる。ヴィンスは相変わらず私の隣でニコニコとしている。
ディックには謝罪をされて、正直なんの事だか分からなかったが、ディックは学校関係者が家族に居るということなので,、もしかしたら、チームリーダー達の私に対する不祥事を聞いて、気を揉んでいたのかもしれない。
そんな、怒涛の入学一週間はあっという間にすぎ、目まぐるしく二週間、三週間と日にちが過ぎ去り、あっという間に一ヶ月がたっていた。
ちなみに、ローレンスは、お小遣いをしっかりと私にくれた。そのおかげで私はなんとか魔法を使えており、皆には到底及ばないが、それなりに平穏な生活を送ることができている。
「あ、シンシア、ここの問題は公式が違うよ、それはこの前授業でやったほう」
「……」
「シンシア?」
私が教科書を見ながらシンシアに指をさして指定すると、彼女は眉間の皺を深めてギッと問題を睨む。
「こんなもの、覚えて何になると……言うんですか」
振り絞るようにそう言って、イライラからかペンをぎゅうと握り込む。
「将来の役には立たないかもしれないけど……少なくとも成績には影響するかな」
「誰がこんなものを決めたのですか?答えさえ出ていればいいとクレアも思いませんか」
シンシアは筋金入りの勉強嫌いだ、多分このチームで一番、座学の成績が良くない。
たまにこうして、限界を突破してしまうと、座学そのものに対して文句を言い始める。真面目に努力が得意なのは、魔法に対してだけらしい。
でも、そうも言っていられないのが月末テストである。赤点の者がいると、チーム皆の成績に関わるのでこうして土曜の授業が午前中だけの日にサディアスの部屋で勉強をするのが私たちのチームの週間になっていた。
「シンシア!クレアに言っても仕方がないですよ!私だって、こんなものっこの世から消えてしまえと思っているのです!」
「チェルシー、何も私は消えてしまえとまでは言っていませんが」
「いいえ!言っています!」
……いや、言ってなかったよチェルシー……。
「貴方の心がそう、叫んでいるんです!私には分かります!問題集など、教科書など、座学など!消えて無くなって欲しいと」
「……クレア、公式の当て嵌め方を教えてください」
「う、うん。チェルシー、心が叫んでも座学の月末テストは消えないから、とりあえず目の前の問題を解こう」
「……うぅっ、わかっています!けれど、これが終わったら私、学園街に買い物に行きますからっ」
「!私も、買いたいものがあるのを忘れていました」
チェルシーの言葉にシンシアが同調して、パッと顔をあげる。どうにか理由をつけて早く勉強を終わらせたいらしい。チェルシーとシンシアは二人で視線を交わしてにっこり笑う。意思疎通が出来たらしく、この後の楽しみが出来たからかバリバリと問題集の続きを解き始める。
まったく……私は私で体力作りやら剣術の鍛錬やらやる事がたくさんあるなか、こうして勉強を見ているのに現金なものである。
……まぁ、やる気を出してくれるのはいいことだけど。
質問が出るまで私は教科書を読んで時間を潰そうとすると、自ずと隣の会話が気になってくる。
勉強をしている私達とは別に、まったく予習も復習も必要のないサディアスとヴィンスは別のことを練習中である。
目線だけで、私達と同じテーブルで向き合って座ってる彼らを見る。ヴィンスはニコニコ、サディアスはイライラしている。
「今週はどんな出来事があった?」
「そうですね、クレアが深夜に太る~と言いながらお菓子を召し上がられた回数が過去最多の四回です」
「……サポートクラスではどんな授業を?クラスメイトと話をしたか?」
「先週と変わりありません」
「……今日の午後の予定、クレア関係以外で、何かあるか?」
「何もありません」
サディアスは大きくため息をついた。
これはヴィンス自立のためのプログラムとして私が考案したのだが一向に成果が見られない。ヴィンスに自主性を身につけさせるとシンシアに豪語したのだが、彼は思いのほか頑固だった。
こういう時間に他人とたくさん話をして、私以外のことに興味を持ってもらおうという試みである。
ただ正直、成果は出ないしサディアスの負担は大きいしで、そろそろ別の案を出さなければとも思っている。
「クレア、答案はどこにありますか?」
「あ、うん、これだね」
「……けれど、本当に凄いですねクレアは、テストの対策問題まで作れるとは思いませんでした」
シンシアがそう言いながら、私が出した答案と自分の答えを照らし合わせて、答え合わせをしていく。
確かに少し面倒な仕事ではあったが、みんなには剣の稽古をつけてもらったり、戦術を考えてもらったりとおんぶにだっこ状態なので、出来るだけ座学という私の得意分野で恩返しをしているだけだ。
「そうです!クレアは凄いです!勉強もできるし、センスだっていいんです!ね?」
「う、うーん?」
「この後、ブロンズバッチの中で流行っているアタッチメントのお店に行くんです!一緒に来ませんか?」
ブロンズバッチというのは一年生の生徒の総称だ。アタッチは魔法玉に付けることができるチャームのようなもので、それぞれ魔法玉に足りない性能を補ったり、調節することが出来るんだ。
チェルシーに渡された回答を丸つけをしていく。
「……うーん……チェルシー」
ぺけ……ぺけ……ぺけ……。
「お店に行けるのはまだ少し時間がかかりそうだよ?」
「う、む、無念ですっ」
「無念て」
表情をくしゃりと歪めて、チェルシーは丸つけの終わった問題を見つめる。その心底悲しそうな顔に、なんだか可哀想な事をしている気持ちになってしまうが、そうも言っていられない。来週の頭にはテストなのだ。今週遊んでしまったらきっと後悔する。
「頑張ろう?終わったら、皆でお店行こう!」
「……本当ですかっ?」
「うん!」
「わかりました!頑張ります」
チェルシーはまた、机に向き直る。そうしてしばらく時間を過ごしていると、コンコンというノック音でサディアスの後ろに控えていた侍女ちゃんがパタパタと扉に向かっていく。
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