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倫理観……。8
しおりを挟むローレンスは私を寮の部屋まで運び、ベットに下ろす。今更ながら心臓がバクバクと脈打っていて、手足が重い。
けれど、それでも起き上がってローレンスを見上げると、ふと、彼に言わなければならないことがあったと思い出す。
「あ……そうだ……貴方から貰ったお小遣い、全部使ってしまった」
胸元がはだけたままだったが、着替えるというのも面倒になって彼にジャケットを返しながらぽつりとそう言う。
ローレンスは片眉をあげて、妙な顔をする。怒られるだろうと思っていたので案外どうでもいいような反応に少しほっとする。私の手から彼はジャケットを受け取って、突っ立ったまま私を見下ろす。
「不可抗力なんだけど……ほら、私って魔法が使えないでしょ?……だからローレンスがあの時言っていた方法でチームメイトに認められるために学園街で簡易魔法玉を買って━━━━
「こんな事ぐらい把握しているよ」
事情を説明しようと思ったのだが、そう言われ、どこからどのようにその情報を得たのか検討が付かなかったが、まぁ、それならそれでいいかと思い立ち上がる。
ローレンスが持ってきてくれたカバンから、常に入れている空っぽのポーチを取り出した。
私が彼にそれを差し出すと、何も文句を言わずにそれを受け取ってくれる。
「また、くれると助かる。貴方の支援がないと、私また魔法が使えないって思われてしまうから」
……そうなると、とても困る。
真面目に魔法使いを……というかこの場所に留まろうと、私なりに努力はしているから。だから、午後の授業には戻らなければ。
私が居ないとヴィンスとシンシアがまた、険悪な雰囲気になってしまうかもしれないし、それに、サディアスやチェルシーが心配してしまう。
「着替えて午後の授業に……いかないと。助けてくれてありがとうローレンス」
解けかかっているリボンを解いて、髪と手櫛で梳かす。
私が彼を見上げると、やはり彼はなんだか腑に落ちない様な顔をしていて、私は笑顔を作る。
「やっぱり怒ってる?大金貨十枚は大金だもんね」
私がそういうとローレンスはさらに、不可解と言うように表情を歪める。
それから自分が見やすい様にか、私の両頬を片手で掴むようにしてそのまま上を向かせた。
「……」
「……?」
少し怒っているような顔で私をじっと見て、それからローレンスは口を開いた。
「この状況、気にならないのか?」
「……」
彼は空いている方の手で私のシャツに触れて、顕になっている鎖骨を撫でる。アイザックの手とは違い、彼の手はしっとりしていて肌によく馴染む。
ローレンスは、私の顔を離して、私の髪を耳にかけた。
「このポーチがクラスの者の手によって、窓から投げられた事も、君が決闘をしていた事も、チームをまとめるために奔走していた事も私は知っているよ」
「……」
「上級のアウガス貴族、クラリスと交流があった連中を君が警戒しているのも、それにあらぬ喧嘩を吹っかけられた事も、そして、今、君が魔法が使えないと踏んだ君を排除したい人間が、君を追いかけたところも見ていた」
試すように、彼はわざわざ私に話す。
意図は分からない。
「君が襲われたところも私は見ていた」
……そうでも無ければ、あの場に颯爽と登場しないだろ。
今更だ。
「君が殴られ、引き倒され、泣きながら陵辱されるのを、どんな助け方をしてやろうと考えながら見ていた」
……驚きもしない。そのぐらいやるだろう、だって腹黒男だし、悪魔のような人だし。
「それで、君が私に言うことは……お小遣いを使ってしまって怒っている?……と?」
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