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前途多難……。12
しおりを挟むひとしきり泣いた彼女は、スッキリしたいつもの無愛想な表情で、私に剣の稽古をつけた。存外彼女は教えるのが上手い。少し重心が傾いているだとか、剣の握り方だとかそういった部分を指摘して分かりやすく説明してくれる。
泣いて赤くなった頬が引いた頃に、私たちは二人でサディアスの部屋へと戻った。すると、三人はトランプをやっていて、あ、そういえばヴィンスにゲームでもやってなさいと言ったのだと思い出す。
「た、ただいま」
「戻りました……」
私達が声をかけると、不機嫌そうなサディアスは、ジトッとこちらを睨む。で?といった感じだ。助け舟は出そうにない。
私が何かを言う前に、シンシアが私の前に出て、ヴィンスの元へと向かう。
ババ抜きをやっていたのか、トランプを持ったままヴィンスはシンシアに向き合った。
「ヴィンス………………」
シンシアは名前を呼んで、あっちへこっちへと視線を移動させて、口を開いては閉じた。自分の考えが間違っていると分かっても、やはり気持ちの整理はそう簡単につくものでは無い。
そんな様子を見たヴィンスは、ちらっと私の事を見て、重たい口を開いた。
「シンシア様の気に障る事を言ってしまった事、深くお詫び致します」
「ッ、謝るのは……私の方で……」
「謝罪の必要はありません、私はクレアが貴方様と折り合いをつけたのなら何も思うところは無いのです」
どういう感情かは分からないが、ヴィンスはニコッと笑う。その返答に、シンシアはバッとこちらを向いて私の方へとカツカツと歩いてくる。
「彼は、何か……こう、色々と人間的に……」
大きな声では言えないと思ったのか、コソッと私に話す、言いたいことはなんとなくわかった。
私も小声で返す。
「うん、ごめんね。私たちややこしい関係性でって言ったでしょう?解消するように頑張るから、ちょっと待ってて」
「わ、わかった……待ちます」
コソコソと話をして、それから私はみんなの前に進み出た。それから私はなんとなく腰に手を当てて、シャンプーのCMのように髪を手でファサーと靡かせて悪役令嬢フォルムを存分に使う。
「ま、それぞれお話も出来た事ですしっ、一件落着ということですわ!はい!解散!!」
適当に笑って誤魔化し、チェルシー、シンシアを先に自室へと返すと、私とヴィンスとサディアスは、重たい表情で五人用のテーブルに三人で腰掛けた。
「……」
「……」
眉間の皺をほぐすような仕草をしながら、サディアスは口を開く。それを私は、親に酷い内容の成績表が見つかったような気持ちで聞く。
「俺がこのチームをまとめようとしているの、君はわかっていたな?」
「……モチロン」
「今、俺たちは早く、他のチームに合流して、交流や模擬戦をしなければならない事もわかってるな」
「い、一応……」
「君という大きなハンデを背負っているチームが団体戦で勝ち残るには、長い練習が必要で、たとえ歪であろうとも、まとまる事の方が個人感情より優先な事もわかっているんだよな」
「う、うーん」
滔々と言われ、私は、渋々頷く。自分自身がチームにとってのハンデになるというのは、悲しくはあれど、事実であって何も言い返せない。
「それにな、君はまだ、一部のクラスの人間から格下に思われている。つまりいじめの対象だ、何か心当たりあるだろ」
「……うん」
「ポジション別クラスでリーダーとして参加したり、良い成績をのしたり、そうすれば、少しは認められる。実際問題、それぞれが力をふるえば、このチームは弱くないんだ、それを君はまだ個人感情を優先するつもりか?」
サディアスは冷えきったお茶を呑んで、トランプを手に取る。そこからパラパラと探して私の前に置いた。
ジョーカーのカードだ。
「君は異端だ。自覚が無さそうだが」
頬杖をついて、眉間にしわを寄せて目を細める。
「チーム内の不破よりも、君はこのクラス、ひいては学年でも、立ち位置を確保しなければ、進級は難しいぞ。君に他人を心配している暇はない。出来ることは精々、君自身のことだけだ」
「……」
「ヴィンスの事は成り行きに任せたらどうだ、ヴィンスはそのままでも問題ない。今からでもシンシアを説き伏せて、チーム内の上下を作ったらどうだ?このままだと、どんな危険があるか分からないぞ」
ヴィンスは、話に自分の話題を出されても、特に興味もないというか聞いていないような顔をして、テーブルの上の散らばったトランプを集める。
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