悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
47 / 305

なんでこう毎日、忙しいかな……。12

しおりを挟む


 同じ立場に立って、なんのずるも無しに、私は向き合うべきだと思った。

 そして私にも、覚悟が必要だ。前世ではこうだった、ああだったなどとは言ってられない。ヴィンスを守らなければならないし、ローレンスに処刑されないためにも、ここに居場所が必要なんだ。この学園に。

 それは、この中の誰より、たとえ命をかけることになっても、強く望んでいる事だ。

「……死にたく、ない。でも、それと同じぐらい学園を出て行きたくない!」
「ッ、何故ですか!貴方、そもそも素質がない!!将来魔法使いになっても、ろくに戦えないはずだ!!」

 彼女は真正面から打ち込んでくる。私はどれほど恐ろしくても、目を瞑らないようにシンシアを強く睨んだ。

 ……そんな事わかってる。でも……。

「でも、ここにいる以外にっ!!生きられる道がないのよ!!」

 戦う事など好まない、ボクシングや格闘技が好きな人の気持ちを理解できない。私はただ、平和な世界で平和ボケしながら、生きていた。それが好きだったのだと今やっと分かる。

 でも、だからこそ、流されて、他人に自分を決められて生きていきたくは無い、私は私の望む何者かになるんだ。

 だから、戦う自分から。自分の人生を守るために。

 心に強く決めて、すべての魔力を叩き込む。

 その瞬間に、パキンッとガラスが割れるような音がした。込めていた魔力が一瞬にして溶けて無くなり、私の片手で剣を持てなくなる。

 シンシアは次の斬撃を繰り出す。
 
 ……今、か……。

 購入した簡易魔法玉は、粗悪なものだった。酷使すれば、壊れるのなんて、当たり前のことだ。

 私の呆然とした表情に、シンシアも何かを悟り、目を見開く。

 ……あ、まずい、本当に……死んでしまう。

 そう、私とシンシアは両方考えたのだと思う。

 癖で、強く目を瞑った。

 ……、……。

 衝撃はない。恐る恐る目を開けると、ふわふわの天然パーマの髪が私の前で揺れている。

「シンシア!!この人はっ、私はクレアなら、チームにいてもいいって思いました!!確かに、魔法は拙いけどっ、私はっ」

 チェルシーは、円状の魔力でできた盾のような膜を張っていて、それはキラキラと波を寄せるように模様が移動している。
 盾の魔法は、ユグドラシル魔法学園を包んでいる光の波によく似ていた。

 ……庇って……くれたの?

「そもそも、魔法が使えない上に、不真面目でっ、だから私たちは怒っていたです!!でもこんなに、誠意を込めて私たちに向き合ってくれたんですっ、私は許しますっ!!」

 チェルシーが乱入した事により、シンシアは一度、私から距離をとって、それからチェルシーと背後にいる私を見比べる。

「ですか……チェルシー……」
「編入者が良い人とは限りませんっ、私はクレアとチームでいたいと思いました!!ダメですか!シンシア」

 チェルシーの言葉にじんと胸が熱くなる。そう思って欲しいと思って頑張った、だから自分の思いがまっすぐ伝わったことが心のそこから嬉しくて、緊張で張り詰めていた糸が切れる。

 剣を下ろして、シンシアの反応を伺った。

「…………ですが……クレアが許さないでしょう?私たちはクラスを巻き込んで彼女を貶めた。その時点で同じチームでやっていくなど無理な話です」

 シンシアの言葉を聞いてチェルシーが私を振り返る。

 ……そんな悲しい事を言わないで欲しい。私は最初から、認めて欲しくて決闘を挑んだのだ。酷いことは確かにされたが、大元の原因は私にある。

 できるだけ勝気に笑う。情けない姿はこの体には似合わない。

「そんな事、決めつけないでくださいな、わたくしも許します、これで、蟠りは一切無くなりました。……これから私とチームとしてやっていってくれますか?」

 お嬢様言葉と私の喋り言葉がごちゃごちゃしてしまったが、二人は頬を緩める。

「えぇ」
「もちろんっクレア」
 
 これでやっと、魔法使いを目指すスタートラインに立てただろうか。

 ほっと一息つくと全身ボロボロで満身創痍だった事を思い出す。けれど、ここで倒れる訳には行かない、グッと足に力を込めて血が出ている腕を抑える。

「魔力の底が近いので救護室に行ってきますわね……ヴィンス」

 声をかければヴィンスは駆け寄ってきて、さりげなく私の手を取る。本当に私の事をよく見ていてくれて助かる。

 観戦していたクラスの人達は、納得のいっている人、そうでない人、興味の無い人と様々だが、サディアスだけは、また青い顔をしている。トラウマが再発してしまわないか心配だ。

 重い体を引きずるようにして、練習場を後にした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...