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なんでこう毎日、忙しいかな……。9
しおりを挟む決闘と聞くと、私は手袋を投げつけるイメージをするし、実際に前世でやったら決闘罪というマイナー法律に引っかかるとも思う。
午前最後の授業がもうすぐ終わる。私はある一枚の書類を握りしめて、ついでに学園の貸し出し用の剣を腰に携えて、教室のドアの前で待ち構えていた。
「クレア、本当にやるのか?……言っとくが、絶対に君に勝ち目は無いぞ」
「うん」
「それにそんな決闘、いくら教師が許可したからと言って俺は反対だ」
「うん、わかってる」
「おい、ヴィンス!君もクレアを心配するのなら何か言ってやれ」
サディアスがヴィンスの腕を掴んで、興奮気味に声をかける。ヴィンスは、思うところはあるようだが、ふるふると頭を振るだけで私を制止することは無い。
「っ……馬鹿げてる、勝敗をノックダウンに今からでも書き換えるべきだ!いや、一本勝負だって君には致命傷だろう?!」
「そうね」
心臓は酷く高鳴っていて、少し耳鳴りがする。
原作でも、クラリスは割と決闘をしていたし、ララとも対決していた。
魔法を重んじるこの学園や、原作の魔法学校ならではの習慣だが、主張の善悪、揉め事の勝敗、そういうものを当事者自らが決闘をして決めるという風潮があり、それについて異議を唱えるものは原作ではいなかった。
私が決闘を申し込む相手の名前、あとは勝敗の付け方、形式、場所を書き込んだ書類に、教師の印鑑を貰えば決闘の申込書が完成する。
私が書いた申込書は、勝敗の付け方の部分が空欄。それに、時間場所は、これから昼休み、練習場でだ。
こんな急で、しかも昼休みに練習場を使う決闘は、本来教師は判を押さないがそこは少しだけサディアスの力を借りた。力を貸してくれたには、くれたが納得はしていないらしい。
この勝敗の空欄がどういう意味を持つのか、それは私もちゃんと知っている。
『命をかけて戦うと言っているのよっ!!!!』
と、原作のクラリスの名シーンだ。まぁ、ララもクラリスもピンピン生きているが。
つまりはそういう事なのである。
「サディアスには審判を頼むよ、まぁ、要らないと思うけど」
「っ、待ってくれ」
キーンコーンカーンコーンと呑気なお昼を告げる鐘が響いた。
鉄は熱いうちに打つべきだ。今朝の悔しさや怒りは、まだ私の中に残っている。手は震えているし、声も震えるだろうけれど、私は今、今日、決着をつけるのが最善だと思う。
この学園には、真剣に魔法使いを目指している人しかいない。私がどんな理由であれ、不満を向けられる様な事をした人間だということは事実だ。
扉を思い切り開く、ガラガラピシャン!!と大きな音が響いて、ブレンダ先生諸共クラスの全員が、突然やってきた私を凝視している。
全員が鳩が豆鉄砲食らった様な、ぽかんとした顔をしていた。
「決闘を申し込みますわ!!!シンシア!!チェルシー!!どちらでも構いません!!私は、この学園を辞めるつもりはありませんの!!」
力の限り声を張った。皆は私を“お嬢様”と揶揄うけれど、この口調はきっと勇気をくれる。自分の目的のために悪役令嬢であり続けたクラリスの力を分けてくれる。
拳を強く握る。教師の印が押されている決闘申込書を皆に見えるように前に出す。
こういう時こそ悪役令嬢らしくだ。
「受けてくださるかしら?」
彼女達を睨みつけて強気に微笑んだ。
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