悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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なんでこう毎日、忙しいかな……。6

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 話しながら歩いていると噴水に到着する。周りには休憩できるようにベンチが設置してあり、女性の像が持ち上げた瓶から水が流れ出ている。

「寝坊するし、宿題やらねぇし、掃除当番忘れるし、ついでに自分の飯も忘れるんだぜ?」
「良いだろ~、その分、チームには僕、貢献してるし?」
「そりゃあ……そうだがな」

 どんな事で貢献しているのかと疑問に思ったが、勉強、当番、身支度、それら以外で、あとチームに貢献できることなんてあっただろうか。彼は実技があまり得意ではなかった様な印象がある。

 最初の試合の時、圧倒されているように見えたからだ。

 ディックは徐に魔法玉を取り出して光をともす。

「クレア、大切なのはどっち?お金?ポーチ?」

 唐突な質問に私は、なんとなくピンク色のポーチを思い浮かべた。なぜかごく普通に、本当に自然に、お財布の中身より、お財布が手元に戻ってきて欲しいと思ったのだ。

「ポーチ」

 ただ、ちょっと可愛いポーチだなって思ってたんだ。ピンク色だったしふわふわだったし。

「うーん……うん」

 ディックは目を瞑る、それから目を瞑ったままあっちこっちを見渡すような仕草をしてあははっと笑った。

「彼、コントロールがいいね!」
「はっきり場所を言え!場所を!」
「噴水の中!」
「チッ……仕方ねぇーな」

 私は、彼らが何をしているのか分からず、見つめていると、オスカーが靴を脱いで、ズボンの裾を捲る。
 それからジャブシャブと噴水の中に入っていき、しばらく水の中を手でさぐってから、私のポーチを水の中から取り出して私の方に掲げて見せた。

「あったぞー!クレア!」
「うそ……ほんとに?」

 少し信じられなくて、オスカーの持つそれを凝視するが確かに私のポーチである。
 オスカーから受け取って、ハンカチで水分を拭って見るが、確かに私のポーチだ。

「やるなぁ、オスカー。女の子のために水に入るなんて」
「うっせぇ、ディック」
 
 二人はやいやいと押しあっていて、ディックは魔法をといて、強引に肩を組んでくるオスカーに抵抗しつつも、えへえへと笑っていた。

「……本当に……ありがとう。これは……その……すごく」

 大切なもので、と言うと語弊があるような気がした。でも、お金だけではなくこれまで無くしたらローレンス顔向けできないし、小遣いをなくしてしまったことはなじられる様な気がするが、これは持って置いた方がいいと思ったんだ。

 何か上手い言葉が、出てこなくて、モゴモゴと口篭る。

「無くす訳には行かなくて……だから……本当に助かった……から」

 ローレンスに怒られる事は確定だとしても、探したという事実は必要だし、でも、中身が無いのと、もらったお財布まで無くなっているのではローレンスの心象も変わるのかなと思うし。

 この二人がいなければ、私とヴィンスが宛もなく、探し物をしながらさまよい続けるのをクラスの人達がまた、ニヤニヤしながら見ているのかなと思ったら、それはそれですごく嫌で。

「……ありがとう」

 私から何か返せるものがある訳でもなく、ただただ感謝の言葉しか出てこなかった。

 私の言葉に二人は、どちらとも少し照れくさそうにして、暫くの沈黙の後口を開く。

「……どういたしまして!クレア」
「別にどうってことねぇよ」

 二人は間逆の反応をして、それから顔を見合わせて笑った。


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