悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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なんでこう毎日、忙しいかな……。4

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 入ったことはなかったが、学園の庭園は広大だ。大きなバラ園から始まり季節の花々が咲き誇り、常に質の高い手入れのされている生垣や芝生。どこを取っても絵になる素敵な場所だが、今やその大きさが恨めしい。

 庭園の中心部には大きな噴水があり、その辺りにポーチが飛んで行ったように見えたが、この広大な庭園では小さすぎて大金貨は見つけられないだろう。

「……ヴィンス、魔法が使えないって……あそこまでされる事なのかな」
「そうですね……これは懇親会で説明されたことなのですが、チームに欠員が出た場合、編入者を募集する事があるようです」
「編入者?」
「えぇ、学園が補欠合格者に声をかける制度です。あのチームメイトの女生徒二名はそれを狙っての行動だったのではないでしょうか」

 なるほど、これだけ大きな学校だ、受験で漏れた者もいるという事も分かるし、チームが重要とされるカリキュラムなので、欠員が出ていては対戦ができない、そういう人のための措置か。

 そしてそれを逆手にとって、逆にチームに不利な人間を排除して良い編入者を手に入れようとしていると。

「でも、器物破損だし、いくらそういう理由があっても、人を打っていい理由にはならないもの」
「はい、その通りでございます。彼女に決闘を申し込みましょうか?」
「……や、やめとこう」
「左様ですか」

 ヴィンスは、遠慮は必要ないとばかりに「いつでも言ってくださいね」と笑って私を元気づけてくれる。

 それにしても、編入者なんて大切な情報を聞き逃すとは、私も間が悪いものである。懇親会、入学式、入寮式。全部、色々な説明をされる場所だ。どれか一つだけでも参加しておきたかった……。

 後悔しつつ、噴水へと向かう道を大金貨が落ちていないか探しながら歩く。

 すると背後から足音が聞こえて来た。それは駆け足でこちらに近づいてきていて、もしかすると私を罵ったうちの誰かが追いかけてきたのでは、と思いぎごちなく振り向く。

「クレアー、捜し物手伝うぞー」

 遠くから手を振って来るのは、オスカーだった。その後ろにはディックも居る。

「オスカー?!あなた授業は!」
「座学なんて出なくても余裕じゃね?お前には負けたけどな!」

 そう言って彼は快活にニコッと笑う。彼は、私と仲が良い事をクラスの人に知られたくないのだと思っていたが、追いかけてきてくれたらしい。

「でも、大丈夫?皆からその……」
「いいんだ。今まで声掛けたり出来なかったし、俺、情けねぇなって思ってたんだ。それに今日のはどう考えても、クラスの連中がやりすぎだろ?」

 言われて一人でもそう思ってくれた人がいた事が嬉しくなり、思わず彼の手を握った。

「貴方って第一印象以外はすごい良い人!」
「それを言うなって」

 そう言いながら、彼は照れくさそうに笑って頬をポリポリとかく。続いて後ろについてきたディックに声をかける。

「ディック……えっと」
「クレアだったっけ?話すのは初めてだよね。……よろしく」
「うん、よろしく」
「ひとつ君の勘違いを正しておくけど、僕、別にお金に困っていないから」
「??」

 彼はボリュームのある明るい色の髪を揺らして体を左右に揺らす。面と向かって話をするのは初めてだが、やはり彼はブカブカの制服をしているし、中身のシャツは少しよれている。

「そもそも、外見だけですべてを判断できると思う君らが浅はかだね。ま、僕も他人と上手くやろうなんて考えてたのが悪かったんだけど」

 まだゆらゆらと揺れている。癖か何かだろうか。
 
「まぁ、それでも君の正義感の強さには感服したけどね。おかげでオスカーが偉そうにしなくなったから、僕も身の上が話しやすかったよ、ありがとう。そんなわけで、恩を返しに来た」
「あ、うーん?」
 


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