悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
38 / 305

なんでこう毎日、忙しいかな……。3

しおりを挟む



 集団のうちの誰かが、私の鞄をテーブル横のフックから取り中身をバラバラと床にぶちまける。
 
 まだ登校三日目だと言うのに、大惨事だ。ここまでされる事をした覚えはないが、とにかく荷物が散らばった事は事実だ。

 床にはペン、教科書、メモ、ノートなどたくさんの物が広がって、踏み潰したりはされないが、拾わ無ければならない事は確実で、無視は出来ない。
 ヴィンスも立ち上がって、私は仕方なく、通路に落ちているものを拾い始めた。

 くすくすと周りの人間の笑い声が聞こえて、これを拾えば満足してくれるかなと呑気な事を考えた。
 すると、鞄に入れていた中で一番大切なものがない事に気がつく。

 あっと気がつく頃には誰かが声をあげる。

「ヒュー、大金じゃん!」

 私達のお小遣いが入ったポーチは、開封されていた。非常にまずい、まだそこには大金貨が八枚つまり四十万ほどの金額が入っているんだ。私の大事なものは持っておこうの精神が裏目に出た。
 
 中でも一番お調子者の男子が、それを持って、たたっと窓辺へ駆けていった。

「でもこんな小銭“お嬢様”には要らねぇだろっ」
「やめて!」

 魔法を使ったのか目にもとまらぬ速度で投げられて、私のお小遣いポーチは開け放たれた窓からピューンと放物線を描いて、学園前の庭園の方へと飛んでいく。ボタンを外しっぱなしだったので、大金貨をキラキラと撒き散らして落下していく。

 しばらくそれを呆然としながら眺めた。周りの人間は、皆、私の反応を伺っていて、ひとつため息をつく。誰も私を虐めることを悪びれない。個人だったら、これだけの事をするまでに段階があったんだろうが、私は目立つし魔法は使えないしで邪魔者を排除しようとする結束力が強いのだろう。

 ニヤニヤする彼らを、もうこれ以上刺激しないように、手伝ってくれるヴィンスと一緒に荷物を拾い集めて、乱暴に鞄に詰める。いくつかペンが折れてしまっていたり、教科書が破れていたが気にしている暇はない。

「…………ヴィンス探しに行こう」
「はい、クレア」

 私がそういうと彼らは面白おかしく反応する。

「わたくしめもお供致しましょうか?!“お嬢様”!!」
「うわー!やめてやれよー」
「あれだけ金持ちぶってて探しにいくの?!だっさぁ!!」

 アハハっと笑い声がした。まぁ、オスカーの件は自業自得だから仕方ないんだけど、それなりに……というか割と、心がえぐられる。

 教室を出ると、ちょうど担任であるブレンダ先生が教室に来るところで声をかけられる。

「クレア・カトラス。教室に戻りなさい!始業ですよ!」
「……あー、教科書を忘れたので取ってきます」

 私が少し気まずくそう返すと、彼女は私の方へとつかつか歩いてきて、ぽんと頭に手を置く。

「早く戻ってくるように!」
「はい」
「それから、相談事があれば教師棟に来なさい!」

 彼女は、頭をぽんぽんとする。こんなタイミングバッチリに先生がいるのにはびっくりしたが、もしかしたら外で聞いていたのかもしれない。

 ……教師なら止めに入るべき案件じゃないの?

 そう考えて、それから自分の思考を恥じる。こちらの世界では違うのだろう。特にこの学園では。私は魔法を使えなかった、それはきっと退学になってもおかしく無いのだ。

 ……だから、ブレンダ先生も庇えないんだ。

 わかっていつつも、少しイラついてその手を払う。

「相談事なんてありません、失礼します」

 すぐに踵を返して歩き出した。悔しさと、どこに向けることも出来ない涙が滲んでいて、それを振り払うようにして庭園へと走った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...