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なんでこう毎日、忙しいかな……。3
しおりを挟む集団のうちの誰かが、私の鞄をテーブル横のフックから取り中身をバラバラと床にぶちまける。
まだ登校三日目だと言うのに、大惨事だ。ここまでされる事をした覚えはないが、とにかく荷物が散らばった事は事実だ。
床にはペン、教科書、メモ、ノートなどたくさんの物が広がって、踏み潰したりはされないが、拾わ無ければならない事は確実で、無視は出来ない。
ヴィンスも立ち上がって、私は仕方なく、通路に落ちているものを拾い始めた。
くすくすと周りの人間の笑い声が聞こえて、これを拾えば満足してくれるかなと呑気な事を考えた。
すると、鞄に入れていた中で一番大切なものがない事に気がつく。
あっと気がつく頃には誰かが声をあげる。
「ヒュー、大金じゃん!」
私達のお小遣いが入ったポーチは、開封されていた。非常にまずい、まだそこには大金貨が八枚つまり四十万ほどの金額が入っているんだ。私の大事なものは持っておこうの精神が裏目に出た。
中でも一番お調子者の男子が、それを持って、たたっと窓辺へ駆けていった。
「でもこんな小銭“お嬢様”には要らねぇだろっ」
「やめて!」
魔法を使ったのか目にもとまらぬ速度で投げられて、私のお小遣いポーチは開け放たれた窓からピューンと放物線を描いて、学園前の庭園の方へと飛んでいく。ボタンを外しっぱなしだったので、大金貨をキラキラと撒き散らして落下していく。
しばらくそれを呆然としながら眺めた。周りの人間は、皆、私の反応を伺っていて、ひとつため息をつく。誰も私を虐めることを悪びれない。個人だったら、これだけの事をするまでに段階があったんだろうが、私は目立つし魔法は使えないしで邪魔者を排除しようとする結束力が強いのだろう。
ニヤニヤする彼らを、もうこれ以上刺激しないように、手伝ってくれるヴィンスと一緒に荷物を拾い集めて、乱暴に鞄に詰める。いくつかペンが折れてしまっていたり、教科書が破れていたが気にしている暇はない。
「…………ヴィンス探しに行こう」
「はい、クレア」
私がそういうと彼らは面白おかしく反応する。
「わたくしめもお供致しましょうか?!“お嬢様”!!」
「うわー!やめてやれよー」
「あれだけ金持ちぶってて探しにいくの?!だっさぁ!!」
アハハっと笑い声がした。まぁ、オスカーの件は自業自得だから仕方ないんだけど、それなりに……というか割と、心がえぐられる。
教室を出ると、ちょうど担任であるブレンダ先生が教室に来るところで声をかけられる。
「クレア・カトラス。教室に戻りなさい!始業ですよ!」
「……あー、教科書を忘れたので取ってきます」
私が少し気まずくそう返すと、彼女は私の方へとつかつか歩いてきて、ぽんと頭に手を置く。
「早く戻ってくるように!」
「はい」
「それから、相談事があれば教師棟に来なさい!」
彼女は、頭をぽんぽんとする。こんなタイミングバッチリに先生がいるのにはびっくりしたが、もしかしたら外で聞いていたのかもしれない。
……教師なら止めに入るべき案件じゃないの?
そう考えて、それから自分の思考を恥じる。こちらの世界では違うのだろう。特にこの学園では。私は魔法を使えなかった、それはきっと退学になってもおかしく無いのだ。
……だから、ブレンダ先生も庇えないんだ。
わかっていつつも、少しイラついてその手を払う。
「相談事なんてありません、失礼します」
すぐに踵を返して歩き出した。悔しさと、どこに向けることも出来ない涙が滲んでいて、それを振り払うようにして庭園へと走った。
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