悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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そういうタイプの化け物か……。9

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 ヴィンスは珍しく、私の声にも答えずに魔力のやどった瞳を維持したまま、沈黙する。
 私は汗をだくだくかいて彼の返答を待っていると、数十秒だったのか、数十分だったのか分からないが、やっとヴィンスが言葉を発する。

「……構いません。元々、私は慰みものですから」

 その発言にギョッとして、はわわわっと私の頭の中で何人もの私が慌て出す。

 ”慰みもの”というものが良い意味を持たないことを知っている。こんな児童文学の中の世界に登場していい設定じゃない。

 そう言ったらローレンスだって、本来ローレンスのロの字だって登場してはいけないような人物なのだが。

「貴方様になら、魔力を注ぎ込まれようとも、どんな陵辱を受けようとも、お傍に置いてくださるだけで文句など言えないのですから」

 ……重症だ。とっても良くない。いくらなんでもそんなこと言ってはいけないだろう、自分の体や心を大事にするべきだ。

 ……というか、魔力を注ぐ?二人の魔法玉を合わせると私に自動的に、重複使用になって、お互いの魔力がまざるんじゃないの?

 強く魔力を込めるともしかして、強い方が注ぎ込む形になるの?そうなると、私がローレンスにやられたような苦痛をヴィンスに味わわせてしまったという事?……やばいことをしてしまった。しかし、それでも、凌辱する気などない。

 従者らしくしていたいのは、百歩譲って性格と認めるとしても、何でもしていい相手なんて居てはいけない。

「ち、ちなみに……クラリスがそういう事したことは……あったのとかって聞いていい?」
「ありません」

 踏み込んだ質問だったが、はっきりと返答が帰ってきて安心する、そうだよクラリスは、悪役令嬢だといっても純粋で少しやりすぎちゃうだけのいい子なのだ、ちゃんと分別が着いているんだ。あ、いや、それが原作での姿だったが、彼女の本性だったかは、まだよくわからないが。

 まぁ、本当にちゃんとした子ならヴィンスに何も知らせず、二人で幽閉されるような罪を犯すような事しなかったのかもしれないけど!!

 ヴィンスは、まだ私が、魔力を注ぎ足りないのだと思ったのか、おずおずを首から外して、魔法玉を私に差し出す。
 それに触れると、またビクリと反応する。

 というか、なんで急にヴィンスは、自分がその……慰みものだと言ったのだろう。いつもの、下僕や従者でいいじゃないかと思ったが、ある仮説が一瞬、頭をよぎってそのまま口に出した。

「……他人の魔法玉に魔力を注ぐって、なんか私が魔法を使えるってこと以外に意味があるの?」
「魔法使いの間では契りを交わす意味があったり、ごく少数ですが好んで行うものがいるという事は……聞いたことが……あります」
「何かいいことがあるの?」
「……快感を伴うという、俗説があります」

 ……わぁー。それはなんと言うか、わかる気がする。意図せずとも一度やって見てしまったからにはわかってしまう。そしてやられる側の気持ちも分かる。良くないことだ。

 まぁ、でも一回は一回。もう彼に、自分は慰みものだから、などとは口にさせないことにしよう。

「ヴィンス、やってみて?」
「は、は?」

 ヴィンスはびっくりしすぎたのか、気の抜けた声を返した。

 私は自分の魔法玉を外して、彼の手に乗せつつ魔法を発動する。今度は魔力を流し込んでしまわないように、ごく弱火の火をつけるみたいなイメージをしながら光らせる。

「快感を感じるかやってみて欲しいの、ほら」

 近づいて彼の魔法玉と触れ合わせて握り込ませるとヴィンスは驚いたようで反射的に魔法を発動する。

 「っ……」

 確かに体の中に違和感がある、自分の体の筈なのに、違うものが入ってきてるのだから当然と言えば当然だが。
 ただ、正直、ローレンスの時とは比べ物にならないほど、嫌悪感が少ない。むしろムズムズするような、くすぐったいような。ゾワゾワする感覚だ。  

 また、知らない感覚に眉間にシワを寄せる。しかし、これはちょっとヴィンスがセーブしているせいじゃないだろうか。

「ヴィンス、もっと、いっぱい」

 私が、彼に顔を近づけると、彼の方がすごく困ったという顔をして目をぎゅっと瞑り、魔法玉が光をつよく纏う。体勝手に引き攣るような、内側から別のものに侵食される感覚は確かに恐怖を感じるが、やはりローレンス程の生理的嫌悪感は湧かなかった。

 それから、自分の魔法が発動したのを感じて、手を開いたり閉じたりしてみる。

「っう。クレアッ、もういいっですか?クレア」
「ん、いいよ」

 私がそう言うと、彼は、はあっと艶っぽい吐息をついて、額の汗を拭う。

 それから、自分の胸元に手を当てて、少し目を瞑った。そして暫くの沈黙の後、魔法を解いて目を開け私に視線を向ける。

「申し訳、ございません、……っ、私…………クレア、不調はございませんか」
「……うん、特にないよ」

 ヴィンスは途中で言葉を切って、私を気遣う言葉を言う。魔法玉も私の首にしっかりと掛けてくれて、跪いて私の手をとりキスをする。

 ここで、気持ち良かった?と聞けるほど神経図太くない。私はただ少し恥ずかしくなって、ヴィンスの頭を撫でた。
 良くない、なんと言うか、らしくないことをしてしまった。

 反省して、魔法玉をしまう。怪我をした時に出たアドレナリンがまだ残っているのだろうか。




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