悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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そういうタイプの化け物か……。7

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「クレア!お前の試合、派手だったな」
「どーも、でもオスカー、貴方、人の事言えないじゃない」

 派手さでいけばララに一撃で吹っ飛ばされたオスカーだって、私に勝るとも劣らない。

「いやぁ?コートが血飛沫で汚れて、悲鳴が上がったんだ、クレアの方が派手だろ」

 自分のその姿を想像して、あははと苦笑いをする。

「活躍で言えば、そこの……ええーと」
「ヴィンス」
「そう、ヴィンスが一番の大健闘だったな?」

 私の部屋の掃除をしていたヴィンスに声をかける。私が一緒に話そうと手招きするとヴィンスはそばまでよってくる。

「……ありがとうございます、オスカー様」

 少しオスカーを警戒しているようで、距離感が遠い。それにオスカーも気がついているようで、ヴィンスが警戒する理由である朝の問題について触れる。

「悪かったって、今朝はカッとなっちまって、クレアとももう仲直りしてるんだ。それに、あの騎士様を昏倒させるようなやつの連れに手なんか出しはしねぇって」
「左様でございますか。……私はただ主の命令を守るのみです、どうお気遣いなく」

 警戒していても、いなくとも、ヴィンスは他人とかかわる気が無いらしく、オスカーもそういう気質だと納得したのか「ああ、わかった」と返事を返す。

「ねぇ、オスカー。騎士様って、コンラットの事?」
「ン?ああ、そうだな。おっかない騎士様って平民連中じゃ有名だな。特に今はほら、ローレンス殿下のご婚約者様の件で揉めたララに、随分ご執心だとさ、クレアもララには気をつけとけ」

 私が直接、王子やララと関わりがあり、気をつけるどころじゃないことを彼は知らずに忠告してくれる。

 私も本当に、普通の魔法使いを目指す平民だったら良かったんだけどねぇ。

 そうは問屋が卸さないってね。はぁ……。

「うん、ありがとう。ところで要件は何?わざわざ雑談しに、私の部屋まで来たんじゃないでしょう?」
「ん、ああ、今朝の件、改めて謝罪しようと思ってな。それから見舞いだ。さっき学園街で買ってきたんだが、女はこういうの好きだろ?」

 手提げ袋を差し出されてとっさに受け取る。遠慮するべきじゃないかとも思ったが、彼はパッと手を離して、快活な笑顔を浮かべる。

「夜に邪魔して悪かったな!傷は治っても魔力は減ってるんだ、しっかり休めよ」
「う、うん!おやすみ!ありがとね!」

 彼は扉を開けて出ていき、とっとっとと足音が去る。それを見送っていると、ヴィンスがにっこりと手を差し出している。持ちますよ、開けますよ、ご用意しますよ、そんな心の声が聞こえ来そうなほど従者らしくしていたので渡してみる。

「……あぁ、ハーブティーですね。疲労回復などの効果があるものです。お淹れしましょうか?」

 ……自分で入れると言ったらダメだろうか。でも、淹れ方も分からないし……。

「お願い」
「わかりました」

 テーブルに腰掛けて、今日の出来事を綴っていたノートを開く。この世界に来てから、あった事、原作での事、全てをこのノートに書いて整理している。

 魔法玉の事、クラリスの事、ローレンスの目的などなど、まだまだ沢山の疑問があるが、段々と魔法の事については理解出来てきている気がする。

 とにかく、今日ローレンスが言っていた、私の魔法玉の欠陥の事を先生に相談して見て、落第にならないか聞こう。

 結局ローレンスは、優秀でなくても私を魔法使いにしたいらしいから、多分、問答無用で落第になることは無いと思うし、それに、ローレンスは何かと処刑を引き合いに出してくるが、それも交渉材料にしているというだけで、実行する気はないはずだと思う。

 ……だから、怖がることは……ない、はずなんだけどなぁ。

「はぁー……」

 今日の出来事を思い出してげんなりする。

 彼の人となりだけはこのノートに、文字で表せる気がしなかった。

 彼に対する嫌悪感というか忌避感は説明しづらい。あえて言うなら、性格が悪い所が嫌いだというぐらいだろうか。

 それ以外は、顔だってアイドルみたいにイケメンで、声は聞き取りやすくて、怒鳴ったり暴言を吐いたりはされていない。

 なのに無性に嫌なのだ。

 それに、性格が悪いくらいで済んでいた時はまだよかった、さらに嫌だったのは、私の魔法玉をたとえ私の治癒に必要だからと言って勝手に使った事だ。

 他人の魔力が、流されるのがあんなに不快だとは思っていなかった。それを知っているはずの彼はいたって平然としてやった。あれで嫌いにならない人間はいないのではないだろうか。

 それに、絶対ローレンスは何か、とんでも無いことを企んでいる。そしてその作戦に私は必要なんだ。だからああいう風に私を探ろうとしてくる。

 けれど、心底憎いだとか、嫌いだとかそういう風に、もしくは愛だとかの情を向けると、ララ視点から見て完璧な王子様だったように、彼のあの腹黒い本当の姿から離れた、彼の言っていた、私の思い描くローレンスに擬態するのだろう。

 そう考えると彼はそういう、特殊な化け物のようにも思えるが、本来であれば、それが他人に露呈することは多くないはずだ。彼が言った通り、私が特異でイレギュラーだからだ。

 ララ視点からの話を知っていて、クラリスからも話を聞き、クラリスの体に入った、私だからこそ、まずローレンス自身がどんな人間なのかを疑ってかかれた。

 このことだけには、既に詰んでいるこの状態で成り代われたタイミングを褒めてやってもいいかもしれない。

 おかげで、彼には何か思惑があることが確かにわかっているのだ。

 そして彼の思い通りになったら、絶対に私にとって良いことはない。だまして従わせようとしていたくらいだ。

 絶対に、私に不利になる思惑のはずだ。その思惑をなんとか、阻止して、関わりが無いところまで逃げることしか、ローレンスの手から逃れることは出来ないだろう。

 あの人は悪魔のような人だ。そうに違いない。


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