26 / 305
そういうタイプの化け物か……。6
しおりを挟む……私は、何者かになりたい人だった。けれど何も出来ずに自分を定義するものを見つけられずにいた。それでも、それを望むのが人間の性だと思ったし、私はそれがとても大切だと思っていた。
私とは、真反対の人なのかもしれない。王子様なんて言う大層な地位はあるけれど、何者かである事に意味を見出していない。誰かの恋人になりたい、仕事で充実している人になりたい、そう望むものが彼の中に無いから私に問うのだ。
そう考えるとしっくりと来て今までのローレンスの言動が何となくわかる。あからさまなスキンシップと私を責め立てる言葉、厳しく無感情な態度と優しく朗らかな表情。
それからあの観察するような瞳。
全部、私からの反応を引き出したかったから起こした行動だとすれば分かるような気がする。
そして、本物の彼はじゃあどんなのか、というは、今の言葉たちはとても素っぽく感じた。
「クレアには……もう少し憎まれ役に徹するべきだったかな。まぁ、イレギュラーだったんだ仕方ない」
ローレンスのことは、憎くはない。けれど好きでは無い。というか、一般的な常識家庭の中で育ってきたので、人をものすごく憎んだ事がそもそもない。
「クレア、ねぇ、もう少し怖い人という定義を教えてくれ」
知らないし分からない、というか結局この人の根本がわかったからと言って、なんのために私を魔法使いにしようとしているのかは不明のままだ。
そして、私の思い描くローレンスを彼が完全に理解できたら、それは結局、変わらず手のひらで踊らせるのだろう。その私の感情を理解して、ローレンスは動くのだろう。
きっとそうやって原作でも、色々操っていたんじゃないだろうか。ララに魅力的に見えるように演じて、クラリスが動かざる負えない状況を作った。
そして、地位の無くなったクラリスを今度は籠絡しようと画策する。イマココだ。
じゃあ、その手から逃れたクラリスはローレンスより一枚上手だったのかな。
そう思うと少し嬉しい。
彼女はどうやって、ローレンスの思い通りにならないようにした?それはクラリスがローレンスはこうであって欲しいと願いを開示しておらず、彼を愛して嫉妬に狂ったように演技していたからだ。
「……ふふ」
「何か面白いことでもあった?それとも痛みのせいで、頭が可笑しくなっているのかな」
なんて言葉だ。冗談のつもりだったらまったく面白くない。もしかしたら本物のサイコパスなのかもしれないなこの人。
「今のままでいいんじゃない。……貴方は別に」
なんだか彼にもう何も言う気も起きなくて、眠たいので目を瞑る。そうずると、ローレンスは急に私に覆い被さるようにしてベットに上がってきた。スプリングがギィっと音を立てて軋む。
「眠るな、私が話をしているだろう?君にそんな権利はないよ」
目を開いて、じっと彼を睨む。
……自己中だなぁ。
でももういい、何も言うまい。だってなにか望むと私の想像をローレンスが受けとっていいように操られてしまうのなら……何も見せないことだ。ローレンスに何も望まなければいい。
クラリスのように嘘はつけないから、重要なのはせいぜい彼に何も言わないことだ。
抵抗するきもなくローレンスを見上げていると、彼は自分の魔法玉を出してふわりと光らせる。翡翠の瞳が夢のように美しくて、ぼんやり見上げた。
「君への接し方は何が正解なんだろうね」
「ありのままでいいんじゃない」
「……魔力を込められるかな」
「できない」
「……」
無言の笑顔で私を圧力をかけられて、しかたなく、魔法玉をチカチカ光らせた。遊び心のつもりだったが、ローレンスは何も反応を示すことなく、私を見続けるので大人しく魔力を込める。
こう何度もやっているとわりと慣れてきて、簡単に光が灯る。
そうすると彼は、私の魔法玉と一緒に自分の物を合わせて握りこんで、私の頬に手を添えた。その瞬間に全身の肌が粟立つ。生理的な嫌悪感を覚えて思わず、うっと嘔吐く。
「君の魔法玉に異常があった時点で、対策ぐらいは立ててあったからね、仕方ないから直してあげよう」
「うぐっ」
血液型の合わない他人の血をだくだくと輸血させられているような気持悪い、異物感に、胃の中のものがせりあがってくる。
嗚咽を漏らして、喉が引き攣り涙が滲む。
頬や肩に光が集まって私の傷を癒していく、熱く発熱するように一度痛みが大きくなったあと、ゆっくりと引いていく。
シュワシュワと魔力の音なのか傷が治る音なのか変な音が聞こえて、頭がぐわぐわする。
「簡易魔法玉を重複使用するのと同じ原理だ、君の魔法玉のコアは欠損している。それを他のコアでこうして補えば、君は魔法が使えるという事だ。教えずに君が苦しんでいる所を見るのも愉快だと思ったんだが……弱っていては虐めがいがない」
吐きそう……気持ち悪い。
朝以降何も食べてないし、なんなら朝だってろくに食事が取れていないのだから、胃の中は空っぽのはずだ。それでも胃液がせり上がってくる。
光がふわふわと霧散して、治療が終わったと思うと、ローレンスは私の脇に手を入れて持ち上げベットから降ろし、乱暴に立たせる。
「ほら、私がわざわざ君の世話を焼いてあげたんだ、少しは罵るなり媚びるなりして見せてくれ」
私の足は産まれたての小鹿のようにガクガクと震えており、立ってるだけで息が切れて、苦しい。治ったからと言って傷ついたことは無かったことにはならないようだ。体力を沢山使っている。
「クレア、足を震わせてる場合じゃないよ?口を使って話をしなければ、私の計画に君は必要だけど、健康である必要はどこにも無い。死んでなければどうとでも使いようはある」
はひ、はひと私はまた、可笑しな呼吸を繰り返し、膝を抑えて座り込んでしまわないように、体に酸素を取り込み続ける。
「私の言葉が理解できないのか?これ程、丁寧に、君一人のために王子である私が手間をかけてやっているんだ、お礼のひとつでも口にしてくれないか、いくら私でもこう反応がないと寂しさを覚えてしまう」
両手で頬を包まれ顔を上に向かせられ、強制的に彼と目が合う。
「ああ、せっかく魔法で君を治したというのに、どういう訳か顔が蝋人形のように真っ青だ、可哀想に。でも私が話せと言っているんだよ?無理してでも答えなければならないよね、出来ないのなら、処刑してしまうかもしれないな」
ひゅっと息を飲む。言葉の濁流に飲まれて、すべてがパーっと真っ白になって、そのまま意識を飛ばした。
3
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる