23 / 305
そういうタイプの化け物か……。3
しおりを挟むさすがに二階から飛び降りる勇気はなくて、階段で急いで向かった。
到着すると、先生の元には武器がたくさん用意されている木箱があり、その前にいるのは先程まったく声の聞こえなかった声が小さい先生がいて、手前にもう一人生徒がいた。
私の顔を見た途端、目をまん丸にして、それから、何とか取り繕った笑顔を私に向けた。
「はじめまして……サディアスです、どうぞよろしく」
彼は燃えるような赤毛の青年だった。立ち振る舞い、それに自前の剣を持っているようで貴族だとすぐにわかる。
貴族っぽいのだが、現在平民の私に彼は戸惑いながらも頭を下げた。
「??……よろしくお願いします」
敬称をつけて呼んだ方がいいのか、呼び捨てにしていいのか分からずに、返事だけして武器を選ぶ。重さや長さが違うだけで剣ということに変わりはないので、適当にいちばん小さいものを選んだ。
……あれ、あれぇ……重いな。
女子生徒も軽々と操っていた三十センチ程の片手剣が重い。この体はこれでもアウガス魔法学校でララと戦っていたことのあるクラリスの体だ。こんな風に感じる原因を考えるとすると、幽閉生活で筋力も体力も低下しているという可能性が大きいだろう。
私が戸惑っている間にも、サディアスは魔法玉を起動し、それを見たエリアル先生がボソボソと何かを言っている。
「魔法は……かな…………、す、…………、……」
試合の音でかき消されて話が聞こえない。
私が一生懸命に耳をすませている間に、現在の試合が終了する。
サディアスがコートへと入ったので私もそれに続く。なにかの注意事項だったのかもしれない。
エリアル先生が何を言っていたのか気になりつつも、所定の位置について、サディアスと向き合い魔法玉を取り出す。練習しておいた、魔力を込めるということをやれば一応光は灯る。
……合ってるのかなこれ。
向かい合うサディアスの瞳は真剣そのものだ。敵意という程でもないが、私の事をしっかりと警戒して試合に備えていることが分かる。
周りからの上がるヒソヒソとした小さな声、どこを見ても私を見ている視線がある。
そりゃ注目されるか……。
ダメだ、魔法玉に意識集中……しないと。
熱を込める、暖めるようなイメージで魔力を込める。ダメだ、やっぱり……。
どれほど魔力を込めてみても、私のお月様みたいな魔法玉のコアは……ドーナツみたいに真ん中が透明なのだ。ぽっかり色の無い部分が存在していてガラス玉のようになってしまっている。
ま、まぁ、周りは光っているのだし……大丈夫では?まだ一回も魔法使えた事ないけど。
私の目にもしっかりと魔法の光が宿っているようで、バイロン先生はサディアスの事もしっかりと確認してからすっと手を上げる。
あっ、始まる。
「っ」
なんとか両手で持って剣を構えてみるが、しっくり来ないし相手に打ち込める気がしない。
なんだかコスプレイヤーにでもなったような気分だ。
不安になって、剣先越しに、サディアスと目を合わせる。私を射抜くような視線にまずいと本能が叫ぶ。
これは私、同じ土俵に上がれてないっ!!
中止を訴えるべきか?でもまた変人エピソードが増えてしまう、ヴィンスだって一緒にいる私が笑いものにされたら嫌だろう。
即座にそう思考してしまい体が固まる。コートを囲んでいる生徒達は、問題ばかり起こす私に、色々な感情の混ざった目を向けている。消して好意的ではない多くの感情に晒され、目を瞑ってしまった。
「始めぇ!!」
過敏になった神経は、バイロン先生の号令に過剰に反応して剣を握る手にこれでもかと力を入れた。瞬間、体に衝撃が走って内臓が浮くような感覚。
防衛反応に抗って微かに目を開く、見えた光景は驚いた表情を浮かべるサディアスの顔だった。
耳が遠くなって、辺りの喧騒も自分の心音でさえ聞こえなくなる。
この状態には既視感があった。
2
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる