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そういうタイプの化け物か……。2
しおりを挟むしばらくヴィンスと魔法について話をしながら試合を観戦しているが、私の順番はまだ来ない。出来れば早く終わらせて、気楽に見たいのに落ち着かない心地だ。
しかし、ずっと観戦していると、単調な試合が多いせいもあって段々と飽きが出てくる。練習場の散策でもしに行こうかなと、そんなことを考えていた矢先、この学年で最も注目株の生徒が出てきた。
他の生徒も、貴族も、もちろん王族であるローレンスだって一番、注目している人だろう。
自信に満ちた桃色の瞳が光を孕む。ふんわりとした栗色の髪が動きに合わせてさらりと揺れている。
所定の位置に到着し、彼女が空を掴む仕草をすると、光の波が渦巻いて彼女の十八番の魔法武器が登場する。
おおっと会場が湧いた。先生までも期待の眼差しを向けており、さもそれが当たり前かのように、ララは笑みを浮かべて武器を構える。
主人公らしい、元気で天真爛漫な性格、そして飛び切り愛らしい顔つき。けれども持っている武器は凶悪だ。ここだけは原作小説の中でもギャグ要素だったのではと思っていたが、原作のビジュアルから少し大人びた彼女にはピッタリだと思った。
ステッキのような持ち手部分、他人を殴打する様の重たい素材でできているヘッド。
……メイスって……まぁ、確かに技術がなくても使えるという点では、いきなり魔法学校に入ったララに取ってはピッタリの武器だったのだと思うが……。いかんせん主人公のイメージというか、そういう物が崩れている気がしなくもない。
しかし、そんな、場違いの武器のはずなのに、彼女にものすごく馴染んで見えるのは何故だろうか。
軽く彼女は伸びをして、相手に向き合った。と、その相手もよく見れば知り合いだった。
オスカー……貴方って割と不憫だよね。
本人も自分のくじ運の無さにガッカリしているようで、苦い顔をしながら男性が多く使っている大剣を構えた。
「始め!!」
先生が手を振り下ろすと、同時に、オスカーは場外に吹っ飛ばされた。
瞬きの間も必要ないぐらい一瞬で、本当に何が起こったのか理解できない、まるで、数コマ抜けてしまった漫画のように唐突で、自分の目を疑うが変わらずそこには、吹っ飛ばされて壁に体を預けるオスカーの姿があるだけだ。
……他の生徒の試合とは比べ物にならない。
オスカーが先程までいた場所で、ララは静かに佇んでいてそれからパッと顔をあげる。
「ローレンスッ!!見てくれていたー?」
人をぶっ飛ばしたあととは思えない、笑顔でローレンスへと声をかける。それに答えるようにして二階席からローレンスは手を振る。
「あははっ、準備運動にもならなかったわ!」
そしてまた人をぶっ飛ばしたとは思えない発言をしながら、武器を消し、トントンと駆けてローレンスの元へと向かうために一階の練習場から、二階席に飛び上がって着地する。
終わったあとに、すぐに私の元へと向かってきたヴィンスと少し似ているな、と思いながらララを眺める。
少し大袈裟な仕草、ローレンスにも物怖じしない言葉遣い。クラリスは、ローレンスが怖くて逃げたと言っていたし私も彼が怖い。それを彼女はクラリスから奪う形で恋人となり現在も交際を続けている。
主人公パワーなのかな……。何か色々とすごいよね。
黙っていても可愛いと思える顔の作り、口を大きく開けて大笑いしている姿も背後に花が咲いて見えるようなのだ。
けれど、弱い女ではなく自分で何かを勝ち取る力がある。努力もできるし、決断もできる、彼女はやっぱりこの世界で一番の主人公だ。
……私は……そんななにかを成せる人間に……彼女のようになりたいのかな……。
一度そう考えて明確に違うと思った。私は私なりであるべきだと思う。自分で考えて自分のらしさを貫きたい。
それに何より、今、既にこの世界で私は、役職があるじゃないか。焦って何者かになる必要なんてない。
ちょうどよく、私の名前が呼ばれる。
少し……いや、結構怖いけれど、やるしかない、私は今、悪役令嬢なのだから。
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