悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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そういうタイプの化け物か……。1

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 ヴィンスは私の元に戻ってきてまた魔法を使う。コンラットの剣をもろに受けた肩は血が滲んでいて、服が一部破けている。

 その状態を見て、私はなんとも言えない焦燥感に囚われる。ヴィンスは魔法玉を強く握ってふぅと短く息をつく。

「……自己修復というか、治癒能力が向上しているようです。防御系の派生のようなものですね。なんとなくそんな気がしていたので……あまり特出したものでなくて良かったです。習得に時間がかかりそうですから」

 傷ついた部分をふわふわと柔らかい光の波が覆って傷が癒えるどころか服まで綺麗に元通りになった。滲んでいた血も無くなっている。

 ……っ、なんか喜ぶべきなんだろうけど、妙な気持ちだ。深く考えない方がいいかもしれない。

 何気のない当たり前のものでも、意味や曰くを知ってしまうと途端に恐ろしくなるものがあったりする。

 世の中、知らない方が良いことがあるというのは、誰でも知っている常識だ。どういう原理で治っているか、そんなことを気にしていたら、魔法の世界に馴染めないだろう。

 魔法で強化してるとはいえ、あくまで強化だ、無敵ではない。血も出るし、痛みもあって体に負担もあるだろう。こんな、よくわからない魔法を使うよりも、鎧でも着ていた方が何十倍もマシである。

 しかし、今その魔法を使った彼にそんなことを言うわけにはいかず、適当な事を口にする。

「あんなに激しい戦いを真剣でするのに、鎧も無いなんて怖いって思ったけど、もしかして、皆その魔法は使えるの?」
「えぇ、大体はそうですね……ほら」

 意識を取り戻したらしいコンラットが自らの顔面を押さえ込み、魔法の光が揺らめいている。

「防御魔法の延長のようなものです。スピード勝負なので鎧で動きが制限されるとその分、不利になりますから」

 なるほど。確かに、私が考えていたことは現実的ではない。それに『ララの魔法書!』ではララがぶっ飛ばした相手について詳しく言及されていなかったので、魔法で強くなっているから大丈夫なんだろうとふわっとした解釈だったのだが、治すことができるのなら納得である。しかしそれでも、人が傷つくということは容認し難い。

「……治っても痛いことには変わりは無いんだよね」

 ぽつりと呟くように口に出す。
 ヴィンスは、ぱちぱちと瞬きをして「えぇ、そうですね」と肯定する。それに危険だろう、治るからと言って、傷つくのを無視するような戦いは。

 そういうことが出来ると、痛みに鈍くなってしまうのではないかと思う。それは、あまり良くないことに思えてしまうのだ。すでに私は今世で二回も乱暴されているけれど、痛くて割と怖かったのでそれぞれ根に持っている。だから同じ轍は踏みたくないと思える。

 でもそれを主張するのは、この世界の一般常識ではない。私は多分、少数派だ。それをヴィンスに強要するのは、違うとわかる。

 だから単に好き嫌いの問題だ。

「ヴィンス……私」

 ……私は、多分あまり、この世界に向いていない。
 「治るとしても怪我しないで」「他人も自分も傷つけないで」そう言いたいけれど、それはヴィンスには言ってはいけないだろう。
 
 言葉を飲み込んで、抱きしめた。
 突然の事に驚いたヴィンスはぎこちなく体をが固くして、私の名前を伺うように呼ぶ。

「クレア……?」

 パッと手を離す。
 私が何も言わずに笑顔を作ると、彼も笑ったまま首を傾げた。



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