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腹黒男め……。11
しおりを挟む初戦なのだ、皆も見ているだろうと、思って辺りに視線を動かすが、意外と鑑賞勢が少なく、ぞろぞろと移動していく子たちが目に入った。
「皆どこに行くのかな?」
「鑑賞席の方へと向かったのでは無いでしょうか?」
「ああ!二階の!でも、すぐ呼ばれるかもしれないのに、いちいち階段を使って戻ってくるの面倒じゃないのかな?」
「いえ、それほど高さがないので飛び降りることができますよ、それ用に柵がない場所もあります」
ヴィンスに指を刺されて、見てみれば、二階席の部分に柵のない駅のホームみたいになっている場所がある。
「それに皆様、少しでも親睦会の情報を集めたいんです」
「なんで?」
「親睦会は、私達の成績に大きく関わるチーム決めが主な内容なんです」
ヴィンスの言葉を聞いて納得する、原作でも少しだけ登場した、団体戦のチームだろう。それなら少しでも強い相手と組みたいと思うもんね。
試合の回転を良くするためか、別の先生がくじを引いて次の試合をする生徒を待機させる。
今から、試合を始めようと言う子達は開始位置にいるまま、先生が武器を運んで、使う武器を選ばせ、次の子たちのところに持っていく。彼らが選んだ武器は、男子生徒の方が両手剣。女子生徒の方が片手剣だ。
今から試合を始めようとする子たちはお互いに剣を携え、それぞれが服の中から、首にかけた魔法玉を取り出す。
彼らが魔法玉に魔力を込めるとコアが淡く光を孕んで、同時に、魔法の使用者の瞳もユグドラシルの結界のような淡く揺らめくような光を灯す。
魔法玉は私のお月様みたいな色とは違い、青とピンクをしている。この世界の髪色と同じようにカラフルなのだ。
ゴクリと息を飲む。私は『ララの魔法書!』に乗っていた戦闘描写が誇張表現であったことを願いながら、彼らを見つめる。
「それでは……よーい」
バイロン先生が片手をあげて、二人に準備はいいかと目配せをする。両方とも緊張はしていてもこくんと頷いた。
「始め!!!」
大きな声が響いて、手が振り下ろされる。それと同時に、両方とも思い切り地面を蹴って駆けだした。
ガ、ギィィイン!!
金属同士がぶつかる大きな音が響いて、覇気に肌がピリピリと反応する。目で追えない程の剣技、どちらも劣ることなく派手な音を立てながら打ち合いを続ける。
剣が立てる風切り音と、短く聞こえる彼らの吐息。男子生徒の方が一撃が重く少し大振りだ。それを手数と盾の魔法によって女の子は防ぎ、華麗に懐へと入る。一瞬の隙に、彼女は男の子の腹へと一撃を入れて、耐えきれずに男の子は一歩後ろへと下がった。
怯んだその隙にさらに女の子は剣を振り上げるが、そこに目にも止まらぬスピードで、バイロン先生が現れる。
「双方やめ!!」
掛け声にピタリと戦闘をしていた二人の動きが止まる。そこでやっと一本勝負だったことを思い出した。
バイロン先生は、大きな声で女子生徒の勝利を告げる。
……すごい……。
私は思わず気が抜けて、へたりと座り込んだ。
二人はお互いの健闘を称えて握手をし、普通の学生らしく少し気恥ずかしそうに笑みを浮かべた。そしてコートを出ていく。
次の生徒は、既に武器を手にしてコートに入り向かい合った。記録係なのかバインダーを持ってメモを取っている先生もいるので、今回の試合もきちんと成績に反映されるのだろう。
「……クレアさ……クレア?どうか致しましたか?」
座り込んでしまった私にヴィンスが今の試合を見た後でも、なんて事ないような顔で問いかける。
「あ……少し離れようか、迫力があってびっくりしちゃった」
「わかりました。参りましょう」
彼は私の手を取ってくれて、離れた場所でも上から見ることが出来る二階席の方へと移動した。
鑑賞席は段々になっていて見やすい横長の椅子と、それとは別にVIPスペースのような柵で囲まれたテーブルスペースに別れている。
案の定そこには、貴族たちの観覧席としてローレンスを中心に人が集まっている。
私たちは長椅子の方へ行き、そちらにヴィンスと並んで腰かける。
「ふぅ」
腰を落ち着けると、目の前での観戦の高揚感と少しの恐怖が治まっていく。
遠目からまた試合を眺めた。ゆっくりと移動していたので三試合目が始まる直前で朝の騒動で名前を知ったディックが試合に出ていることに気がついた。
ちょうど始まり、ほんの少し彼が出遅れる、その隙に軽々と一本取られてしまい試合はすぐに終わってしまう。
「……」
純粋な強さよりも最初の出だしが遅れた事が敗因のように感じられる。
魔法の展開の速さって何が起因してるんだっけ?そもそも身体能力が上がってるのも魔法なんだっけ?
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