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腹黒男め……。2
しおりを挟む数日後、宣言通り、ローレンスからは教科書やら筆記用具が送られてくるようになった。
あの日に握らされたものは、この世界で魔法を使うために必要な魔法玉(まほうぎょく)というアイテムだった。
ファンタジー小説は数あれど『ララの魔法書!』の、この魔法玉の設定は異色のものであった。
そもそもこの世界の魔法というものは、普通のファンタジー同様の水と火を生み出す魔法と、体を強化する魔法があり、それらは魔力を簡易魔法玉に込めることによって可能である。
それを使って魔法の使い方の初歩を学ぶのが『ララの魔法書!』の舞台、アウガス魔法学校だ。その学校を卒業しても魔法使いになれると言うことでは無いが魔法系の学校に通っていたと言うだけで平民の中ではステータスとなる。
本格的に魔法使いを目指す場合には、必ず、クラリスの出身国であるメルキシスタ国とアウガス魔導王国の狭間にある、ユグドラシル魔法学園に通わなければならない。
ローレンスから送られてきた本を確認しながら、原作の知識を確かめる。
ユグドラシル魔法学園、長いので魔法学園と呼ぶことにするが、そこに通う者だけが、魔法学校時代に使っていた簡易魔法玉と引き換えに本物の魔法玉を学園から貸し出されるという形で手に入れることが出来る。
卒業までのカリキュラムを終えてやっとその魔法玉の所有権を手に入れることができて、正式な魔法使いとなれる。
私は、荒れた道を走っているせいでガタガタと揺れる馬車に臀部の痛みを感じながら自分の魔法玉を胸元から取り出す。
淡く金色に光る中心の宝石に、それをぐるりと包むように素材不明の細かな装飾が施されている。原作で登場していた簡易魔法玉とは比べ物にならない精巧さと美しさだ。
もちろんヴィンスの分もあり、今は彼も同じように魔法玉を所持している。
……まさか一週間程度で入寮式だとは思わなかったなぁ。
ローレンスは余裕があるような顔をしていたが、魔法学園に編入ができるという話は聞いたことがないので、実は私を魔法使いにするために切羽詰まっていたのかもしれない。
馬車の窓から暖かな日差しが降り注ぐ、幽閉されていた暗黒の谷を今朝出発したばかりなので、日差しを感じるだけでとても楽しくなるような心が満たされる心地がする。
ずっと薄暗いまま、一週間も過ごしたんだから当然だよね。
窓の外にはずっと遠くまで膝丈程の草原が拡がっており、青々とした緑が風に揺られて葉を揺らす、その向こうには、今まで私たちのいた暗黒の谷。その名の通りの夜を閉じ込めたような暗闇があった。
ふと、肩に重みを感じて隣に座っていたヴィンスの方へと視線を移すと、谷から出られた安心からか、眠ってしまったようで彼は私の肩に頭を預けていた。
薄暗い幽閉部屋の中では気が付かなかったけれど、彼の目元には隈ができていて、指先には赤いひび割れがある。学園に入っても、心配な事は沢山あるだろうが今だけは眠らせてあげよう。
荒れた彼の手に私の傷一つない柔らかな手を重ねると、ヴィンスはクラリスを沢山守ってくれたのだなと強く思った。
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