悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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腹黒男め……。1

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「……はぁ~」

 大きくため息をつく、するとヴィンスは項垂れている私の方へとよってきて、膝を付いて私を見上げながら問いかけた。

「クラリス様、お怪我はありませんか?」
「うん……うん、平気」

 一束だけ、短くなった髪が頬に触れて毛先がくすぐったい。
 髪を切るのなら、後ろの目立たない場所から切って欲しかったものである。

 ローレンスが髪を持ち帰る必要があったのは、禁忌の呪いを使うのに標的の体の一部が必要だからだろう。……というか、その禁忌の呪いについて、原作ではあまり深く触れられていなくて、とにかく使おうと試みるだけでも重罪ということぐらいしか記載されていなかったが誰にでも使えるものなんだろうか。

 それに、クラリスの罪が露呈した時の話は、わりと難しくて、あまり頭の良くなかった私はもしかすると読み飛ばしてしまったのかもしれない。こうして成り代わってみると、『ララの魔法書!』の世界では割と、重要な知識だったみたいなので悔やまれる。

 まあ、とにかく私は、ローレンスに命を握られているということを今はわかっていれば問題はないだろう。

「殿下があれほど生き生きとしているのは、初めて見ました」
「……う、嬉しくないなぁ」
「……貴方様の事を気に入られたのでは無いでしょうか」
「嬉しくないよぅ」

 予想外の言葉に、素直な返事を返してしまう。だって本音だ。私の言葉にヴィンスは柔らかな髪を揺らして微笑む。無邪気で優しい笑顔だ。
 あんな腹黒とは違う。ちゃんと優しい人の心のこもった笑顔だ。

「ふふっ…………クラリス様」

  私が丁度いい位置にある彼の頭を撫でていると、ヴィンスは少し間をおいて神妙な声で私を呼ぶ。

 そんな中、私はぽつりと、なんでこの子の頭ってこんなに撫でたくなるのだろうと疑問に思ったがすぐに解決する。
 こうやって膝を付いて私を見上げてくれるからだ。

 立っていると、私の方が身長が小さいから、気遣いだろう。

「クレア様とこれからはお呼び致しますね」
「……」

 彼は、少し寂しげに悲しそうに眉を下げた。

 この子は、理解しているんだろうか。
 私が誰かということ、クラリスでは無いヴィンスが仕えていた主では無いということを。

「ヴィンス……ヴィンスは、きっと……多分、だけどローレンスにお願いすれば、私が何か差し出したりすれば自由になれるんじゃないかな」

 私がそういうと、彼は途端に見捨てられそうな子犬のような顔をして眉間に皺を寄せる。

「私が、ご不要になりましたか……?頼りのない、私が……」
「いや、違うよ!……ただ、こんないわく付き?の私の従者でヴィンスが大丈夫かなと。ほら、クラリスでも、もう居ないわけで」

 今にも泣き出してしまいそうな震える声に、まずいと思って訂正する。

 どうか泣かないでほしくて頭を撫でた。

 ……あ、そうだ、それにヴィンスはあの子に似ているんだ。年の離れた姉の息子。私の中学生の甥っ子に。でも、どこか違うような気がする。甥っ子とは違う何かを探してじっと見下ろすと、ヴィンスはとても嬉しそうに笑う。

「多くは理解出来ておりませんが、お仕えすることになんの不満もございません。クレア様、私は貴方様のお傍におります」

 甥っ子よりもずっと距離が近いような気がした。
 かと言って何とも形容しがたい。これが主従関係というものなんだろうか。
 首を捻る。悩んでも答えは出てこない。
  
 


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