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 それから、しばらくは忙しい日々が続いた。

 今まで、接触しないようにと気を使っていたオリファント子爵家の問題だが、何をするかわからない以上はシャロンは覚悟を決めて、彼らの立場を奪うことにした。

 幸い、シャロンには便利な魔法があるし、ステイシーが口走っていた王族に害をなすような発言をギデオンたちに伝え、白魔法の魔法道具をつかってもらい彼らにその光景を見せた。

 そしてそれを危惧したユーリが聖女の力を使って撃退という流れにしてもらった。

 少しでも功績を作っていけば、ユーリの立場の改善にもつながる。大きくなって社交界に参加するときに苦労しないように下地を作ることは大切だろう。

 それに加えて、フレドリックの死の真相は、セシリーの失踪と紐ずけて、こちらも記録を見せ、調査を依頼したサムウェル伯爵家にきちんと事情をは話した。

 フレドリックが養母に惚れ求婚と逃亡まで提案していたという事実を隠ぺいする代わり、訴えを取り下げてもらった。

 彼らも、国に奉仕すべき一貴族が自分の欲望のままに、健全な貴族の母子を巻き込んで逃亡を図ろうとしていたという醜聞を広められたいとは思わないだろうというシャロンの考えの通りの事は動いた。

 オリファント子爵家は爵位を没収され、今では魔力を生産するだけの奴隷のような形で幽閉されている。これでシャロンにもシャロンの周りにも危険が及ぶことは無い。

 しかし、万事すべてがうまく解決という事にはならなかった。ギデオンには、やればできるのだねと感心されたけれども、結局シャロンが難しい立場だということに変わりはない。

 実家はとりつぶされて犯罪者として扱われている。その娘であるシャロンは結婚して家を出ていて連座を逃れはするが、離婚をされるともう名乗れる性もない。

 貴族としては生きていけない。やっとユーリにまっとうに向き合えたのにまた会えなくなってしまうかもしれない。それでもなにがなんでも縋りつくつもりだ。

 今の地位にも、それがだめなら、離宮の使用人になってもいい、ギデオンの手ごまになってでも、シャロンはユーリに会いたいし、決して寂しい思いをさせたくない。
 
 そう考えて、シャロンは諸々の手続きも落ち着いて、返却された指輪をもってエディーの元へと向かっていた。

 あれ以来あまり話をできていない彼だったが、当初の予定通りセシリーの記憶を見て彼に安心してほしかった。

 それとシャロンを捨てる話はもちろん別だと思うし、こうして彼が途中で放り出す気でいたとしても、シャロンを愛してくれた事はなにより意味があると思う。

 そうしてくれたから、シャロンは今、やっと自分の大切なものに本当の気持ちを伝えられた。あのままオリファント子爵のもとで死んでいくだけの人生ではなくなった。

 伝えることが出来た、そしてそれを出来る限り続けていきたい。迷惑になるとも分かっている。

 それでも同情でも哀れみでもいい、少しでも長くユーリと触れ合えるように彼にお願いするのだ。それが唯一出来ることで、精一杯愛することがシャロンの答えだった。





「お願いします。なんでもするし、どんな扱いでも構いません。妻として私をここにおいてください」

 大体の子は別れを告げるとこうして縋ってくるけれど、それが自分のため以外である人をエディーは見たことがなかった。

 彼女は、自分が立場を失うことを恐れているのでも、エディーと別れるのがつらいからでもなく、ただ愛した人を守るためにエディーに跪いていた。

 そろそろかとは思っていたが、シャロンは部屋にやってきて、母の記録を見せると言ったがそれについては断った。

 もうすでに見る必要も感じていないなかったし、なにより母がそのことを黙って出ていったというのに、勝手に暴くのはあまり品のある行為とはいえないだろう。

 ……俺にとっての母親という体を絶対に崩したくなかったから、フレドリック兄上の話を受け入れなかったのなら、告白されている彼女を俺が見ることは出来ない。

 シャロンが色々と忙しく動いている間に、エディーは自身で気持ちに整理をつけていた。カインから聞いた話は衝撃的であり長年の思い違いを晴らしてくれるものだったし、なによりカインもとても配慮のある話し方をしてくれた。

 決して誰も糾弾せず、ただ悪い方に歯車がかみ合ってしまっただけなのだと言った。

 こうして、フレドリックの友人だといった彼が、エディーに配慮のある話し方をしてくれたのは、ほかでもない目の前にいる少女を救った男だからだろう。
 
 深刻な顔をして頭を垂れる彼女は、とてもよく人を愛し愛される人間らしい。

 そして割と臆病で、本人は自分をポジティブだと思いこもうとしているが根本的な部分で極端に状況を悲観している。

「魔法も、身も心も全部、エディーのために使う。もちろんこの屋敷に女の子を連れ込んでも何も言わないし、私はエディーの望むことしか言わない」
「……」
「お願いします。捨てないでください」

 エディーは彼女の懇願に、思考を巡らせた。先日の誘拐未遂を思い出して、ここ最近ずっと頭から離れないあの光景を思い浮かべた。




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