21 / 30
21
しおりを挟む……。
記録の中では簡単に人を捨てているように見えた。ああして女の子達を振るときの彼の気持ちはわからないが、目の前にいるエディーの事なら少しだけわかる。
だてに一緒にいるわけではないのだ。すべてが嘘だとは到底思えない。特にこの優しい瞳をシャロンが見紛うとは思わない。そこだけは自分を疑うことはしなかった。
「……どうしてそんなことしているのかって、聞いてもいい」
「そうだね。……女々しい話になるけど、俺はほら、幼少期に母親に捨てられてるからね」
母の失踪は幼い子供には確かにその通りにうつるのだろう。そしてそれを否定するすべもないし、否定してくれる人もいない。
「母は優しかったし、なにより俺を愛してくれていると思ったんだけど、途中で放り出されて、子供なりに辛かったんだ。だから、途中放棄で自己中心的な愛情ってとんでもない偽善だと思うんだよね」
「……」
「愛されてると思った分だけ辛くなるなら。初めからそんなものない方が良かったって思うんだ」
まるでシャロンは、自分の事を言われているようだと思った。ユーリに対する自分の事をそう言われているみたいで、ずきずきと心が痛い。
「だから、それを教えてあげてるんだよ。ずっと、自分がされて嫌なことを他人にしようと思わないだろ? そんなところかな」
そう言って彼は、シャロンを見つめた。しかしそれは矛盾していて歪な考えだ。
……貴方自身が、されて嫌だったことを他人にするのに、他人に教えてあげているっていうのは無理があるというかなんというか。
大人に見えて随分と子供っぽい事をしている。しかし、彼を否定することはできないだろう。
その偽善にシャロンは助けられた、捨てられるのだとしても与えられた愛情は確かに変わらない。嬉しいと思ったし、でも哀しくもある。それもまた難しい問題でシャロンが見つけられていない答えだ。
ユーリに対しての思いととても似ていて、どうするべきかわからない。
けれどもその答えを出さずとも、今わかっていることはある。
「……幼稚な理由を聞いても、シャロンは俺を軽蔑したりはしないんだね」
感情を読み取ったのか、彼はそう口にする。それをじっと見てからシャロンは動いた。
エディーの方へと体を向けて、手を握ったままその頬に口づけた。それにキョトンとしてエディーは何も言わずにシャロンを見つめる。
「エディーはちゃんと愛してくれるのに、そんなことしてたら辛いんじゃないかなって私は思ってしまう」
「……全て嘘だったんだと思わないの?」
「私はエディーに愛されて嬉しかった、だから嘘じゃない。だからエディーも離れたら寂しくて辛いかもしれないって思ってしまうというか……エディーのお母さんも本当に愛していたのに、どうして居なくなってしまったんだろうね」
それに嘘で他人を好きになるなんて事ができる人間がどこにいるだろう。全部本物だ。エディーの行動だって全部本物、でもだからこそ、そういう事をし続けるのは辛いと思う。
母親の愛情も本物であったはずなのに、捨てられたせいでエディーは変な方向に歪んでずっと悲しい、それではいつまでたっても幸せになれないだろう。
「どうして、君が俺の母の愛についてそういえるの」
「見たらわかったよ、流石に。お母さんとてもやさしそうな綺麗な人だったね」
「……参ったね。……困った。いつもの通りにできないどころか、可哀想だなんて言われるとどうしたらいいのか」
シャロンに言われた言葉がよっぽど予想外だったのか、エディーはそういって動揺した様子でシャロンを見つめた。
その姿が母に抱かれた彼の一途なまなざしと重なって年上だけど、彼も寂しいかもしれないと思って、ソファーの座面に膝立ちして彼の頭を胸に抱いた。
「君からこうされると調子が狂うね」
「……」
彼の母の真似をして後頭部をやさしくさすって案外、触ってみると赤茶の髪が柔らかい事に気がつく。
さらさらとしていて、きっと彼の母もこうして髪をなでるのが好きだったのではないかと思う。
すっかり静かになったエディーを抱いてシャロンは思った。流石に、急な失踪はおかしいと思う。ごめんねと最後の日に誤っていた真相があるのではないか。
自身が捨てられるのを回避しようというつもりはない。しかし、それでもやはり、シャロンは出来るだけのことを出来る限りして愛してやりたいと思ってしまう性分なのだ。
……エディーがこれ以上、哀しい思いをしなくていい真相だといいし、きっと見つかる、やってみたら、いいのかも。
よしっとポジティブに気合いを入れた。先ほどまであんなに怖がっていたが、シャロンは切り替えにだけは自信があるのだった。
94
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
【完結】双子の妹にはめられて力を失った廃棄予定の聖女は、王太子殿下に求婚される~聖女から王妃への転職はありでしょうか?~
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
聖女イリーナ、聖女エレーネ。
二人の双子の姉妹は王都を守護する聖女として仕えてきた。
しかし王都に厄災が降り注ぎ、守りの大魔方陣を使わなくてはいけないことに。
この大魔方陣を使えば自身の魔力は尽きてしまう。
そのため、もう二度と聖女には戻れない。
その役割に選ばれたのは妹のエレーネだった。
ただエレーネは魔力こそ多いものの体が弱く、とても耐えられないと姉に懇願する。
するとイリーナは妹を不憫に思い、自らが変わり出る。
力のないイリーナは厄災の前線で傷つきながらもその力を発動する。
ボロボロになったイリーナを見下げ、ただエレーネは微笑んだ。
自ら滅びてくれてありがとうと――
この物語はフィクションであり、ご都合主義な場合がございます。
完結マークがついているものは、完結済ですので安心してお読みください。
また、高評価いただけましたら長編に切り替える場合もございます。
その際は本編追加等にて、告知させていただきますのでその際はよろしくお願いいたします。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる