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 ……本当に殺されるかと思った。

 シャロンはもう何度目か分からないその言葉を思い浮かべて、隣で慰めてくれているエディーの事を恨めしく思う。

 彼はシャロンをあんな風にしたくせに隣にいて二人してソファーに座っていた。

 どう考えても殺そうとしていたと思うし、冗談だったとは思えない。しかしどうしてか思いとどまってシャロンはまだ息をしている。それもエディーに頭を撫でられながら。

 スンスンと鼻をすすってエディーの事を見上げると彼はじっとシャロンの様子を見ていて落ち着いてきた様子を見て、口を開いた。

「……君は、割と修羅場をくぐってきていると思ってたんだけど、案外普通の女の子みたいに泣くよね」
「……」
「王太子殿下の為にその魔法を使っていろんな事件を解決してきたんじゃなかったんだっけ」

 確かにそんな勘違いをされることはたまにある。しかし、シャロンのような気の小さい人間にできることなどたかが知れている。

 それを、バレないようにギデオンはシャロンを使っているのだ。

「……私の存在は抑止力にするぐらいがちょうどいいって言うのがギデオン王太子殿下の考えみたいだから、そんな諜報員みたいな狡猾さとか無いし、相手を騙す事とか得意じゃない」
「なるほどね」

 今回の件に関しては、シャロンがどんな風に動いても彼らに利があるからこんなことになったのだ。つまり、シャロンが死んでもエディーをつるし上げることが出来るし、死ななくてもシャロンが証拠を持ってくる。

 必然的にギデオンは損をしない。

 ……そういう打算があったっていうのも知ってたし、流石に、エディーがこんなに怖い人だと思ってなかったから……。

「それで、話を聞きたいんじゃない? どうせだし君の質問に答えてあげるよ」

 まるで日常の出来事でも話すようにエディーはそういって、シャロンから手を離す。

 隣を向いてきちんと向かい合ってみてもやっぱりエディーはいつもの通りで、急に態度が変わったりはしない。

 距離が近くてしょっちゅう触れてくるのも変わらないし、どこからどう見てもただの好青年だ。

 ギデオンはあからさまに感情の欠如が見受けられる、どこか浮世離れしているようなきらめきを纏っているがエディーに関しては普通にどこにでもいそうな人だ。

 ……これは、行動が若干異常でも見抜けないよね。猟奇的殺人鬼の犯人がまさかあの人が、なんて話は社交界でも聞くが、きっとこういう顔をしてるのかもしれないなんて。

「猟奇的って言われるほどの事はしてないけど」
「ぅ、ごめんなさい」
「そう怯えないで、シャロン。君は可愛いね」

 どうして怯えている相手にそんな誉め言葉を言おうと思うのだろう。よくわからないけれど、彼から話を聞けるなら、手っ取り早い。

 逆鱗に触れてとんでもないことになる可能性はあるが、クロフォード公爵家に嫁にきて、様々な疑問だったことが解消されるかもしれないなら、聞きたい。

 好奇心とも似たような感情だったが、もやもやしたままというよりずっとましな気がした。

 しかし怯えが抜けずにシャロンはエディーを伺うように見たまま、彼に聞いた。

「……どうしてフレドリックを殺したの……」
「クロフォードの血筋を守るため。よそから入ってきた兄上に俺の父の称号を持たれたままだと流石に困るからね」
「でも流石に殺すなんて……やり過ぎだし、せめてほかの身内から話をしてもらうとか」

 大体はそうして起こった揉め事は内々に話し合われて、家族内で解決するものだ。エディーのやり方は極端すぎる。

「父は事故死、母は失踪。母は地方貴族からの嫁入りだから、頼るあてもなかったっていえば納得してくれる?」
「……」

 それでは確かに、エディーにはやりようがなかったのかもしれない。しかし、そのために殺していいわけがないのは当然だろう。

 ……それに長年育ててくれたのはフレドリックではないの?

 父も母も亡くしたのはあの家系図と先ほど見た記録からして今のユーリほどの年の時だ。

 必然的に幼い彼の面倒を見たのはフレドリックということになるし、血のつながらない兄でも家族の情がまったくなかったなんてあるのだろうか。

「あの人が俺を育てた? 家族なら当たり前に情があるなんてよく思えるね。シャロン」
「違ったってこと」
「君、自分の事を棚に上げて考えてない?」
「……」
「血のつながった実の家族ですら、格差をつけられ冷遇されるシャロンのような子供もいるのに、成人してから養子に来た兄が、俺の家族だって本当に思う?」

 言い分からしてきっと家族らしい家族ではなかったのだろう。フレドリックがどんな人だったか知らないが、エディーにまともに関わっていたなら、カインから伝え聞いた悪癖についても口を出せたと思う。

 ……エディーの悪癖についても話を聞いてやるぐらいはしていなければ、それは、家族と呼べる代物ではなかったと言えるかもしれない。

 カインが知っていたのはその癖だけだ。原因なんかについては言及がなかった。改善するために、何かしているのならその話まであってもおかしくないのだ。
 
 自分自身という体験もある、家族というだけで情があると思うのは、早合点だったのだろう。

「悪癖? ああ、そういわれればそうかもね。というか、フレドリック兄上の事よりも、シャロンが聞くべきはそっちの事についてじゃない」
「捨てないって言葉は……嘘だよね」
「……」
「私もあの子たちと同じに、エディーに心底惚れたら放り出そうと持っていたってことで、あってるって事なのかなって思うんだけど」

 指摘されてそう続けた。別にこの件についてはそれほど驚いてはいない。

 ……知ってたし。私がそれを知ってたことは上手く隠せてたんだね。

 シャロンも少しだけ彼に負けじとうまくやっていたと思えて、わざとそう考えた。カインの助言には感謝しなければならないだろう。

「……驚いた。一本取られたね。どこから知ったの?」
「ナイショ……って言ったら怒る?」

 少し調子が戻ってきて、笑みを浮かべて内緒にしてやろうと口にしてから、怒られるかもしれないと聞いてみた。しかし、彼は少し楽しそうに笑って怯えるシャロンを抱き寄せてぎゅっと抱擁する。

「っ」
「怒らないよ」

 耳元で囁くように言われてすぐに体を離す。しかし、エディーはシャロンの手を取って両手で握って優しい瞳でこちらを見てる。





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