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 王宮から帰った翌日、カイルの使いの者が手紙をよこした。休日だったこともあり、エディーと過ごしているときの事だったが、それでもシャロンはそれを早く開けたくて仕方がなかった。

 使用人から手渡されて、向かいにいたエディーを見た。彼は今日、シャロンの新しいドレスを仕立てるために意見が欲しいからと朝から打ち合わせをしてたのだ。

「……そんなに重要な手紙なの?」

 そういうつもりでもなかったのだが、変な動悸がして、中身が気になって仕方がない。しかし、今の夫はエディーだ。彼との時間よりもカインの手紙を優先するのは今後の夫婦関係に問題を生むだろう。

「う、う~ん、えと、そうといえばそうなんだけど、違うといえば違うというか」
「そうなんだ」
「ごめんなさい」
「ううん、いいよ謝らなくて」

 煮え切らない事をいうシャロンに、彼はすぐに納得したような返答を返す。それに魔法を使われてしまったらしいと気がついてシャロンはすぐに謝った。

「とりあえず、ドレスの話はここまでにしよう」

 シャロンの気持ちを知っても怒らずにエディーは、丁寧に持ってきていたサンプルの布や仕立屋のリストなどを手早くまとめてローテーブルの端へと移動させる。

 しかしそれから、シャロンをきちんと見据えて言う。

「それで一応、聞いておきたいこともあるんだけどいい?」
「うん」
「前回、王宮に行ったことで、オリファント子爵の事は、話がついたと思うし、そう何度もあそこに通うような要件といえば、シャロンの魔法の事と聖女の事ぐらいだと思うんだけど当たってる?」
「……うん。その通りってかんじ」

 エディーがものすごく察しがいいのか、色々収集した情報を駆使しての事なのか分からないけど、事実を言い当てられる。おおむねそんなところだ。

 そしてシャロンはシャロンの魔法を使った、折り入っての相談を受けるために、また、カインに会いに行くという体で王太子ギデオンと話をしに行く用事もまだある。
 
 エディーは素直なシャロンの答えに目を細めて、笑みを浮かべた。

「それで、俺より優先したい事項っていうのは、どっちなのかな」

 言いながらシャロンの手元にあった手紙を見る。事情を納得はしてくれるけれども、口出しせずに放任するというわけではないらしい。

「俺、嘘や隠し事が嫌いでね。出来ればごまかさないでほしい」

 ……そうってもエディーは自分の事を教えてくれないじゃない、なんて思ってない思ってない。

 すぐに思考を切り替える。エディーは確かにシャロンに教えてくれない事は多いが、それは総じて過去の事だ。そしてシャロンの話は、これからに関すること。

 シャロンがこれからとる行動の根源になることだ。だから、出来る限り正しく伝えておきたい。

 ……それに、何もやましい事はしていないってわかってもらわなきゃ、駄目だよね。

「話すよ、エディー。でも開示されている情報以上の新しいことはないし、私がそれにどう接していたのかっていう話だから退屈かもしれないけど」
「そんなことないよ。シャロン、是非、婚約破棄になった経緯を聞かせてほしい」

 エディーに伝える選択肢をしたシャロンに、エディーは少しうれしそうに優しい声音で言った。

 きっと彼が嘘を嫌いだというのは本音だろう。これからもできるだけ隠し事がないようにして行けたらいいと思う。そう考えながらシャロンは思い出しながら話始めた。それは、シャロンが婚約を破棄する半年前の出来事だ。


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