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 昔からシャロンに対するあたりはひどかった。シャロンの白魔法が発覚するまでは姉たちに末っ子として虐められている程度だったが、それがわかって王族との婚約が決まると態度は悪化した。

 貴族という体面を保てるようにはしてもらったが、王族になるのだからと与えられる教育の数々で虐めのような虐待のようなことをされてきた。

 しかしそれでも、反抗心を持つとステイシーか母親に見抜かれた。

 そうなるととてもよろしくない。

 ……だから同じ魔法を使うエディーがちょっと? 結構? 怖いといえば怖いけど、まぁ、逆に慣れてる私だから、彼を怒らせないようにできているというかなんというか。

 そういう風にすぐに思考を別のところへと持って行った。考えすぎはよくない。あった事を思い出しても疲れるだけだ。それに不幸自慢をしたって、なにも満たされないだろう。

 シャロンはただ、平穏に生きるのが好きだ。そのための苦労と時間なら呑むことが出来るし許すこともできる。

「たしかに、大変なことはあったけど、カイン。貴方が気に病むことじゃない。カインは選んで、ユーリを救った。私は私の道を生きてる……と思うっていうか、ね、嫌い合って婚約を破棄したんじゃないでしょ、私たち」
「……其方の心の寛大さには、私はいつも驚かされてばかりだ。本当に……ありがとうシャロン」

 説得すると、カインは謝罪の言葉ではなく感謝を述べてそれでいいと思う。

 ……でも、私が本当に寛大だったら、もっと良かった。そうなりたいってずっと思ってるけど……頑張るしかないね。

 そうしてシャロンは無理やり気持ちを切り替えた。考えているのはユーリの事だった。

 しかしそれを気取られないようにして、シャロンはカインに話をつづけた。

「それで、今日呼び出しの用事を聞いてもいい?」

 話題を変えてそういうと、カインも頷いて、少し元気はなさそうだったがさっきまでの低姿勢はない。

 やっぱりずっと婚約していた相手にそういう態度を取られる、妙な心地だったのでシャロンは安心できた。

「ああ……こうして、謝罪をすることももちろん目的だったが、ギデオン兄上からの要請もあってシャロンに直接、私が連絡を取ったんだ」
「ギデオン王太子殿下から……て、それはどうして?」
「私にはわからないが、折り入ってシャロンのに相談があるらしい、しかし、公的なつながりがないギデオン兄上から書状が届くのと、元婚約者の私から話がいくのとでは、旦那の反応も違うだろうという事だ」
「…………」

 すこし、引っかかる言い分にシャロンは少し黙って考えた。

 まず、折り入っての相談事とは、いつもシャロンの魔法を使った問題解決が必要な時に言われる隠語のようなものだ。

 ……でも夫のエディー側としては、元婚約者の男性と会いに行くのと、王太子殿下に正式に呼び出しを受けていくのであれば、普通、前者の方が浮気を怪しまれたり、何かしらの悪事を想像するはず……。

 それなのに、夫であるエディーの反応を加味したうえでカインからの呼び出し。
 
 そう考えると、ギデオンはどうやらなにかエディーに察されたくない事情があると考えられるのではないだろうか。
 
 もちろん、婚約関係も終わって相談事に協力する義務はシャロンにはない。しかし、話も聞かずに断れるような相手ではない。

 カインが手紙を差し出してシャロンはそれを丁寧に受け取った。断るにしても一度話を聞いてからにするべきだろう。

「分かった、たしかに受け取ったよ」
「ギデオン兄上の事だ。あまり無茶は言わないと思うが、どうか無理はしないでくれシャロン」
「大丈夫」

 心配そうに表情を曇らせたカインだったが、シャロンだってもう立派なレディだ。自分の事を守るぐらいはできる。けれどもたしかにギデオンは警戒に値する人物だ。

 昔からどうにも容赦がない人で、カインもシャロンも多少、利用されていると感じることがある。万全の状態で会いに行った方がいいだろう。

「それからこれは私、個人の話なんだが……シャロン、決して其方の夫をけなすつもりはないんだが、耳に入れておいてほしい話があるんだ」

 これで用件は終わりだろうと思っていたが、カインは続けてそういった。彼もエディーの事でシャロンに話があるらしい。

 シャロン自身もエディーに対して色々思う所はあるがこうも他人との話題に上がると、やはり何かあるのだと思う気持ちが強くなる。

 神妙な顔をして頷いた。

「……其方達がきちんと出会い、シャロンも望んだうえで段階を踏んで夫婦になったというのなら、クロフォード公爵の……エディーのこんな話は気にしなくていいと思うんだが」

 そう前置きして、カインは言った。そもそもその前置き自体が不思議なものだ。だって普通はそうであるだろう、そのうえで誰も彼も関係を作ってる。

 しかし、その普通ではない状況にシャロン達はいて、すっかり当てはまっている。

「聞き及んだ情報によると、エディーは昔から、悪癖があるそうだ」
「……どんな?」
「身分も気にせず、悲惨な環境にいる力ない女性に言い寄って、恋人関係になり、急に突き放すように別れを告げていた……と、言う事らしい。それが悪癖だと」

 聞いたとたんに自分もその言葉に当てはまる出会い方をしていることが分かった。それに、癖だというのならきっと繰り返しているのだろう。
 
 ……つまり、捨てられる?

 安直に考えるとそういう事だ。しかし、それは自由に遊んでいた時の事で結婚までしているのは自分が初めてだろう。一応、彼は初婚だし、そんなのは成人前の遊びの範疇だと言ってしまえばそれまでだ。

 けれども、流石に楽天的にそうとらえることは難しい。なんせ、出会いがあれであるし、好きになる理由もなくただ悲惨な環境にいる女が好みでというのなら、シャロンを初めから好きだと言っていた理由もわかる。



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