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しおりを挟む……それに秘術って、私、手品って言って種のある魔法みたいなものだよって、ベアちゃんにちゃんと教えたよう。
それなのに、聞いてなかったの????
そのくせ、自分が知られてはまずいと思った事には敏感に反応して、これはもう殺すしかないとなったなんて、やっぱりファニーにはまったく見当もつかないような思考の飛躍具合だった。
でも、それでもやっぱり、しおらしく話をするベアトリクスが可哀想になってファニーはもう全部なかったことにするために魔法を解こうか、とこのドッキリを始めてから再三考えていたことを行動に移そうとやっとゆっくりと白魔法を使おうとした。
まったく、こんなことになるだなんて想像もしていなかった。こんな偶然もそうないだろう、それともこんな不謹慎なドッキリをやろうと思いついてしまったファニーへの女神さまからの天罰だろうか。
……でも、誰かが傷ついてしまったら楽しくなんてないよね。最初はドキドキしたけれど、妹と弟がファニーを裏切っていたことも、婚約者の本性も、親友の殺人も、どれもこれも楽しくもない事実だ。
こんなことはファニーが行動を起こさなければ、表面に現れる必要のなかった問題だ。世の中にはたくさん問題はあるけれども、そのすべてが表面化して誰かが改善するべきだとはファニーは思わない。
知らなくていい事も、やらなくていい事もこの世界には山ほどあると、前世からのやたら達観した人生観でファニーは白魔法を使おうとした。そしてすべてを水に流してしまおうと。
「だから仕方がないと思いませんこと? わたくしの未来の為に変わり者が一人この世から消えたところで、なんの不都合がありますの?」
しかし、やっぱり予想に反して、ベアトリクスは悪びれもなくそう続けて、やっぱりドッキリの最初の方に見せたわざとらしい泣き方で、この場での一番身分の高いオズワルドに媚びるように視線を送った。
「そんなのありませんわ。そんなことよりこのわたくしが国を背負う国母になって与える恩恵の方がずっと価値がある!」
彼女はそう断言して、情に訴えかけるようにハンケチで目元を押さえながら、オズワルドに言うのだった。
「ですからオズワルド様、こ、ここは、そこの下賤の者の犯行……そういう事にしてくださいませ」
「……」
「わたくしは、そうしてくだされば、オズワルド様にもそれ相応の恩礼をさせてらいますわ」
瞳に涙をためて、肩を落としてそんな事をいう。
……前言撤回、ちょっと痛い目見た方いいと思う!私も多少はイラっとするぞ、ベアちゃん!
とイラつき半分面白半分、先程のしんみりした気持ちを取っ払ってそんなことを思ったのだった。
それから「ねぇ、お願いしますわ」と猫なで声をだすベアトリクスと、いまだに揉み合っている三人、死体のファニーにそんな彼女を守るように両サイドに立っている二人。
いかれた光景の温室で、ふぅ、と気の抜ける様なため息が聞こえた。
そしておもむろにオズワルドが動いた。彼は、自身が持つ風の魔法を使って、部屋の中に強風を吹かせた。突然嵐の中に放り込まれたかのような突風に、どんな悲鳴も掻き消えた。
皿や、テーブルクロスが空を飛んで、息もできないほどの強風に揉み合っていた彼らも、媚びを売っていたベアトリクスも、そろって自らの頭や体を守るようにして小さくなる。
しかしそんな突風も、オズワルドの付近にいるファニーとシャーリーそれからファニーのペットの金魚ちゃんにはそよ風のようにしか感じられなかった。
……風の魔法って本当に便利っていうか……流石、公爵の血筋っていうかね。
ファニーは、相変わらず高スペックな昔馴染みをそんな風に思う。しかし、いまだにファニーには背を向けていて、どんな表情をしているのかはわからない。
突風は次第に止んで、滅茶苦茶になった温室と、髪と服がぼさぼさになった全員が登場した。その光景にファニーは心の中でぶはっと吐き出して、転げまわって笑いだしたくなった。
だって先ほどまであんなに危機迫る形相で罪を擦り付け合っていた彼らが、髪の毛をギャグマンガのようにして登場したのである。
特にベアトリクスなんて強風で絡まった髪にティースプーンが突き刺さりキョトンとしているのだ。これを笑わずにはいられないだろう。
それから、オズワルドは誰もしゃべりださないうちに、くるっとファニーへと向き直り、かがんでファニーの顔を覗き込んだ。
……?
おのずと彼の行動にみんなの視線が集まって、ファニー自身もなんだろうと首を傾げた時、オズワルドは、ファニーの良く知った気の抜けた笑顔で彼女に言うのだった。
「ファニちゃん、そろそろ起きてね?」
……え、え?
言われて、わけもわからなかったがファニーは言われた通りに魔法を使った。白魔法でいっきに体を回復させて、無理やりに意識を戻す。意味は分からなかったが、ここまで来て仮死魔法を解くタイミングが今以外に思い浮かばなかったし、なによりどういう事!?とオズワルドを問い詰めたくなったのだ。
「僕はちゃんと知ってるよ、ファニちゃんが死んでないって事、皆もそう」
当たり前のようにそういうオズワルドに、ファニーは頭を混乱させながら、まずは感覚が戻ってきた腕にぐっと力を入れて、止まっていた呼吸を息を吐いて再開する。
「っ、はあっ!」
「おはよう」
……ど、どどど、どゆこと??
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