8 / 18
8
しおりを挟む「それに、わたくしの話を否定するだなんていい度胸だわ!!貴方の主はもうそこで死んでいますのよ!?」
……わわわっ、言いすぎだよう。ベアちゃん、頭にすぐ血が上る癖、せっかく良い所にお嫁さんに行くんだから治さなきゃ。
ファニーは急に怒りだしてしまった親友を心のなかだけで宥めた。けれどもその声は現実には反映されない。このままでは、ベアトリクスが彼女の髪色さながら真っ赤になって怒り出してしまうかもしれない。
今度こそ、魔法をといてパンパカパーンとよみがえろうかと考えた直後に、食い気味にシャーリーが彼女に言い返すようにして発言した。
「ただ否定しているのではございません。ベアトリクス様、ただ、わたくしは、より根深い動機のある人を知っているだけでございます」
いつもはまったく主張をしない彼女がここまで自分の意見をいう姿にファニーは面食らって、ベアトリクスも親友を長年支えていた主張の少ない使い勝手のいい使用人が、貴族相手にここまで食い下がるのを見て、少し勢いをそがれて、恨めしそうにシャーリーを見る。
「その方は……」
シャーリーは言いづらそうに、言い淀んで、それでも決意を決めたとばかりに、ぱっとファニーの斜め隣にいた、セオドアに視線を向けた。
「セオドア様です」
今まで蚊帳の外で、まったく何の発言もせずにいたセオドアは、急に自身の名前を出されて、我関せずを貫くことが出来なくなりシャーリーの事を見上げた。
「わたくし……わたくしは、知ってしまったんです。ある夜、奥様と旦那様の部屋の給仕を手伝いに臨時で入った時の事です。そこにはセオドア様がいて、奥様たちに甘えるように、言っていました。主様を……ファニー様を殺害してしまおうと」
……ななな、え、なんっ、え??本当に!?どゆこと!!???
真剣な声で言うシャーリーに、セオドアと隣にいるプリシラまでなぜか青くなって、周りの人間の反応を伺った。
それはまさしく、悪事がばれた時のような反応で、咄嗟にガタンと二人そろって席を立った。
双子らしくシンクロしていても、まったく微笑ましくない状況だ。
「ファニー様は皆さまご存じの通り、とても変わった方です。これまでも貴族様の重鎮を驚かせて、お怒りを買ったり、神聖な聖女の集まりで場を凍り付かせるようなことを言ったりと問題も多くありました」
……あわわわわ、それは、そっそれはだね!!だってほら貴族のご老人ってみんなむすっとして人生謳歌してなさそうだったから、花を出す手品を見せただけじゃない!!おじいちゃんの頭の上にお花をさかせただけなの!!
それに、聖女の集まりの件は、ただただ、普通にお布施で豪華な食事を食べて優雅にお茶を飲むのはどうかと思って、横領じゃないの?って言ったら、皆にキレられたのだ。私は悪くないっ!!
そう頭の中でやってしまったことについて弁解をするが、シャーリーの発言に皆は、羞恥の事実だと言わんばかりに頷いて、彼女は続けて言った。
「ですから、嫁ぎ先で何か問題を起こす前に、ファニー様を女神さまの御許に向かわせてしまおうと……それに、上手くやれば責任をアシュバートン侯爵家になすりつけて、慰謝料を取ることもできるはずだと、セオドア様が奥様や旦那様に提案しておられました」
シャーリーは心苦しそうに、立ち上がってうろたえるプリシラとセオドアに訴えかけるように言った。
「ですから今回の事を仕込んだのは、セオドア様ではありませんか?」
言われたセオドアは、すぐには否定せずにプリシラの事をばっと見た。それから、また皆の方へと視線を向ける。しかし、この反応では事実なのだろうかと疑いの目を向けられて、彼はより一層顔を青くした。
その反応をみてファニーも今の話だけでも、即座に否定しないということは、きっと事実なのだろうと、理解して、ええー……と心の中で声を漏らした。
……確かに、私は、ちょっと……本当に少しばかり問題を起こすけれども何もそんなことまでしなくてもいいじゃない。ええ??それに普通に悲しいよ??セオ君、酷くない??酷いというか、殺しちゃおうぜって、両親に言ってたって事??
いや~たしかに、あの人たちはお金大好きだけどさ……な~んか引っかかるな。
セオ君は分かってると思うけれども、メルヴィル伯爵夫妻は事なかれ主義なのだ。出来るだけ、自分たちに面倒事がかからないようにしたいだけの人そんな人たちが、リスクを取るとは思えない。
それに、その性質は一番、セオ君がわかっていると思う、だからその話には妙な違和感があった。
しかし、反応的には心当たりあり、という顔だ。しかし、彼が次に何を言うのかによって、話も変わってくるか、とそのセオドアの反応にファニーも集中した。
魔法をといて、このありもしない殺人劇の犯人捜しを止めることなんて忘れて、血のりがカピカピに渇いて、食後のチャイが冷めていく中、死体然としたままファニーは行く末を見守った。
21
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる