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しおりを挟むオズワルドは、ファニーの真横から少し前に出て、テーブルについている全員に向かって声を張って言うのだった。
「犯人はこの中にいる。見つかるまでは僕がこの場所から誰一人として離れるのを許さない」
……ええええええ!!!!!!
面白くなりそう、そう思った矢先、すぐに面白い展開になった。犯人なんかいない、だってこれドッキリだから。そう魔法を解いて言ってもよかった。
それでも十二分に楽しかった、しかしながら長年昔馴染みとして親しんでいた彼が、推理小説の探偵のように出てきていったい何をするのか、それがどうしても楽しみでファニーはドキドキトキメキながら、物理的に死んだようになったまま、次の展開に期待した。
しかし、実際のところは何言ってるんだこいつという反応をされて、その場を別の誰かがまあまあ、一旦落ち着いてと、諫めるのかとファニーはおもったのだが思ったが、その予想も外れて、全員が空気に呑まれて、犯人がこの中に?みたいな訝しんだ表情をするのだった。
それからプリシラが、とても怯えたような声でいう。
「そ、そんなっ! 犯人がこの中にいるだなんて、どうしてそんなこと、わかるんですかっ」
彼女は心細いというようにぎゅっと自分の手を手で握ってオズワルドに聞いてくるのだった。
……そ、そうだ、そうだ!!そんな風に断言する証拠がそもそもないだろう!!!だって私が勝手に一人で死んだのだから、あってたまるかって感じだし!!
ファニーは心の中でプリシラに全面的に同意した。そんなプリシラの発言をオズワルドは、少しだけ面倒くさそうに、プリシラに言い聞かせるように返した。
「それは、犯人が一番理解していることだと思うな。それにね、プリシラこの状況で犯人がここにいないなんて断言するのなんて、犯人にしかできない、と僕は思うけれど?」
……え?ん?プリちゃんの疑問の答えになってないよね???
だってプリちゃんは、そんな風に犯人がここにいると言い切る理由を聞いているのに、オズが返したのは、そういう事を言う人間は、犯人だと断定できるなんて言ってるわけでしょ??
てっきりファニーは前世で見てきた名探偵のアニメやドラマのように、それはズバリあの時を思い出してほしい、みたいな感じで皆がこの場に犯人がいるという事を納得するような答えをズバッというのかと思っていたが、オズワルドはそんなこともなく、質の悪い返答をした。
「っ、わ、私がそんなことするわけないじゃないですか!」
「それなら、犯人捜しになんの異論もない、違うかな?」
「そ、それはっ」
……そりゃそうだけど、嫌だろう普通に。なんで死体を見ながら話をしなければならないんだと、誰だって思うだろう。
それなのに、どうしてそれを拒絶しようとしただけで犯人扱いされなければならないのか、ファニーは妹が不憫でならなかった。
しかし、それでもファニーが魔法を解かない限りは、この騒動は続いていく、プリシラがまずはこの犯人捜しに異を唱えたことによって、怪しいと思われてしまった。そして誰もオズワルドを止めることが出来なくなった。
嫌な探り合いのような雰囲気が流れて、お互いにお互いを監視し合うようにじっとにらみ合う時間が続いた。その沈黙の時間を前に進めようとオズワルドは、少しだけにこやかな声で、ファニーの椅子の肘掛けに手をついて立ったまま彼らに問いかけた。
「さて、じゃあ、聞くね。ファニちゃんに毒を盛った人間を知っている、もしくは怪しい行動を見た人、正直に手を挙げて」
そして彼は、小学校の先生みたいに彼らにそう問いかけた。ファニーを背にして皆に向いているのでファニーからは、オズワルドの顔は見えない。
けれどもいつもの彼らしく物腰柔らかい笑みを浮かべていることは想像に容易い、けれども、今の彼の言動はさっきのプリシラの発言を一蹴した時のように切れ味が抜群で、こんな状況に置いての、そんな柔らかな声がすごく場違いで、彼の異様さを引き立てているようだった。
「……」
オズワルドの質問にやはり誰も答えない。
ファニーはそれを見てほっとした。そうあってしかるべきだ。だって、犯人などいないのだから犯人捜しなどやっても意味はない。逆にオズワルドがここまでファニーの死の真相を知ろうとしているところでパパーンとファニーがよみがえって、彼に恨まれないかの方が心配ではあるが、拗れるまえによみがえった方が吉だろう。
そんな風に考えて、白魔法を使おうとしたその時、またもや想定外の事態が起こった。
美しくネイルをしている指先をそろえて、小さく手を挙げたのは、ベアトリクスだった。彼女は勝気な瞳を恐ろし気に歪めていて青ざめた顔で、ファニーを見ながら、口を開いた。
「……わたくし、見ましたわ。そこの……メイドが、ファニーのお皿に何かおかしな事をしているのを」
そういってファニーから、その奥に控えているファニーのお付きのメイドのシャーリーへと視線を移す。彼女がどんな反応をしているのかファニーからは見えないが、ごくりと息をのむ音が聞こえた。
……そ、そんな馬鹿な……。証言が出てくるだと!?
ファニーはもはや意味が分からなくて、驚きそのままにベアトリクスの話を聞いた。
「きっと下賤の者を買収して、ファニーをよく思わない貴族がど、毒を……ああっ、ファニーわたくしの親友どうしてっ!!」
それからベアトリクスはおいおいと泣き出す。ハンケチで目元を覆って、悲嘆にくれているようにも見えるが、ややわざとらしかった。彼女は悪い子ではないのだが、ファニーからすると言動が大げさであり、嘘っぽく見える。
それでも傷つけてしまったのだろう。それにこのままシャーリーが疑われて罰されても困る。シャーリーはファニーが幼いころからずっとお世話になっている特別な専属メイドだ。彼女が毒を盛るだなんて毛頭ありえない。
それなのに、貴族であるベアトリクスにそんな風に断言されては、彼女は、身分の差で自分の弁明をすることも許されない。おのずと犯人は彼女ということになってしまいかねない。
あってはならない事態なので、これまた白魔法を使おうと考えるが、今日は想定外の事ばかりで、いつもファニーのわがままも優しく「仕方ありませんね」と聞いてくれる、おおらかで、まったく怒ったりしないシャーリーの強張った声が聞こえてきた。
「恐れながら、オズワルド様。ファニー・メルヴィル様の専属メイド、このシャーリーめにこの場での発言の許可をくださいませんか?」
「許可しよう」
「ありがとうございます」
そんなやり取りが聞こえてファニーは、心の中で鳩が豆鉄砲食らったような顔をしながら瞳を瞬いた。
後ろに控えていた彼女はファニーのすぐ隣へとメイドの制服をなびかせながら出てきて、シャンと背筋を伸ばして、皆を見据える。ベアトリクスの発言でこの場が収まるだろうと考えていた人間が大半らしく、ファニーと同じようにして、驚いている様子だった。
それからすぐに警戒の色を見せる。しかし、この場にいる一番身分のたかいオズワルドが彼女の発言を許可した以上は、遮る者もおらずにシャーリーは女性らしく大人っぽい声で言うのだった。
「皆様に、給仕していたのはわたくしです。ですから疑いの対象にされてしまうのももっともであると理解しています。しかしながら、わたくしめにはわが子のように思い接してきた、命にも代えがたい主様を手にかける動機がございません」
ゆっくりと丁寧に、しかしきっぱりと言い切って、ファニーはやっぱりシャーリーはありえないだろうと、思ってから、いや、そもそもここにいる誰も犯人ではないのに何を流されているんだと自分にもツッコミを入れた。
そんなシャーリーの発言に対して、およおよと泣いていたベアトリクスが、急にばんっとテーブルに叩きつけるようにしてハンケチを置いて、まったく涙も出ていない瞳できつくシャーリーを睨んだ。
「こんな、メイドなど金銭で簡単に寝返らせることができますわ!!この者は自分の命をつなぐためにこんな嘘を言っているだけですの!!」
彼女は声を荒げて言う。ファニーはその視線がシャーリーではなくオズワルドへと向いていることに気がついた。
……ベアちゃんって使用人さんに厳しいっていうか、あんまり尊重しないっていうか……う~ん。
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