転生令嬢、死す。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
7 / 18

7

しおりを挟む





 オズワルドは、ファニーの真横から少し前に出て、テーブルについている全員に向かって声を張って言うのだった。

「犯人はこの中にいる。見つかるまでは僕がこの場所から誰一人として離れるのを許さない」

 ……ええええええ!!!!!!

 面白くなりそう、そう思った矢先、すぐに面白い展開になった。犯人なんかいない、だってこれドッキリだから。そう魔法を解いて言ってもよかった。

 それでも十二分に楽しかった、しかしながら長年昔馴染みとして親しんでいた彼が、推理小説の探偵のように出てきていったい何をするのか、それがどうしても楽しみでファニーはドキドキトキメキながら、物理的に死んだようになったまま、次の展開に期待した。

 しかし、実際のところは何言ってるんだこいつという反応をされて、その場を別の誰かがまあまあ、一旦落ち着いてと、諫めるのかとファニーはおもったのだが思ったが、その予想も外れて、全員が空気に呑まれて、犯人がこの中に?みたいな訝しんだ表情をするのだった。

 それからプリシラが、とても怯えたような声でいう。

「そ、そんなっ! 犯人がこの中にいるだなんて、どうしてそんなこと、わかるんですかっ」

 彼女は心細いというようにぎゅっと自分の手を手で握ってオズワルドに聞いてくるのだった。

 ……そ、そうだ、そうだ!!そんな風に断言する証拠がそもそもないだろう!!!だって私が勝手に一人で死んだのだから、あってたまるかって感じだし!!

 ファニーは心の中でプリシラに全面的に同意した。そんなプリシラの発言をオズワルドは、少しだけ面倒くさそうに、プリシラに言い聞かせるように返した。

「それは、犯人が一番理解していることだと思うな。それにね、プリシラこの状況で犯人がここにいないなんて断言するのなんて、犯人にしかできない、と僕は思うけれど?」

 ……え?ん?プリちゃんの疑問の答えになってないよね???

 だってプリちゃんは、そんな風に犯人がここにいると言い切る理由を聞いているのに、オズが返したのは、そういう事を言う人間は、犯人だと断定できるなんて言ってるわけでしょ??

 てっきりファニーは前世で見てきた名探偵のアニメやドラマのように、それはズバリあの時を思い出してほしい、みたいな感じで皆がこの場に犯人がいるという事を納得するような答えをズバッというのかと思っていたが、オズワルドはそんなこともなく、質の悪い返答をした。

「っ、わ、私がそんなことするわけないじゃないですか!」
「それなら、犯人捜しになんの異論もない、違うかな?」
「そ、それはっ」

 ……そりゃそうだけど、嫌だろう普通に。なんで死体を見ながら話をしなければならないんだと、誰だって思うだろう。

 それなのに、どうしてそれを拒絶しようとしただけで犯人扱いされなければならないのか、ファニーは妹が不憫でならなかった。

 しかし、それでもファニーが魔法を解かない限りは、この騒動は続いていく、プリシラがまずはこの犯人捜しに異を唱えたことによって、怪しいと思われてしまった。そして誰もオズワルドを止めることが出来なくなった。

 嫌な探り合いのような雰囲気が流れて、お互いにお互いを監視し合うようにじっとにらみ合う時間が続いた。その沈黙の時間を前に進めようとオズワルドは、少しだけにこやかな声で、ファニーの椅子の肘掛けに手をついて立ったまま彼らに問いかけた。

「さて、じゃあ、聞くね。ファニちゃんに毒を盛った人間を知っている、もしくは怪しい行動を見た人、正直に手を挙げて」

 そして彼は、小学校の先生みたいに彼らにそう問いかけた。ファニーを背にして皆に向いているのでファニーからは、オズワルドの顔は見えない。

 けれどもいつもの彼らしく物腰柔らかい笑みを浮かべていることは想像に容易い、けれども、今の彼の言動はさっきのプリシラの発言を一蹴した時のように切れ味が抜群で、こんな状況に置いての、そんな柔らかな声がすごく場違いで、彼の異様さを引き立てているようだった。

「……」

 オズワルドの質問にやはり誰も答えない。

 ファニーはそれを見てほっとした。そうあってしかるべきだ。だって、犯人などいないのだから犯人捜しなどやっても意味はない。逆にオズワルドがここまでファニーの死の真相を知ろうとしているところでパパーンとファニーがよみがえって、彼に恨まれないかの方が心配ではあるが、拗れるまえによみがえった方が吉だろう。

 そんな風に考えて、白魔法を使おうとしたその時、またもや想定外の事態が起こった。

 美しくネイルをしている指先をそろえて、小さく手を挙げたのは、ベアトリクスだった。彼女は勝気な瞳を恐ろし気に歪めていて青ざめた顔で、ファニーを見ながら、口を開いた。

「……わたくし、見ましたわ。そこの……メイドが、ファニーのお皿に何かおかしな事をしているのを」

 そういってファニーから、その奥に控えているファニーのお付きのメイドのシャーリーへと視線を移す。彼女がどんな反応をしているのかファニーからは見えないが、ごくりと息をのむ音が聞こえた。

 ……そ、そんな馬鹿な……。証言が出てくるだと!?

 ファニーはもはや意味が分からなくて、驚きそのままにベアトリクスの話を聞いた。

「きっと下賤の者を買収して、ファニーをよく思わない貴族がど、毒を……ああっ、ファニーわたくしの親友どうしてっ!!」

 それからベアトリクスはおいおいと泣き出す。ハンケチで目元を覆って、悲嘆にくれているようにも見えるが、ややわざとらしかった。彼女は悪い子ではないのだが、ファニーからすると言動が大げさであり、嘘っぽく見える。

 それでも傷つけてしまったのだろう。それにこのままシャーリーが疑われて罰されても困る。シャーリーはファニーが幼いころからずっとお世話になっている特別な専属メイドだ。彼女が毒を盛るだなんて毛頭ありえない。

 それなのに、貴族であるベアトリクスにそんな風に断言されては、彼女は、身分の差で自分の弁明をすることも許されない。おのずと犯人は彼女ということになってしまいかねない。

 あってはならない事態なので、これまた白魔法を使おうと考えるが、今日は想定外の事ばかりで、いつもファニーのわがままも優しく「仕方ありませんね」と聞いてくれる、おおらかで、まったく怒ったりしないシャーリーの強張った声が聞こえてきた。

「恐れながら、オズワルド様。ファニー・メルヴィル様の専属メイド、このシャーリーめにこの場での発言の許可をくださいませんか?」
「許可しよう」
「ありがとうございます」

 そんなやり取りが聞こえてファニーは、心の中で鳩が豆鉄砲食らったような顔をしながら瞳を瞬いた。

 後ろに控えていた彼女はファニーのすぐ隣へとメイドの制服をなびかせながら出てきて、シャンと背筋を伸ばして、皆を見据える。ベアトリクスの発言でこの場が収まるだろうと考えていた人間が大半らしく、ファニーと同じようにして、驚いている様子だった。
 
 それからすぐに警戒の色を見せる。しかし、この場にいる一番身分のたかいオズワルドが彼女の発言を許可した以上は、遮る者もおらずにシャーリーは女性らしく大人っぽい声で言うのだった。

「皆様に、給仕していたのはわたくしです。ですから疑いの対象にされてしまうのももっともであると理解しています。しかしながら、わたくしめにはわが子のように思い接してきた、命にも代えがたい主様を手にかける動機がございません」

 ゆっくりと丁寧に、しかしきっぱりと言い切って、ファニーはやっぱりシャーリーはありえないだろうと、思ってから、いや、そもそもここにいる誰も犯人ではないのに何を流されているんだと自分にもツッコミを入れた。

 そんなシャーリーの発言に対して、およおよと泣いていたベアトリクスが、急にばんっとテーブルに叩きつけるようにしてハンケチを置いて、まったく涙も出ていない瞳できつくシャーリーを睨んだ。

「こんな、メイドなど金銭で簡単に寝返らせることができますわ!!この者は自分の命をつなぐためにこんな嘘を言っているだけですの!!」

 彼女は声を荒げて言う。ファニーはその視線がシャーリーではなくオズワルドへと向いていることに気がついた。

 ……ベアちゃんって使用人さんに厳しいっていうか、あんまり尊重しないっていうか……う~ん。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...