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 流れる涙をそのままにして、口を薄く開いて呼吸をした。
 柔らかなシーツが心地よくて、眠気が襲ってくる。目を瞑ればすぐに眠ってしまいそうで、けれど、眠ろうとすれば、また彼に魔術を使われてしまう。何とか目をつむらないように、頬の内側を噛む。

「……」

 彼が視界に写って、無言でこちらを見つめた後、ふと手を伸ばす。
 体は勝手に、びくと反応してしまい。殴られるか、また魔術を使われるんじゃないかと、覚悟をして目をぎゅっと強く瞑る。

 何をされたのか覚えてないほど、色々な方法で、痛めつけられた、もう、手足の枷はないのに、体は怯えるばかりで、抵抗する気力もない。

 ……。

 痛みに、備えていたのに、いつまでたっても何も起きずに俺はそろりと目を開く。
 
 すると、その手は、俺の頬に触れて緩く撫でた。

「……怯えないでくれ」

 ポツリとヴァレールは呟いて、少し悲しげに笑った。

 無理な話だ。怖ぇよ。

 だって、これはさすがにあんたが悪ぃだろ。

 ジンジンだか、ガンガンとあらゆる場所が痛いし、涙と汗を流しすぎて喉が渇いたし、まだ続かないとも限らない。

「やりすぎた事は、自覚してる。君にも何か思うところがあって、行動に出たのだろうとわかっていた」
「……」
「ただ……もう付き合えないと言うのなら、君を手放すことも考えているよ」

 その声は、なんだか寂しそうで、やった側が、傷ついているのはどうかと思うが、俺まで何か悲しくなってきた。

 ヴァレールは手を離して、ベッドの縁に腰掛ける。顔が見えなくなってしまい、背を向けられると、本当に俺がそうして欲しいと言ったら俺を手放してしまうのではないかと心配になった。

 こんな程度の事で、そんなこと言うな。

 先程まで、彼に否定的であったはずなのに、彼の一言ですぐに、自分の意思は塗り替えられる。
 酷い事をされたはずなのに、喉元過ぎればなんとやらだ。

 それに、俺が煽ったのだし。
 
 ……そうだった。俺は彼に、何も意味もなくあんな態度を取ったのではない。すっかり忘れていた。
 疲れて、力を入れるだけでガクガクと震える体を何とか叱責して起き上がる。

 俺は……あんたにならいいんだ。
 先程までの非道な事だって、過ぎてしまえば痛かったような、辛かったような、でも、気持ち良かったようなという、ぼんやりとした感想しか思い浮かばない。

 こんなのは、きっと良くないのに。
 俺が、抱いてはいけない感情のはずなのに。

 背後から、のしかかるように、ヴァレールの背に抱きついた。

「そんなダセェこと、いわ、ねー」

 今の状況だって、かっこつかない事は確かなのに強がる言葉が口をついてでる。
 でも、この方が自分らしいと思った。

 彼は、驚いたように振り返って、俺と目が合う。

 やはり、何度見ても隈が酷くて、嬉々として俺を虐めていたさっきと違いまた、草臥れたおっさんに戻っていた。
 そんでもって、少ししょげてみえる。

「あんたが、必死こいて、死にてぇみたいに無理して仕事するから、それが贖罪とか、そういうん、みたいだから」
「……」
 「そんな痛々しい、あんた見たくねぇから、無理すんなって、言いに来ただけ」

 ぼんやりと回らない頭で、何とか、要件を口にする。
 これが言いたいだけだった、ここ二週間ぐらいずっと。俺を抱かないのも、気にかけないのも別に良い、けれど、自分を無下にして欲しくはなかった。

 恩がある、住むところと、美味しい食事、それから、良い同僚、散々与えてくれた。
 
「……それは……。それと君の暴言と、どう関係があるのかな」
「ン、あー……普通に言っても、聞かねぇかな。とか……考えた、なら、あんたが無理しなきゃいけねぇ理由をちったあ忘れられるように、煽って……みた」

 ヴァレールは少し眉を顰めて、口を開いたあと言い淀んで、口を閉じる。それから、ベットに上がって、何かをこらえるように口を引き結ぶ。

 俺を押し倒すように肩を抑えて、ベッドに押し付ける。
 
 まだ、ひでぇ事されんのかな。

「君は……」

 絞り出すような声で、言った後、続きは無い。

 苦しそうに、ヴァレールは笑顔を作って、それから俺にキスをする。

 柔らかな感触が伝わって、そういえば初めて、唇同士でしたと思った。

「心配かけてすまない。君の優しさに漬け込むような事をしてしまった」
「俺は、優しくねぇ」
「あぁ……そうだな」

 否定すれば、肯定されて、頭を撫でられる。
 
 優しいとすればあんただ。

 ヴァレールにつけられた傷が痛むくせに、嘘みたいな事を思った。




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