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 ヴァレール達は夜遅くに帰ってきた。アルフレッドが対応すると言われていたので、眠っているとモーリスは音を立てずに部屋に帰ってきて、小さな声で一言「ただいま」とだけ言って、服を脱ぎ布団に入った。

 俺の眠りを邪魔しないようにという心遣いだと思うが、目はつむってはいるものの寝てはいない。

 というか、さすがに、限界が近かった。
 尿道に刺さっているプラグのせいで内側から刺激され続けていて、身じろぎするのだって辛い。
 他のことに集中している時は、気をそらせるのに、こうして、目を瞑っているだけでは、感覚に集中する事になる。

 性器が熱を持ち始め、器具の中に張り詰めるように大きくなるが、ジンジンと痛いばかりで、視界が涙に歪む。
 こんな夜は三日目だ、今日こそは彼が帰ってきて、楽になれると、思っていたのに。

 なんで、こんな時間なんっだよ。クソ野郎。

 これじゃあ、わざわざ彼の部屋へ行ったら、俺が待っていたみたいじゃないか。
 そんな風にあいつの思い通りになるのは嫌だ。

 癪に障るし、外して貰えたとしても、あいつはそれだけじゃ満足しないだろう。今度、鞭で打つと言われているし、それを分かっているのに、彼の部屋に行くという行為が嫌だ。

 呼ばれるまで行かねぇからな。絶対。

 イラつきながらも、意地で眠りにつく。
 足と足を擦り合わせて、触れて気持ちよくなりたい欲求を何とか我慢しようとするが、息が荒くなるばかりで、どうしようも無く切なかった。


 次の日は仕事に支障が出た。モーリスは体調が悪いのかと心配をしてきたが、謎にフロランがサポートに入り、俺は、午後に休みを貰った。

 ……ヴァレール野郎に無理やり性欲管理されてるから今日はきついなんモーリスにて言ったらどんな反応するんだろぉな。

 熱に浮かされた頭の中でぼんやりそんなことを考えていた。
 アルフレッドが置いていった、紙とペンで、文字の練習をする。少し手が震えて、それにしても今日は随分と疲れるのが早い気がする。確かに、貞操帯のせいで不調なのは事実だが、それだけじゃなかった。

 小さく小刻みに震える手を見つめていれば、急に心臓を鷲掴みにされたような、酷い痛みに、椅子の上で体が跳ねる。

 バクバクと大きな音を立てて心臓が脈をうつが、その生命活動を弄ぶように、キリリと痛んだり、どんどんと荒くノックされているかのように緩急をつけて痛む。
 
「あ゛っ……あぐっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 酷い痛みに血の気が引いて、それでも呼吸を止めたら意識が飛ぶので無理やりに息をする。
 胸の中心を抑えるように力を込めて、流れる涙をそのままに、机に突っ伏す。

 おさまれ、治まってくれ。頼む。

 そう、何度も何度も願って、痛みに悶えているうちに、パタと俺の心臓は解放され、その安心感と脱力感に椅子から崩れ落ちた。

 そういう事、かよ。発作の前だったから、体が異変を訴えていたのかもしれない。

 痛てぇし、苦しいし、疲れるし、最悪だ。

 それに、毎回、今度こそ殺されるんじゃないかと気が気じゃないんだんだ。

「はぁ……ふざけんな。ちくしょう」

 服で適当に汗を拭って、椅子に戻る。
 もう痛みは無いはずなのに、カタカタと手が震えるのは治らない。額の汗を拭って、唇を噛み締める。

 言い表し用の無い感情が、渦巻いて、衝動的に、デスクを拳で思い切り叩き、手が痺れるように痛い。

 何かこのままでは行けないような、今すぐ、何かしなければならないような、自分がこのままだとすぐにまた、痛みが襲ってくるような気がして、立ち上がる。
 けれど、椅子が床に引っかかり上半身の重心が後ろに倒れ、そのまま床に激突した。

 さほど痛くは無い、けれど起き上がる気にもなれなくて、床に転がったまま焦燥感に震える。

 産まれた時から、こうなのに、アルフレッドのように認めたり出来ない。いつだって、たまらなく嫌だ。

 受け入れられる日なんてこない。

 焦る気持ちと、どうしようもないという絶望感にどんどんと思考が飲み込まれて行くそんな中で、廊下から、足音が聞こえた。

 ……誰だ?

 ゆったりとした音で、フロランより重たい。
 でも、モーリスはもっとバタバタ歩く。アルフレッドはやや早足だ。

 気になり、音に集中してみても、やはり分からない。

 その足音は部屋の前で止まった。

「シリル、居るかな。入るよ」

 ……ヴァレール。

 他の人間なら、無理して起き上がろうかと思ったが、彼にならべつに問題ないだろう。だって、俺が、苦しんでることの原因のひとつでもあるんだから、少しはそれで、心配でもなんでもすればいい。

 返事をしなくとも、彼は扉を開けて、部屋を覗き込む。

 床に倒れたまま、彼をにらみつければ、俺の体勢に少し驚いた様子だったが、部屋に入ってきて、すぐ側にしゃがむ。

「何をしているんだい、眠るのならベットに入らなければ」
「……寝ねぇよ」

 「よいしょ」とおっさん臭い掛け声で俺を持ち上げ立たせた。
 自分は重くも無いが普通の一般男性なのである程度体重はある。持ち上げられるという事は、彼は案外鍛えているのかもしれない。

 体もでけぇしな。

 立ち上がってみれば、まだ体が妙に緊張していて、何となく自分の動きがぎこちないような気がする。
 
「体調が悪いと聞いたが、気分はどうかな」
「悪ぃよ……あんたのせいでな」
「ふむ……なるほどね。外してあげよう。ズボンを下ろしなさい」

 俺の言い方で、何故、休んでいるのかを察したらしく、自分のポケット中をまさぐる。

 外して貰えるのは嬉しいが、今は正直その事は頭から消えていた。今もまだ残る、痛みの余韻の方が嫌だった。

 彼は、ソレを外せばすぐに居なくなってしまうだろう、俺は体調不良で休んでいる手前、外に出ることは出来ない。
 ひとりで、発作の事を考えるのは嫌だ。
 鬱々とした感情をひとりで処理するのは、苦しい。きっと、ひとりになってもいいことはない。

 そう思えば、鍵を取り出したヴァレールの手を掴んでいた。

 全く、見計らったようなタイミングだ。今、じゃなければ俺はこんな事しなかった。

「連れてけ……あんたの部屋。それで、あんたの好きにしろよ」
「……どうした、急だな」
「いいだろ、べつに」
「構わないが……」

 彼は俺を探るように見て、不意に手を伸ばす。
 急な行動に身を固くすると、ヴァレールはその手で俺の頬を撫でて、暫し逡巡した後、目を細めて笑顔を浮かべる。

「行こうか……今の君はまるで、ひとりが不安だと怯えている子供のようだ。そう弱々しいと断れない」

 フッと煽るような笑みを浮かべて俺に手を差し伸べる。素直に、しっくりと来た。その通りだった。
なんと言われようとも、そうなのだから仕方がない。

 手を取って、ヴァレールを見上げる。

「……どうやら、本当に弱ってるらしい。参ったね」

 そう言いながら、廊下に出る。
 参ったなんて言いつつ、嫌そうな顔は浮かべず、むしろ嬉しそうでもあった。




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