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 「ところでさ、気になってたんだけど変なこと聞いていい?」

 ゴトゴトと揺れる馬車の中、フロランが沈黙を破った。
 彼女の方へ視線を向けると少し間を開けてぽつりと口にする。

「君、貞操帯つけられてる?」
「ッ!?……ばっ、はっ?んなっわ、け……」
「無い?あれを用意したの私なんだけど」
「はぁ?……」

 用意って。あいつメイドになんて事させてんだ!

 一瞬、言い淀み、その後しまったと思う。これじゃあ付けているというのがバレバレだ。
 それに、つけてないと言って見せてみろと言われたら、嘘がバレてしまう。いや、見せるってなんだ。
 女にそんなこと……おんな?

「まて、待ってくれ、あんた、男……だったよな?」
「うん、性別はね」

 男……亜人だからか?いや、にしても、女性的だ。仕草、表情、声どれをとっても男性らしい要素が思い浮かばない。

「……そっか、やっぱり、つけられちゃったか。痛いところない?」
「ねぇよ!ふざけんな!」
「あははっ、キレてる」

 フロランは、軽快に笑って口元を抑える。俺は、今すぐ馬車から飛び降りたい衝動に駆られるが、あいにく、件の貞操帯のせいで動きがにぶい。行動に移したらコケそうだった。

「まぁ、それだけ愛情を注いでるとも言えるけど、あの人、相手の事も考えないとだよねぇ。ふふ」
「そんな、愛情表現あってたまるか」
「そうだね、普段はどうしているの?口淫で御奉仕はしている?リードはずっとあの人?」
「うっるせぇ、聞くな!」

 モーリスには言ってもいいと思っていたし、まったく気にならなかったが、女性の容姿でこういう事を言われるとおちょくられているような気持ちになる。
 男だという事実を知っていても、そうすんなりと受け入れられない。

「私、昔は娼館勤めだったからさ、相談に乗れるよ?ほらほら、君はまだまだ初心そうだからね、お兄さんが手取り足取り男を籠絡する方法教えてあげる」

 俺の反応を面白がって、フロランはどんどんヒートアップしていく。

 なんっだ、こいつ!面白がりやがって!

「サイズは分からないけどあの人の事受け入れるの大変じゃない?楽になる方法も教えてあげるよ」
「……だから!話す気ねぇ!」
「行為の最中も君はその喋り方?あの人つんつんしたのが好きだったのかな」
「知らっねぇよ!」
「実はヴァレール様、マゾとか?」
「はぁ?ねぇだろ、あれでマゾはねぇよ!」
「じゃあサド?でも想像つかないな、奴隷時代のアルフレッドにでさえ、鞭なんか使ってる所も見た事ないし」

 ……??

アルフレッド昔は奴隷だったのか……?いや、違うそこじゃない。

 心底、楽しそうに思案するフロランに言う。

「あいつ、よく鞭使うぞ」
「……へぇ。どんな時に」
「俺が汚ぇ言葉使った時……とか、嫌がった時……とか」

 フロランはかっと目を見開いて、俺の肩をガシッと掴む。以外にも力が強い。体は鍛えているんだろう。

「じゃあ、行為も結構ハード?命令されたりもする?」
「……する、けど」
「様子はどんなかな」
「結構……楽しそうっちゃ楽しそうだけど」

 一昨日の事を思い出し、少し苛立つ。貞操帯をつけられたあげく、君の頭の中が自分でいっぱいになるだとかなんだとか。
  そういえばサディストかと言ったこと聞いた事があった、それをあいつは否定しなかった。 
 
 奴隷相手にだから、鞭を使うし、無茶も言う、俺が何を言っていようが自分の意見を通す。そうだ、なんだかんだいって、あいつの行動は割と矛盾していた。日常的に奴隷根性がなくなるように、生活させるくせして、夜は、服従を強いてくる。

 というか、俺だってはなから、愛だとか情だとかそういうもので救った、交わりたいと言われて、フロランや色んな人間からヴァレールは、俺みたいな奴隷を自由にしたいと思っていると言われれば、少しは信用できただろう。

 もちろん、立場が変わり価値観が変わることによる不安はついてまわっただろうがそれだけだ。

「……あいつ、俺を奴隷扱いしてたんじゃなくて、性癖じゃねぇか」
「……ンッフ、ふふふふふっ」
「ただの、ドのつくサディストかよ」
「ふふふっあははっ」

 嫌なことに、自分の中でもそれが一番、納得できてしまい、頭を抱える。

 ばっか見てぇ。くそ、今度会ったらただじゃおかねぇ。

「っふふ、ああっ面白い……っそっか、あの人やっぱり不器用だよね」
「そういう問題じゃねぇだろ、ややこしいことしやがって」
「なぁに?何がややこしかったの?」
「奴隷らしく黙ってりゃ、話せっつたり、そのくせ鞭は使うし、拒否も怒られるし。あいつ、やっぱり楽しんでやがった」
「ふぅん、気に入った子には、命令したりお仕置したりするのが好きなタイプか」

 彼女は、艶っぽく笑って、すっと足を組む。そう言葉にされるとしっくりくる。確かにそんな感じだ。

「しかしさ、やっぱり君は嫌?受け入れられないの?」
「嫌だね、やんなら、もっと」
「……もっと?」

 続きの言葉が出てこなくて、首を傾げる。
 もっとなんだと、言うんだろうか、もっと優しく?もっと甘ったるい方がいい?
 ……自分に限ってそんな事は無いような気がした。何にせよ、性行為はヴァレール以外知らない。……だから、何が自分が好きなのかも分からない。ただ、今までこんなに他人に対して悩んだことは無かった。思い出して自慰したくなったのだってあいつにだけだ。

 だったら、俺はあいつが?…………っ!!

 考えるのをやめて、振り払うように頭を振る。挙動不審な俺をフロランが覗き込み、ふと言った。

「シリル、顔赤いよ」
「ッ!」

 顔を覆って、出来るだけフロランから離れ、馬車の端っこへと移動する。

 先程まで次あったら、ただじゃおかない、などと考えていたのに、彼が帰ってきたらそんな事を言うどころでは、無くなってしまいそうで情けなさにさらに顔が熱くなった。




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