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しおりを挟む手斧を遠心力に任せて振り下ろすと、生木に打ち付けた時のような重たい音がして、水風船が弾けるように血がだくだくと溢れだしてきた。
斧で断ち切れなかった肉の部分を強引に引きちぎって大きな車輪の一輪車へと投げ込む。
ドチッと、濡れた音がして死体が芝生へと倒れ込む。
「はぁ……」
こう言った作業は今までした事が無かったが、思ったより労力がかかる。まだ、洗濯や掃除の方が楽だろう。
それに割と不快だ、自分と同じ生き物をバラすということは、精神的に苦痛を伴う。慣れてしまえば多少和らぐが、この場の独特な重苦しい雰囲気だけは変わることはない。
モーリスの進み具合を確認すると、彼の作業している場所は酷いものだった。
ところどころ、内蔵なのか脂肪の塊なのか謎の物が散乱し、モーリスが今にも取れそうな頭を蹴っ飛ばしてそれがゴロゴロと重たく転がり近くの木に命中する。
「……あんた、そりゃ、ないだろ」
「ン?だってこの後、休みだよ?早く終わらせるに越したことないしね!どんどん行くよ」
「そういう意味じゃねぇ」
急いで作業するのは良いけど、如何せん雑すぎだ。いや、綺麗にばらしたところで何が変わるということも無いのはわかっているが。
モーリスは次の死体を引っ張ってきて、ナイフで服を切り裂いていく。それが終わると、俺と同じ手斧で、バキバキ音を立てながら死体を細かくしていく。
この元『お客様』たちは、弔うこともせずに、こうやってばらして運び、森にばら撒くらしい。確かに火葬や土葬なんかよりコストがかからないが、こんな事一般人は誰もやりたがらないだろう。
「うわ、シリル見て、この子の髪、綺麗な色だ」
モーリスはそう無邪気に笑いながら、首をへし折り、それから斧で叩き切る。
その頭を鷲掴みにして、髪だけを切り取った。
「ヴァレール様に魔術で使えるか聞いてみよっと」
「……俺は死んだ人間の髪なんか、綺麗だとか思わねぇけどな」
「そう?毛皮なんかと一緒だよ、柔らかくて綺麗な色なら欲しいでしょ」
「あんたはそうでも、俺はちげぇってだけ」
「……」
モーリスは、俺の言葉に返事を返さずに、刈り取った髪を紐で結んで、血のつかない場所へと放った。後で持ち帰るつもりなんだろう。
言葉を交わすのをやめて、また同じ作業に戻る。モーリスは多分、俺より若い、けれどヴァレールとは付き合いが長くて、屋敷にも相当な年月務めている。にこやかで、一見優しげに見える彼の言動の中で、こういう残虐な部分は少しちぐはぐに見えた。
……誰だって色々あるもんだよな。
死体を見ればどれも一撃で、殺した人間が手練だと言うことが伺える。昨日モーリスが、戦闘をしていたことは確かで、この中には彼が殺した人間も混ざっている。殺しを楽しんでいる人間の殺し方はいつだって残酷だ、こんな綺麗な殺しをするやつが好きで殺し技術を身につけたとは思わない。そうしていくうちに残虐なことへの恐怖や嫌悪感がなくなって今のモーリスがあるんだろう。
そして殺しというのは屋敷で務め続ける上で必要な事だったんだろうな。
そう思うと、奴隷にまで好待遇だが、この仕事と切っては切り離せないこの屋敷の実態が少し恐ろしい。
モーリスが髪を綺麗だと言った死体は、奴隷証をつけている女性だった。燃えるような赤毛に、青い瞳、亜人の中で思い当たる種族がある。
奴隷はどうあっても主人には逆らえない、死ぬとわかっていても命令を遂行する。そんな奴隷たちがこうして殺され、ただの動物のように捌かれて捨てられる。
……今、死体になってるこいつらと、俺の違いって何だろうな。
出来るだけ考え事をせずに、手を動かして居ると、いつの間にか仕事は終わる。
モーリスはもう既に仕事を終わらせていたようで顔をあげると、木に寄りかかりナイフを弄んでいる彼と目が合った。
「んー……終わった?」
「あぁ」
「…………あー」
彼は気の抜けるような声を出して、項をさする。
終われば休みだと張り切っていたのに、何かを迷っているような、煮え切らない態度で視線を空にさ迷わせる。
「どうした」
「えー、と。…………もうひとつそういえば仕事があったんだった」
そのぐらいならなんの問題もない、なんなら俺一人でやったって良いし。本当は彼も疲れているはずだ、睡眠時間も短かったんだし。
「俺に出来ることなら、ひとりやるが?」
「いや、お前に関することだし、一人じゃ無理」
彼はそう言い折りたたみ式のナイフをパチンとしまって、地面に無造作にほっぽってあった短剣を拾い上げる。森に死体を運ぶので獣に対する護身用だと思っていたが違うらしい。
「はい、お前の」
軽く投げられて、突然の行動に驚きつつもキャッチするとズシンと重たい。
「僕はこれでいいか」
先程まで使っていた、手斧をとり、軽く血を振り払う。
何だ、妙な雰囲気出しやがって。
警戒しながら、彼の行動を目で追っていると、軽く踏み出し、唐突に斧で斬りかかってくる。
「ッ!!」
素早くなんの前振りもない行動に、思わず体が固まったが、何とか受け取った剣で防ぐ。
鈍い音が鳴り響いて、振動から腕にじんと痛みが走る。
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