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28 親友 その二
しおりを挟む「話は分かったわ。……ナタリア、あなた相当なことをやらかしましたわね」
「……うん」
ナタリアは彼女を部屋に招き入れて、何故だかバルコニーで二人きりで話をしたいといった彼女に了承した。
それから外を眺めながらナタリアの企んだことやアルフィーの事、お姉さまの事、この家の借金のことまで、すべて話した。
しかし話をしてみると意外とすぐに終わった。
もっとナタリアの中では様々なことがあったような気がするが、他人に話すと結局ナタリアが欲をかいて大失敗した話だ。
ただそれだけなのだ、それだけの事でナタリアはどうしたらいいのかわからなくなって毎日、途方にくれている。
けれども、こんな話ではしょうもないと呆れられて、シルヴィアにも見捨てられたりしないだろうかとナタリアは話し終えてから悲しくなった。
「……はぁ」
もとから鋭い瞳をさらに鋭くして、クランプトン伯爵領の森を見つめる彼女にナタリアは不安になって言い訳を重ねた。
「でも、こうなるまで家の状況を知るすべなんてなかったのよ。よく考えなかったのも悪かったけど、こんなことになってるなんて知ってたら、あんなこと提案しなかった」
「……」
「自分から悪い方に進んでいったなんてことはわかってるでも、元々借金をしたのはお父さまとお母さまだし、どうして私がっていう気持ちもあるの」
「……」
「だからと言って、自分の領地を見捨てる様な貴族としてあるまじき行為をするつもりはないわよ! これでもプライドぐらいは私の中にもあるんだもの」
ナタリアは、静かにしているシルヴィアに不安になって、あれこれと色々な言い訳をする。
そのどれかにシルヴィアが反応してくれて、好意的に思ってくれたらいいなと考えての言葉だったけれど結局シルヴィアはナタリアを一瞥するだけで、ナタリアが静かになるまでそうして考え込んでいた。
「……」
「……」
沈黙が二人の間に重たくのしかかって、ナタリアはどうしても不安になって緑色のエメラルドの瞳に涙をためて、自分のドレスの裾をぎゅっと握った。
すると体からじわじわと魔力があふれ出して、バルコニーからキラキラした光が流れ落ち、留まることなく土地に溶け込んでいく。
「……」
普通はナタリアぐらいの年齢になれば滅多なことがない限り、魔力を操れなくなって感情のままにあふれだしたりはしない、しかしナタリアは、魔力をまったく使ってこなかったのでこう言ったことになることもままあった。
シルヴィアはその様子を見てから、仕方ないとばかりに控えめな笑みを浮かべて、ナタリアの手を取った。
「なんですの、子供みたいに感情を溢れさせたりして。とても淑女の振る舞いとは思えませんわ」
「……」
それからナタリアの頬に触れる。美しい水の魔法がキラキラとした光をはらみながら首筋にあったひっかき傷を優しく治した。
「……だって、シルヴィアが私に呆れて、声も出ないのだと思ったから。私はこのお屋敷以外に行く当てもないし、せっかく来てくれたあなたに嫌われたくなくて……」
シルヴィアはナタリアの言葉を聞いて、あまり表情を変えずに声だけでふふふっと笑った。
「どうしてわたくしがそんなことあなたを嫌うの? だってあなたは元からそういう子でしょう。わがままで、貪欲で、あまり周りが見えていない」
……そんなことっ……ない、とは……言い切れないけど。
酷い事を言うシルヴィアに、ナタリアはまた涙を浮かべた。
たしかに彼女は元から少々毒舌だが、一緒にいていつだってナタリアが社交の場でも、騙されて変な買い物をしそうになった時も、助けてくれたではないか。
それなのに、そんな悪口がすぐに出てくるぐらい疎んでいたのか。
だとしたらそれはとても悲しい。
「でもね、ナタリア、わたくしはあなたが好きよ。だって可愛いもの。子供らしく貪欲で、恵まれてきたゆえの腑抜けた考えがわたくしは大好き」
シルヴィアはうっとりと笑みを浮かべて、ナタリアの腕についていた青あざに水の魔法を掛ける。
フワフワとした水滴が集まってナタリアの腕の痛みを和らげていく。
「それって、誉め言葉じゃないじゃない!」
「あらやだ、誉め言葉ですわ。それも最上級の」
嬉しくない言葉だったけれども、つまりは嫌われているわけではないという事だけはわかって嬉しくなってしまった。
しかしそれで喜んでいると思われたらプライドが傷つくぐらいに、ナタリアはちょっと元気になって、いつもの調子でシルヴィアに返答を返す。
「嬉しくない!」
「だって喜ばせようとしていいってないもの。うふふっ。ただの自己満足ですわ」
「じゃあ、喜ぶ言葉を言ってよ。シルヴィア、私今、すごく大変なの」
何を考えているのかよくわからない微笑を浮かべながら、シルヴィアはひどい事を言う。
それにナタリアはやっぱりこの友人にはいつも敵わないと思いながらも泣き言のように返した。
「…………そうねぇ」
しかし、ナタリアのお願いを肯定するだけで、シルヴィアはやっぱり黙った。それから、ちらりと背後を振り返って、やっぱり小さくため息をついた。
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