【本編完結】捨ててくれて、大変助かりました。

ぽんぽこ狸

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26 後悔

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 ナタリアは、自分が間違っていたことに気がつくことができた。しかしこの状況からどういう風にすれば、自分もこの領地も助かることができるのか見当もつかなかった。

 ナタリアの事を気遣ってくれた侍女たちの為にも、領民たちの為にも、ナタリアは領地に必要な魔力を注いで屋敷を維持し、借金返済の為に動かなければならない。

 それはわかる。
 
 しかし、だからと言って、アルフィーに従って言われた通りに魔力を注いだり、彼のしもべのように扱われることなんて到底許容できない。

 大体のひとが自業自得の事態なのだからと今の状況を呑みこんで、いつかは脱却するために今の苦しみをこらえるのだということはわかる。

 わかりはするが、ナタリアは筋金入りの箱入りであり、苦労しらずの貴族であり、建設的な思考よりも、今嫌なことをやりたくないという気持ちが先行する子供だった。

 毎日何とか重たい体を起こして、机につき、侍女たちに言われながらまるで分らない書類と向き合い、時に癇癪を起しながら仕事をする。

 しかし、いつだって途中でアルフィーがやって来て、ナタリアを屈服させようとあれこれと文句を言ったり、暴力的な行動を取ったりする。

 そうするとナタリアはもうダメになって、子供みたいに感情に任せて魔力があふれ出てしまって、結局一日の終わりには、屋敷の為に使える魔力も何も残っていないすっからかんの状態になってしまうのだ。

 力の限りアルフィーに抵抗するので、変な生傷は増えるし水の魔法の癒しもつかえやしない。

 貴族なのに、こんなにボロボロの姿で毎日暮らして、同じ屋敷にアルフィーがいるせいで一時たりとも気が休まらない。

 取っ組み合いの喧嘩を毎日しているので、一日の終わりには体がギシギシいろんなところが痛みながらベッドに入る。

 父や母、姉がいた時には屋敷は平穏で、こんなに悲しい日には、当たり前のようにホットミルクにたっぷりのはちみつを入れて飲んでいた。

 しかし今はそんなことも許されないほどクランプトン伯爵家の借金は大きく、自分だけが贅沢することなど許されないと思う。

 いつかのお姉さまも、そんな気持ちだったのかとふとナタリアは思った。

 ……ううん。お姉さまはアルフィーと取っ組み合いの喧嘩なんてしていなかった。もっと楽だったに違いない。

 今の私と違って、お姉さまの苦労なんか十分の一も無いんだから。

 ナタリアは疲れ切った体を横たえながら、イライラしてそんな風に思う。

 しかし、そのことをお姉さまに言ったら、きっと彼女は「そうですね。あなたはよく耐えています。すごいです」と心配そうな顔をしながら言うのだと思う。

 そう言われたらナタリアだって、流石に申し訳なくなる。だってお姉さまに結婚相手を取り換えるという話をしたとき、彼女は一番に言ったのだ。

『随分と突然ですね、私は、父や母が死んでもこれだけは変わらないと思っていました』

 つまり、自分が今のナタリアの位置に収まることを決して拒んではいなかったのだ。

 それなのにナタリアのせいで勝手に取り換えられて、今自分だけがつらいなんて言うことは流石に恥ずかしい事なのだとナタリアも思う。

 だから言わない。

 それに、きっと建国祭の舞踏会でお姉さまに会って、彼女が普通にとても良い暮らしをしているように見えても、ナタリアは決してひがんだりしない。

 だって、人の苦労というのは、他人からは見えないし、当人しか知らないものだと思うから。

 きっとお姉さまと会って、とても幸せそうでも決して苦労がなくて楽しくてナタリアが取って代われるものではないと思うようにする。

 思わないようにするし、お姉さまの話もきちんと聞く。

 胸元のお姉さまと別れる日にもらったお母さまの形見のネックレスをぎゅっと手で握った。

 それから、どうしたらいいのか聞いてみるのだ。そして自分の話をしよう。それがいいきっといい。そうするべきだ。

 そうする、だからきっと早く、舞踏会の日になってほしい。
 
 ナタリアは、まだまだ遠いその日を夢に描きながら、目をつむってベッドの中で小さくなりながらくすんくすんと涙をこぼした。
 
 そんな日々はただゆっくりと続いていった。


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