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20 革命騒動 その一

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 レナルドの机の前に椅子を持ってきてもらって座り、二人は向かい合うようにしてこの国、フェリティマ王国の地図を見ていた。

 海に面した大陸の一部であるフェリティマ王国は、魔法的資源が豊富な土地であり、魔石の採掘や、魔草の採集なんかの商いが盛んで、海外の国や地続きの隣国とも多くの資源をやり取りしている。

 しかし、魔法的資源が豊富ということは、その分自然豊かな土地が多く残っているということで魔獣や自然災害の数もそれなりに多い。

 隣国などとの国家間の関係は良好とは言え、武力もそれほど高い方ではないのでそのリスクも考えながら、国を豊かにしていかなければならない統治の難しい国でもある。

 という、この国の基礎知識ぐらいはアイリスも知っていてクランプトン伯爵領の位置、今いる場所などは地図を見れば領地名が記載されていなくてもわかる。

「とりあえず国の地図を出してみたけど……あまり使わないかも」
「そうなんですか?」
「うん。……いや、革命派がどんな風に分布しているかっていうのを確認することもできるしあったら便利だけどね」

 そう言ってレナルドは、地図を見つめて難しい顔をする。

「でも順序を飛ばして話をしてもわからないと思うから、とりあえず、今回の騒動がどうして起きているのかっていう話をするね」
「はい」

 アイリスはこくんと頷いて地図からレナルドに視線をあげて、真剣に話に耳を傾けた。

「知っての通り、今の我が国の国王はコルラード国王陛下であり、彼は多くの功績を打ち立てた立派な方だ。

 特にフェリティマ王国の魔法的資源に目をつけて、国産品の質を高めて付加価値をつけるために、海外産の輸入を制限したり、高い税金をかけたり……前回の魔石の密輸入の件もこれをかいくぐって国産にまぎれさせて高く売ろうという魂胆だね。

 あとは、魔法的な資源を多く効率的に生み出すために、生産能力が高い領地にはどんどん国家予算をかけて投資していったし、古くから王家と癒着して領地の特別維持費なんていう名目で出されていた予算を大幅にけずったり。

 おおざっぱに言うと国家の為に財政面で多くの改革をした人物といったところかな」

 先日、身をもって体験した魔石の話も入ってきて、レナルドの言葉をすんなりと受け取れる。
 
 クランプトン伯爵家では、国王陛下や今のフェリティマ王国についてというような話はあまり聞かなかった。

 それにアイリスは借金とディラック侯爵家とどう対抗するかということで頭が一杯だったのでこういった。なので一領地ではなく、国全体がどんな風になっているのかという話は新鮮だった。

 それにしても、コルラード国王陛下はすごい人らしい、きっととても頭の良い人なのだろう。

 アイリスもフェリティマ王国の魔石は高く売れるという話ぐらいは基礎知識の中に入っている。

 そしてクランプトン伯爵家でも同じように、森にいる魔獣から魔石を取って国からの援助金なり補助金なりをもらえないかと考えたこともあったぐらいだ。

「国王陛下がそうして改革を進めていったことによって、それなりに反発はあったけれど、実際に利益が出て反発する人と比べ物にならないぐらいの支持者がいた。

 もちろん、その時にはまだ父も母も王宮に勤めていて、王族の方々の補佐に勤めていたし、俺も普通に護衛騎士として業務をしていたんだ。その時はまだまだ見習いだったけど」
「……おいくつぐらいだったんですか?」
「そうだね、十年前ぐらいだから、十二、十三とか……」

 革命の話に関係が無いとは思いつつもつい、見習いとして働いているレナルドの姿が気になって当時を想像しながら、何歳ぐらいの少年だったのかと聞いてしまった。
 
 彼はあまり疑問に思わずにアイリスにそう返して、今のアイリスよりもとっても小さな少年レナルドに思いをはせてみた。

 きっとニコニコした可愛い騎士だったのだろう。

「アイリスはそのころは……八歳ぐらい? きっとかわいかったんだろうね」
「いえ……妹の方が天真爛漫で女の子らしくてかわいいと両親はよく言っていました」
「そうなんだ。ご両親は元気な子供が好きだったんだね。俺は大人しい子も好きだけど」
 
 ……う、嬉しいと思ってしまう。

 彼のなんてことのない優しい一言がうれしくて、アイリスは胸の奥が苦しくなるような心地になったが、そのころのアイリスが天真爛漫ではいられなかったことには理由があったのだ。

 言わずもがな借金の事をそのころには知っていて、割とのんきな父と母に何故そんな風にしていられるのかと疑問でならなかったのだ。

 それを知って恐ろしくなった頃がちょうどその時期、十年前ぐらいだろう。


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