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19 知るべきこと
しおりを挟むしばらくするとレナルドははぁ、と短く息を吐き、それから切り替えてアイリスに笑みを向けた。
「……本当にごめんね、アイリス。君は楽しみにしていたのに……俺ももう少し友好的に接してくるかと思っていたんだけど……」
その笑顔はどこか少し悲しそうで、アイリスは思わず首を振って、彼を励ますように言った。
「いえ、とても難しい事情があるようですし、それに顔合わせという目的自体は一応達成したはずですから、レナルド様が謝ることは何もありません」
「そんなことないよ。両親のせいで君に不快な思いをさせてしまったのは俺の落ち度だ」
「不快だなんて思っていません。ただ少し驚いただけです。なので本当に気にしなくていいんです」
アイリスは心からそう思って彼をフォローする。
なんだか単純に、喧嘩しているとか、そりが合わないとか、嫌な人とかそういうたぐい話ではなく、彼らの間にはとても難しい問題が存在していて、そのせいで彼らは家族らしく振舞うことができない。
本来それほど、悪い人たちではないのだろうということは親子関係が決裂している状態でも、それなりに理解することができた。
レナルドのような優しい人を育てたひとたちなのだ。
その心に思いやりがひとかけらでもないような人ではないと思うし、ただきっと問題がデリケートすぎるだけではないだろうか。
今までアイリスは、この屋敷に来たばかりの時も、今までもその王都で起こっている革命騒動についてまったく自分事として取られてはいなかった。
なんせ、クランプトン伯爵領はとてもこのフェリティマ王国の王都から離れた位置にあるし、父と母は王族や王家ひいては国に対して借金の事で頼ったり相談したりという事を一切していなかったし考えてもいなかった。
だからこそ関係がないものだと思っていたが、革命が起きようとするということはその原因が存在するということで革命を阻止しただけでは、根本から問題が解決しているとは言えないのだ。
「ですが、レナルド様。今までは詳しくお話を聞くことがありませんでしたし、私自身もどこか人ごとでいました。
けれど、このダンヴァーズ公爵家に身を置いて名乗る以上は私も当事者になります。だからこそこの王都で起こっている革命騒動についてのお話、お聞かせ願えませんか」
つまり、騒動はまだ解決していない。
クランプトン伯爵家の借金の事や、ナタリアの安否などアイリスは心配事が沢山あるが、とにかく今、この場所をきちんと自分のいてよい場所にするためにダンヴァーズ公爵家が渦中にいる問題にも対処しなければならない。
アイリスにできることは多くないだろうけれど、事情を知ってレナルドを支えることぐらいはできるはずだ。
そうして支え合ってこそ、夫婦というものだ。
アイリスの父と母は、決していい親ではなかったけれど相手を見捨てたりはしなかった。
そういう良い部分は見習っていきたいと思う。
「……うん。……そうだね、いくら俺が矢面に立つとしても君が巻き込まれていないわけではないし……知る権利が君にはあるよね」
レナルドはあまり乗り気ではなさそうだし、話したくないのだろうということはなんとなく伺うことはできる。
しかし、知りたいというアイリスの主張が正しいものであることも理解しているらしく、自分を納得させるようにそう言った。
けれどもやはり少しそれを話すことに忌避感があるらしく、しばらく逡巡している様子だったが、ほどなくして隣に座っているアイリスに視線を向ける。
「わかった。しっかりと説明したいから場所を変えようか。今日は時間も余っていることだし、ね」
そうすこし冗談っぽく口にしたのはロザリンドとマイルズの件を少しでも軽く受け止めようとしているからだと思う。
それにアイリスも頷いて笑みを浮かべる。それから二人はレナルドの執務室に移動したのだった。
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