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ロイネの責任 その1
しおりを挟む私は、お義母さまがお見舞いに来ると聞いていたので、テーブルにお茶の準備をして、なおかつ、イーリスの事によって、ジーベル伯爵がどういう扱いになったのか、話が出来るようにアンジュと確認をしながら、ソファで待っていた。
お義母さまは、入室するや否や私をベットへと即座に戻し、ベットサイドに椅子を持ってきて座った。
「用意をしていろという意味で、見舞いに行くと言ったのではありません。無理をしても、良い事はありませんよ」
「でも、動けるのですよ?」
「はぁ……動ける事と、健康は違うでしょう。分かったら、そのまま話を聞きなさい。大事なことを言いますから」
「……はい」
私が了承すると、お義母さまはジーベル伯爵の処遇について話し出す。
そもそも、彼というか、彼のような思想を持った獣人をお義母さま達は、持て余していたんだそうだ。
既に、昔の制度によって養子に迎え入れた人間の子供は、病気や事故により死亡している者がほとんどである。
今更、人間の待遇を変えるために、過去に非道を行った者達を処罰するには、きっかけも、証拠も、足りない。放置という道もあれど、これからやってくる人間の貴族達と、どう折り合いを付けていくかが課題だった。
そんな中、唯一、生き残っていた、イーリスは、私とのコンタクトを求めた。
私がここに来て間も無いうちに、イーリスと接触させてしまえば、私がどんな考えになるか分からない。正式な結婚後に、とお義母さまとお義父さまの間では話がついていた。
けれど、私が、存外活動的に、孤児院へ視察に行ったり、これから来る人間の対応などを考えている為に、過去の都合の悪い歴史であっても、受け入れられるのでは、と考えを改めたそうだ。
イーリスが私と協力をして、ジーベル伯爵を告発するでもよし、イーリスのみ救いあげて、自分達と対策を考えるのも良いと。
とにかく、私に任せようと言うことになったそうだ。
そして事件は起こった、既に、イーリスは手遅れだった。
合理的な判断もすることが出来ず、ジーベル伯爵の目論見どおり、人間の姫を人間が殺害すると言う筋書きを決行した。
その場にいる人が全て死んでいれば、私に送った手紙をダシに、何かよからぬ事を隠蔽するために、私側が動いたのだとするつもりだったようだ。
予想外なのは、アンジュがいた事だろう。
アンジュは、私に何か合った時の保険だったらしい、何があるか分からないジーベル伯爵邸に私が出向くので、危険があれば突入出来るよう、お義母さまが招集をかけてくれたのだ。
アンジュは私の代理として、事の顛末について全てを話した。
私を救出するために、乗り込んだ後、そのまま、ジーベル伯爵邸を私の身の潔白を晴らす為だと強引に捜索し、人間の養子を故意に殺害していた事、イーリスに精神的負荷を与えて、私の殺害を目論んだ事が判明した。
彼は、今、牢の中だそうだ。同じような思想を持っているであろう貴族たちに、この事を理由に、昔の養子の死亡が事故であったのかを入念に調べ上げる予定のようだった。
情報量の多い話だったが、お義母さまの説明は、順序よくわかりやすかったので、理解できた。
ただ一つ、知りたい情報が、誰の口からも語られない。もしかすると、助からなかったのだろうか。
眠ると夢に出てくるのだ、あの衝撃的な、瞬間が。
肉の焦げ付くような匂いに、あの変な抑揚の声。
「浮かない顔ですね」
「あ……いえ、思い出すと、少し気が滅入ってしまって」
「……」
こう言った方が自然だろうと思い、私はお義母さまから視線を外して、落ち込んでいるらしく見えるように俯く。トラウマになっていても可笑しくないはず。
「あら、わたくし、お前が何を考えているか、少しはわかっている気になっていたのだけど、気のせいだったようです」
「……」
バレてるか。
聞きたい、けれど、本当は聞くのが怖い。
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