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あれからさらに一週間。駿介はいじめに受ける事は無くなっていた。
「何かもう飽きた。お前何も反応し無くなったし、もうつまんねえから」
それが彼の最後の一言。それっきり駿介は一度もいじめられる事は無かった。
駿介に平和とも呼べる日々が訪れた。すべてがすべて元通りというわけでは勿論無かった。体育の時間なんか、バスケットボールでシュートが決まら無かっただけで笑われたり、寝癖の付き方が少しおかしかったりと。笑われる事はあっても自分が虐められているという感覚は自然と消えていった。むしろ仲良くなったというべきだ。
とある日の放課後のことだった。駿介は
とある光景を目にしてしまう。それは腕時計を体育館のステージ裏に忘れてしまった時のことだった。駿介は放課後になって委員会の用事を済ませて、急いで体育館に向かった。この後の職員会議のおかげで、どこの部活も既に終わっていた。はずだった、だが体育館の入り口に上履きが五足程
残っていた。早く帰りたかった駿介はそんな事をお構い無しに、体育館に足を踏み入れた。
体育館のステージ裏付近に辿り着いた時だった。ステージ裏から何者かが叫ぶ声が聞こえ、駿介はとっさに体を潜め耳を澄ました。
「あんた、りかが小宮先輩と付き合ってるの知っているでしょ?どうして気が使えないの?りかが可愛そうだと思わないの?」
刺々しい女性の声が轟く。
駿介は自分が虐められていた頃を思い出して吐き気を催すが、ぐっと唾を飲み込んで深呼吸をし、心を落ち着かせる。
このままここにいても気分が悪くなるだけだからすぐに立ち去ろうとしたときだった。
「華花聞いてんの?」
次の瞬間パシっとした音がしたと思うと、誰かが倒れる音がした。
駿介は目にはしてない光景がやけに脳裏に鮮明に描写された。誰が誰を引っ叩いたのかまで……どちらも駿介の知っている声だったからだ。ただ実際見て確かめないと声だけ聞いただけでは信じられなかった。
駿介は顔だけでも確認すべく、恐る恐るステージ裏まで進んだ。人違いだと願いながら。
そして、もうすぐの角まで近づいた。この角を左に顔を出せば、何が起こっているのかが分かる。勇気を出して顔を半分だけ覗かせた。そこには駿介の想像どうり、壁に凭れて倒れ込む華花と、それをを取り囲んで睨みつけている女子が五人程いた。恐らく女子バスケ部の人達。しかも薄々声で気づいてはいたのだが、その中の一人は佐藤さんだった。
駿介はその衝撃に動くことができなくなってしまった。
「何で黙ってんだよぉ!」
そう言って佐藤さんは怒り任せに床を踏みつける。木製の床に穴が開いてしまうのかと思うほど鈍い音がこだます。
そして次の瞬間佐藤さんの右足が華花の頭上まで上がった。
駿介は一瞬で何をするかが分かった。
「何をしてるんだ!!」
考える暇もなく駿介は飛び出した。
周りの視線が一斉に駿介に集まる。
「しゅん……」
「おいおいやっと喋ったぞこいつ」
佐藤さんの声は駿介がいつも聞いているものと違った。いつもの優しい声じゃない、怒っているのか、それともいじめを楽しんでいるのか。駿介は裏切られた自分が悔しくてしかた無かった。
「佐藤さん、何でこんな事をするの?僕に優しくしてくれた方は偽物なの?ねえ!どっちが本物なんだよ?!」
悔しさは怒りに変わった。僕は佐藤さんが許せ無かった。
「柏木くん、君には関係ない話だよ。それに──」
「関係あるんだよ!お前が今踏みつけようとしたやつ、俺の友達なんだよ!」
「へえー、そうだったんだ。可哀想に自分がいじめられなくなったら今度は友達がいじめられて、本当に君には不幸がつきまとうねえ。あ、ちなみに、君をいじめようって最初に言ったの私だから。片山くんじゃないんだよ。気づいてた?」
「はあ?そんな冗談通じないぞ、だってあんた僕のチョークまみれの机を拭いてたじゃないか?」
「あーあれはねえ、私が描いてたの。上手に描けなくてねえ、そしたらちょうど君が来てくれたからさ、消して上げてるってことにしたの。だってそうでしょ?あれから机に何も描かれてないでしょ?二ヶ月前から描いてあるなんて嘘に決まってるでしょ」
駿介は言葉が出なかった。クラスで僕に唯一優しくしてくれる人。その人は元々自分の敵だった。最初から一番最初から自分はもて遊ばれていたのだ。
「うふふ。可哀想に、今日はもう帰ろっか、結構楽しかったし。じゃあ皆行くよ。お二人さんまたね~」
そう言って彼女らはここを出ていった。
「ごめん華花、俺がもっと上手くやっていれば……君を傷つけることも無かったのに……」
「そんな。関係ないよ!駿介はいい子だよ?仕方ないよこんなの。学校の先生だって見向きもしてくてない。親は忙しいから相談しにくいし、私がもっと強くならないと……」
震える華花の声を聞いて駿介はある決意をした。
「大丈夫。俺が華花を守って見せる。だから、大丈夫だから」
駿介は華花の手を握ってそう言い聞かせた。
その後駿介は家に帰って鞄の外ポケットから例のお守りを取り出した。
このお守りは駿介から不幸を消す代わりに周りの人を不幸にする。それなら元々不幸だった自分に……
「お願いです神様。俺にいじめをするように戻してください。俺が華花の分まで他の人の分まで耐えて見せます。お願いします!」
これしか方法は無かった。これですべてが終わる。そう信じて……
祈り終わった後、ふとお守りに目を落とすと、ぼろぼろのお守りがみるみる間に灰となって行く。そして最後は跡形もなく消えてしまった。
果たしてこれは……願いが叶うのか、それとも拒否されたのか……
次の日いつもどうり学校に到着した駿介はほっとした。
靴箱に上履きが無かったのである。
「願いは、叶った……」
「何かもう飽きた。お前何も反応し無くなったし、もうつまんねえから」
それが彼の最後の一言。それっきり駿介は一度もいじめられる事は無かった。
駿介に平和とも呼べる日々が訪れた。すべてがすべて元通りというわけでは勿論無かった。体育の時間なんか、バスケットボールでシュートが決まら無かっただけで笑われたり、寝癖の付き方が少しおかしかったりと。笑われる事はあっても自分が虐められているという感覚は自然と消えていった。むしろ仲良くなったというべきだ。
とある日の放課後のことだった。駿介は
とある光景を目にしてしまう。それは腕時計を体育館のステージ裏に忘れてしまった時のことだった。駿介は放課後になって委員会の用事を済ませて、急いで体育館に向かった。この後の職員会議のおかげで、どこの部活も既に終わっていた。はずだった、だが体育館の入り口に上履きが五足程
残っていた。早く帰りたかった駿介はそんな事をお構い無しに、体育館に足を踏み入れた。
体育館のステージ裏付近に辿り着いた時だった。ステージ裏から何者かが叫ぶ声が聞こえ、駿介はとっさに体を潜め耳を澄ました。
「あんた、りかが小宮先輩と付き合ってるの知っているでしょ?どうして気が使えないの?りかが可愛そうだと思わないの?」
刺々しい女性の声が轟く。
駿介は自分が虐められていた頃を思い出して吐き気を催すが、ぐっと唾を飲み込んで深呼吸をし、心を落ち着かせる。
このままここにいても気分が悪くなるだけだからすぐに立ち去ろうとしたときだった。
「華花聞いてんの?」
次の瞬間パシっとした音がしたと思うと、誰かが倒れる音がした。
駿介は目にはしてない光景がやけに脳裏に鮮明に描写された。誰が誰を引っ叩いたのかまで……どちらも駿介の知っている声だったからだ。ただ実際見て確かめないと声だけ聞いただけでは信じられなかった。
駿介は顔だけでも確認すべく、恐る恐るステージ裏まで進んだ。人違いだと願いながら。
そして、もうすぐの角まで近づいた。この角を左に顔を出せば、何が起こっているのかが分かる。勇気を出して顔を半分だけ覗かせた。そこには駿介の想像どうり、壁に凭れて倒れ込む華花と、それをを取り囲んで睨みつけている女子が五人程いた。恐らく女子バスケ部の人達。しかも薄々声で気づいてはいたのだが、その中の一人は佐藤さんだった。
駿介はその衝撃に動くことができなくなってしまった。
「何で黙ってんだよぉ!」
そう言って佐藤さんは怒り任せに床を踏みつける。木製の床に穴が開いてしまうのかと思うほど鈍い音がこだます。
そして次の瞬間佐藤さんの右足が華花の頭上まで上がった。
駿介は一瞬で何をするかが分かった。
「何をしてるんだ!!」
考える暇もなく駿介は飛び出した。
周りの視線が一斉に駿介に集まる。
「しゅん……」
「おいおいやっと喋ったぞこいつ」
佐藤さんの声は駿介がいつも聞いているものと違った。いつもの優しい声じゃない、怒っているのか、それともいじめを楽しんでいるのか。駿介は裏切られた自分が悔しくてしかた無かった。
「佐藤さん、何でこんな事をするの?僕に優しくしてくれた方は偽物なの?ねえ!どっちが本物なんだよ?!」
悔しさは怒りに変わった。僕は佐藤さんが許せ無かった。
「柏木くん、君には関係ない話だよ。それに──」
「関係あるんだよ!お前が今踏みつけようとしたやつ、俺の友達なんだよ!」
「へえー、そうだったんだ。可哀想に自分がいじめられなくなったら今度は友達がいじめられて、本当に君には不幸がつきまとうねえ。あ、ちなみに、君をいじめようって最初に言ったの私だから。片山くんじゃないんだよ。気づいてた?」
「はあ?そんな冗談通じないぞ、だってあんた僕のチョークまみれの机を拭いてたじゃないか?」
「あーあれはねえ、私が描いてたの。上手に描けなくてねえ、そしたらちょうど君が来てくれたからさ、消して上げてるってことにしたの。だってそうでしょ?あれから机に何も描かれてないでしょ?二ヶ月前から描いてあるなんて嘘に決まってるでしょ」
駿介は言葉が出なかった。クラスで僕に唯一優しくしてくれる人。その人は元々自分の敵だった。最初から一番最初から自分はもて遊ばれていたのだ。
「うふふ。可哀想に、今日はもう帰ろっか、結構楽しかったし。じゃあ皆行くよ。お二人さんまたね~」
そう言って彼女らはここを出ていった。
「ごめん華花、俺がもっと上手くやっていれば……君を傷つけることも無かったのに……」
「そんな。関係ないよ!駿介はいい子だよ?仕方ないよこんなの。学校の先生だって見向きもしてくてない。親は忙しいから相談しにくいし、私がもっと強くならないと……」
震える華花の声を聞いて駿介はある決意をした。
「大丈夫。俺が華花を守って見せる。だから、大丈夫だから」
駿介は華花の手を握ってそう言い聞かせた。
その後駿介は家に帰って鞄の外ポケットから例のお守りを取り出した。
このお守りは駿介から不幸を消す代わりに周りの人を不幸にする。それなら元々不幸だった自分に……
「お願いです神様。俺にいじめをするように戻してください。俺が華花の分まで他の人の分まで耐えて見せます。お願いします!」
これしか方法は無かった。これですべてが終わる。そう信じて……
祈り終わった後、ふとお守りに目を落とすと、ぼろぼろのお守りがみるみる間に灰となって行く。そして最後は跡形もなく消えてしまった。
果たしてこれは……願いが叶うのか、それとも拒否されたのか……
次の日いつもどうり学校に到着した駿介はほっとした。
靴箱に上履きが無かったのである。
「願いは、叶った……」
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