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いつもの日常
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学校は退屈な場所でもある。だからというわけでもないだろうが、何でもないエピソードがいつの間にか広まっていることがある。
星とそのクラスメイト女子三人とファミレスに寄って帰った話は翌日には一部の者に知られていた。
やはり誰かに目撃されていたのだろうか。
「H組の女子とハーレムしてたんだって?」そういう風に直接訊いてくるのは小山内だ。「さすがは香月くん。うらやましいよ」
「オレはそこにいただけだが」
事実そうだ。妹の星が三人とペチャクチャ喋っていただけだ。
「今度そういう機会があればぜひ一緒したいなあ」
小山内は目を輝かせて自分の席に戻った。わずかな時間でも何か話していくのが小山内だ。その程度ですんで助かった。
近いうちに自宅マンションまで星の友人たちが遊びに来る話などできるわけがない。
「香月くんも馴染んできたね」驚いて声の方を見ると高原和泉がすぐ傍まで来ていた。
「近いな。それに音がしない。くノ一なのか?」
「実はそうなの。学級委員は世を忍ぶ仮の姿。その実体は……」
「ああ、わかった、わかったから」
「何、その雑な扱い」高原は頬をふくらませた。
「そんなことより、もうすぐ先生が来るぞ」
「今日はまだ香月くんに挨拶していなかったからわざわざ来たのよ、おはよ」
「軽いな」それに嘘くさいし。「まあ、おはよう」
「じゃあね」手を振って去る高原。
高原もファミレスに寄った話を知っていそうだ。ただ小山内のように訊いたりしないだけだと遼は思った。
朝のショートホームルームには副担任の鞠村だけが来た。五月に入ってから鞠村だけのことが多くなっている。担任の倉敷は職員室に控えているようだ。
この学年には副担任がいるクラスは二つしかない。来年度担任をもたされるであろう若い教師に副担任という役職を与えているのだ。少なくとも生徒たちはそう認識していた。
「球技大会が近いですが、調子はいかがですか? 放課後に残って練習する人もいると聞きましたが」
「調子はバッチリです」高原が元気よく答えた。
「怪我しないようにして下さいね」鞠村はそれが気になるようだった。
「それも大丈夫です」
静かなクラスで、みなうんうんと頷くだけだ。高原がクラスの心持ちを代表して答えているように見える。
「帰りは寄り道せずに帰るようにして下さいね」
ひょっとして自分に向かって言ったのか、と遼は思った。
鞠村は遼の方を向いて言ったわけではなさそうだ。しかし球技大会の自主練を終えてファミレスなどに寄って帰る生徒が他にもいて不思議ではない。そういう情報をどこからか得て、一般論として注意を促しているのかもしれなかった。
鞠村の話はそれで終わった。
授業は平穏に進んだ。教師に何か説明不足なところがあると、高原や神々廻が質問するので疑問は残らないようになっている。
残るのは宿題やら課題やらだ。
遼にとっては難しくもないがとにかく量が多かった。その宿題を毎日星がいるH組の分まで遼はこなしている。
はじめの頃、小山内などがよく遼にたかって宿題の答えを見せて欲しいと言ったりしたが今はほとんどない。
小山内は高原とその友人女子たちに教えを乞うようになった。その方が女子とのコミュニケーションがとれるからだ。ほんとうは小山内もやれば自分でできるはずだ。ただ小山内は女子と喋りたいだけなのだ。
小山内が少し離れてくれたお蔭で、遼は自由に過ごせる時間が増えた気がした。
昼休みは図書室に行く。人ではなく本に囲まれている方が落ち着くからだ。そしてまた白砂レイナとの遭遇もまた楽しみの一つだった。はたして白砂はいるだろうか。
星とそのクラスメイト女子三人とファミレスに寄って帰った話は翌日には一部の者に知られていた。
やはり誰かに目撃されていたのだろうか。
「H組の女子とハーレムしてたんだって?」そういう風に直接訊いてくるのは小山内だ。「さすがは香月くん。うらやましいよ」
「オレはそこにいただけだが」
事実そうだ。妹の星が三人とペチャクチャ喋っていただけだ。
「今度そういう機会があればぜひ一緒したいなあ」
小山内は目を輝かせて自分の席に戻った。わずかな時間でも何か話していくのが小山内だ。その程度ですんで助かった。
近いうちに自宅マンションまで星の友人たちが遊びに来る話などできるわけがない。
「香月くんも馴染んできたね」驚いて声の方を見ると高原和泉がすぐ傍まで来ていた。
「近いな。それに音がしない。くノ一なのか?」
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「ああ、わかった、わかったから」
「何、その雑な扱い」高原は頬をふくらませた。
「そんなことより、もうすぐ先生が来るぞ」
「今日はまだ香月くんに挨拶していなかったからわざわざ来たのよ、おはよ」
「軽いな」それに嘘くさいし。「まあ、おはよう」
「じゃあね」手を振って去る高原。
高原もファミレスに寄った話を知っていそうだ。ただ小山内のように訊いたりしないだけだと遼は思った。
朝のショートホームルームには副担任の鞠村だけが来た。五月に入ってから鞠村だけのことが多くなっている。担任の倉敷は職員室に控えているようだ。
この学年には副担任がいるクラスは二つしかない。来年度担任をもたされるであろう若い教師に副担任という役職を与えているのだ。少なくとも生徒たちはそう認識していた。
「球技大会が近いですが、調子はいかがですか? 放課後に残って練習する人もいると聞きましたが」
「調子はバッチリです」高原が元気よく答えた。
「怪我しないようにして下さいね」鞠村はそれが気になるようだった。
「それも大丈夫です」
静かなクラスで、みなうんうんと頷くだけだ。高原がクラスの心持ちを代表して答えているように見える。
「帰りは寄り道せずに帰るようにして下さいね」
ひょっとして自分に向かって言ったのか、と遼は思った。
鞠村は遼の方を向いて言ったわけではなさそうだ。しかし球技大会の自主練を終えてファミレスなどに寄って帰る生徒が他にもいて不思議ではない。そういう情報をどこからか得て、一般論として注意を促しているのかもしれなかった。
鞠村の話はそれで終わった。
授業は平穏に進んだ。教師に何か説明不足なところがあると、高原や神々廻が質問するので疑問は残らないようになっている。
残るのは宿題やら課題やらだ。
遼にとっては難しくもないがとにかく量が多かった。その宿題を毎日星がいるH組の分まで遼はこなしている。
はじめの頃、小山内などがよく遼にたかって宿題の答えを見せて欲しいと言ったりしたが今はほとんどない。
小山内は高原とその友人女子たちに教えを乞うようになった。その方が女子とのコミュニケーションがとれるからだ。ほんとうは小山内もやれば自分でできるはずだ。ただ小山内は女子と喋りたいだけなのだ。
小山内が少し離れてくれたお蔭で、遼は自由に過ごせる時間が増えた気がした。
昼休みは図書室に行く。人ではなく本に囲まれている方が落ち着くからだ。そしてまた白砂レイナとの遭遇もまた楽しみの一つだった。はたして白砂はいるだろうか。
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