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クラスの様子
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四月の半ばまで過ぎた。遼は一年生の頃と変わらず同級生に積極的に絡んでいくことはなかった。
それでも遼に声をかける生徒は多い。男子では小山内、女子では高原が毎朝挨拶に来る。その二人を突破口にするかのように少しずつ顔見知りは増えていった。そしてクラスの様子も少しずつわかっていった。
内部進学生と高等部入学生が半数ずつの混合クラスだったが、最も大きなグループは高原和泉を中心とする男女混合グループだった。
高原は内部進学生だけでなく、孤立気味だった一部の高等部入学生にも声をかけ、大きなグループを作り上げた。彼女は恐ろしいくらい記憶力が良く、一度耳にしたプライベートな情報を決して忘れなかった。仲間との会話にそうした情報を織り込み、円滑なコミュニケーションを行った。しかも高原グループに属さない生徒に対しても学級委員の立場から声かけを行い、人心を掌握していったから、クラスのほぼ全ての生徒の人望を集めることになった。最大派閥を作り得たのも当然といえよう。
他には男子だけ、女子だけの小さなグループがいくつかあったが、それはランチをとる時の仲間といったもので、高原グループから距離をおいたものではなかった。
その中、例外的に常にひとりでいようとする生徒もいた。遼もその一人で、高原に声をかけられれば話をするが、自分から誰かに関わることは少なかった。同じようにひとりでいるのは女子二人。神々廻璃乃と東矢泉月だった。二人とも学年上位五位以内の常連で、東矢は生徒会の役員をしていた。
遼を含めたこの三人の共通点、それはひとりでいても他人に注目されるだけのものを持っているということだった。
神々廻は眼鏡をかけ、後ろ髪を左右二つに纏めた、御堂藤学園ではありふれたスタイルだったが、授業中に鋭い質問を連発する優等生だった。始業式のホームルームで担任に質問したのも彼女だ。特に注目していなくても目につく。名字の読み方が「ししば」であることを遼は初めて知った。
そして東矢泉月。腰の辺りまである長い漆黒の髪を下ろした神々しい美少女。生徒会副会長でもある。彼女はほとんど表情を変えず、寡黙で近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。前年度学年総合順位一位。
この東矢と神々廻、そして高原の三名は常に上位五位以内の成績をおさめている、と遼は小山内から知らされた。まさにA組のスリートップ。しかし高原と異なり、東矢と神々廻は群れることなくいつもひとりでいた。
「仲は悪くないよ、むしろとても良いよ」遼の心中を推し量ったかのように高原が囁く。いつの間にか遼のゾーンに立ち入っていた。昼休みのことだ。
「近いな……」遼は思わず口にしていた。
「だって泉月に見とれているんだもの」周囲に聞かれない程度の声で囁く。
そうした芸当も出来るのかと遼は驚いたが、顔には出さなかった。
「まあ、美人だものな。鑑賞くらいするよ」
「え、マジ? 香月君のタイプなの?」
「観るだけだな。それ以上の感情はない」
「ホントに? じゃあ私は?」高原はふだん見せないような蠱惑的な顔をした。
「うん、可愛いよ」
「ホント?」
「星の次くらいかな」
「残念……、やはり噂どおりのシスコンね」
「よく言われるよ」言われても構わない。纏わりつく女が減るのが一番だと遼は思っている。
遠くにいる女子に呼ばれて高原は振り返り、「香月君、またね」と手を振って去っていった。なかなか表面上のキャラだけではない女だ。
さて、飯もすませたし図書室にでも行くか、と腰を上げようとしたら今度は小山内に捕まった。
「高原さんに気に入られているね」
「そうか? あいつは誰にもあんな感じだろ」
「いやいやいやいや、距離近かったって。それにあの上目遣い、見たことない」
「見間違いだろ」
小山内は丸い目をくりくりさせながら絡んでくる。
「良いよな、イケメンは。じっとしていても次々女の子の方からアプローチしてくる」
「オレは興味ないけどな」
「それはもったいない。宝の持ち腐れだ」いつまでも喋っていそうだ。「それとも双子の妹が可愛くて他の女の子には目がいかないのかな」
「ああ、そうだ」そう言った方が面倒くさくなくて良い、と遼は思った。
「羨ましいなあ、ボクも星ちゃんとおともだちになりたいよ」
「それはやめた方が良いな。あいつは外面は良いが、性格はきついし、ろくに家事もできないポンコツだ。弁当だってオレが用意している。どちらかというとあいつの方が男に生まれるべきだったな」
「そうなのか? 信じられないな、シスコンの言うことは」
「信じる信じないはお前の勝手だ」それよりどこかへ消えてくれ。
小山内は納得しない顔をしたが離れていった。また寄ってくるだろうと遼は思う。
それでも遼に声をかける生徒は多い。男子では小山内、女子では高原が毎朝挨拶に来る。その二人を突破口にするかのように少しずつ顔見知りは増えていった。そしてクラスの様子も少しずつわかっていった。
内部進学生と高等部入学生が半数ずつの混合クラスだったが、最も大きなグループは高原和泉を中心とする男女混合グループだった。
高原は内部進学生だけでなく、孤立気味だった一部の高等部入学生にも声をかけ、大きなグループを作り上げた。彼女は恐ろしいくらい記憶力が良く、一度耳にしたプライベートな情報を決して忘れなかった。仲間との会話にそうした情報を織り込み、円滑なコミュニケーションを行った。しかも高原グループに属さない生徒に対しても学級委員の立場から声かけを行い、人心を掌握していったから、クラスのほぼ全ての生徒の人望を集めることになった。最大派閥を作り得たのも当然といえよう。
他には男子だけ、女子だけの小さなグループがいくつかあったが、それはランチをとる時の仲間といったもので、高原グループから距離をおいたものではなかった。
その中、例外的に常にひとりでいようとする生徒もいた。遼もその一人で、高原に声をかけられれば話をするが、自分から誰かに関わることは少なかった。同じようにひとりでいるのは女子二人。神々廻璃乃と東矢泉月だった。二人とも学年上位五位以内の常連で、東矢は生徒会の役員をしていた。
遼を含めたこの三人の共通点、それはひとりでいても他人に注目されるだけのものを持っているということだった。
神々廻は眼鏡をかけ、後ろ髪を左右二つに纏めた、御堂藤学園ではありふれたスタイルだったが、授業中に鋭い質問を連発する優等生だった。始業式のホームルームで担任に質問したのも彼女だ。特に注目していなくても目につく。名字の読み方が「ししば」であることを遼は初めて知った。
そして東矢泉月。腰の辺りまである長い漆黒の髪を下ろした神々しい美少女。生徒会副会長でもある。彼女はほとんど表情を変えず、寡黙で近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。前年度学年総合順位一位。
この東矢と神々廻、そして高原の三名は常に上位五位以内の成績をおさめている、と遼は小山内から知らされた。まさにA組のスリートップ。しかし高原と異なり、東矢と神々廻は群れることなくいつもひとりでいた。
「仲は悪くないよ、むしろとても良いよ」遼の心中を推し量ったかのように高原が囁く。いつの間にか遼のゾーンに立ち入っていた。昼休みのことだ。
「近いな……」遼は思わず口にしていた。
「だって泉月に見とれているんだもの」周囲に聞かれない程度の声で囁く。
そうした芸当も出来るのかと遼は驚いたが、顔には出さなかった。
「まあ、美人だものな。鑑賞くらいするよ」
「え、マジ? 香月君のタイプなの?」
「観るだけだな。それ以上の感情はない」
「ホントに? じゃあ私は?」高原はふだん見せないような蠱惑的な顔をした。
「うん、可愛いよ」
「ホント?」
「星の次くらいかな」
「残念……、やはり噂どおりのシスコンね」
「よく言われるよ」言われても構わない。纏わりつく女が減るのが一番だと遼は思っている。
遠くにいる女子に呼ばれて高原は振り返り、「香月君、またね」と手を振って去っていった。なかなか表面上のキャラだけではない女だ。
さて、飯もすませたし図書室にでも行くか、と腰を上げようとしたら今度は小山内に捕まった。
「高原さんに気に入られているね」
「そうか? あいつは誰にもあんな感じだろ」
「いやいやいやいや、距離近かったって。それにあの上目遣い、見たことない」
「見間違いだろ」
小山内は丸い目をくりくりさせながら絡んでくる。
「良いよな、イケメンは。じっとしていても次々女の子の方からアプローチしてくる」
「オレは興味ないけどな」
「それはもったいない。宝の持ち腐れだ」いつまでも喋っていそうだ。「それとも双子の妹が可愛くて他の女の子には目がいかないのかな」
「ああ、そうだ」そう言った方が面倒くさくなくて良い、と遼は思った。
「羨ましいなあ、ボクも星ちゃんとおともだちになりたいよ」
「それはやめた方が良いな。あいつは外面は良いが、性格はきついし、ろくに家事もできないポンコツだ。弁当だってオレが用意している。どちらかというとあいつの方が男に生まれるべきだったな」
「そうなのか? 信じられないな、シスコンの言うことは」
「信じる信じないはお前の勝手だ」それよりどこかへ消えてくれ。
小山内は納得しない顔をしたが離れていった。また寄ってくるだろうと遼は思う。
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