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球技大会予選

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 何日か大きなイベントもなく球技大会の日を迎えた。
 明音あかねグループは予選二試合とも後半に出ることになった。
 前半は明音たち以外の十四人がおよそ三分で交替しながら出る。全員が最低三分でなければならないから、予選敗退の可能性を考えると予選二試合のうちに全員が三分以上出ておく必要があったのだ。
 同じブロックには各学年一チームずつ入るから、予選は一年生のチームと三年生のチームと当たることになっている。
 三年生は受験を控えていて怪我もしたくないから本気で挑んでおらず、予選敗退で良しとする組が多かった。だから勝ち上がるのはたいてい二年生か一年生なのだ。
 昨年度は明音たちの学年である一年生がフットサル、バスケットとも優勝している。今年も明音たちの学年の下馬評が高かった。
「だからといって無理して優勝しなくて良いんじゃね?」三宅が言った。
「無理はしないけど、狙うのは悪くないと思うよ」明音は言った。
 香月星かづきせいがいる二年H組の強さを知っているだけに優勝が難しいことはわかっていた。しかし何が起こるかわからない。そもそも予選は全員が出るわけで、ベストメンバーが出続けることはできない。だから二年H組でさえ予選敗退の可能性があったのだ。
 前半を担当するメンバーには無理して点を取りに行かなくて良いから失点をしないよう動いてもらうことにした。
 その甲斐あって、第一試合は一年生が相手だったが両者無得点のまま前半を終了した。
 そして明音たちの出番になった。ゴレイロ片倉、フィクソ三宅、アラ守崎、ゆずりは、そしてピヴォ明音の配置だ。
 フィールドプレイヤーは動き回るからポジションはあまり関係ないともいえる。特にこのチームは教えられたような組織的な動きができず、個人技で打開するタイプだったから守備位置はあまり意味がなかった。

 相手ボールで後半開始。
 はじめはマンツーマンディフェンスのように見せかけると、相手はヘドンドの動きを見せた。
 それを見て明音と三宅がボールを保持しているプレイヤーを囲うように迫った。相手男子プレイヤーがフィールドに一人いたが無視だ。男子のシュートは得点にならないというくそルールがある。
 ボールを保持しているプレイヤーは、女子プレイヤー残り二人のうちのどちらかにパスを出したかったが、守崎と楪がぴったりついていて、しかも下手にパスを出そうものなら奪いそうなプレッシャーをかけていた。
 仕方なくフリーになっている男子に渡すしかない。何とか男子にパスを通した。その男子はパスが出せず、自分でドリブルして明音たちの陣地に入ってきた。ここまではよくあるパターンだ。
 そして次も定石。ゴレイロの片倉がボールを奪いに上がる。三宅と片倉が相手男子を挟んだ。もちろんゴールはがら空きだ。
 相手男子は黙ってボールを奪われることを選ばず、無人のゴールへ蹴った。男子のシュートは得点にならないから明音たちのボールで再開する。
 このパターンを互いに繰り返すと無得点のままドローで終わることになるのだが。
 フィクソの位置でボールを受けた明音はそのまま強引に突破して相手陣のゴール近くまで迫った。
 相手は二人がかりで明音につく。フリーにされるのはもちろん得点権がない男子の三宅だ。
 明音はボールを保持したままゴールに背を向け味方側を向いた。ここで守崎とゆずりはのうちどちらかが相手マークを振り切っていればそこにパスを通してシュートを打たせる。
 しかし相手マークもなかなか堅かった。想定内だ。
 明音はフリーの三宅に短いパスを出し、自分は二人のマークの間をすり抜けた。
 三宅がほぼワンタッチで明音に返す。それをそのままズドンとゴールに向けて蹴った。
 相手ゴレイロが弾いた。
 こぼれ球をゴール間近まで詰めていた守崎が蹴って見事にゴールインとなった。
 単純な動きにも関わらず明音と三宅の動きは相手の想定以上に速かった。
 一点取れば、あとは守るだけだ。後半は七分しかない。
 明音たちはゴール前にゾーンを敷いた。
 相手チームはパスをまわしながらチャンスを窺う。
 明音と三宅がゴール正面を空けてゴレイロ片倉の視界を確保し、守崎と楪が両サイドに散った。相手がパスをまわしても明音たちはほとんど動かなかった。ただ体の向きを変えるだけだ。シュートされてもかまわないという姿勢だった。
 相手方に突破能力のあるプレイヤーがいれば打開策もあっただろうが、それはいなかったようだ。
 膠着状態を嫌った相手は斜めから無理やりシュートを打ってきた。
 ゴレイロ片倉が弾く。しかしボールを拾ったのは明音だった。
 守崎と楪がすぐに両サイドを駆け上がる。
 明音にマークが二人つこうとしたが、早い段階でフリーの三宅にパス。今度は三宅がドリブルで持ち上がった。
 三宅にはマークはつかず、相手チームの四人のフィールドプレイヤーは、明音に二人、守崎と楪に一人ずつつく形となった。
 打開策がないように見えるが、明音たちは勝っているのでこのまま時間切れでも良い。相手はボールを奪いに来るしかないのだった。
 明音についていた男子が三宅に迫った。ゴール近くまで上がっていたら相手ゴレイロも三宅に迫ったかもしれない。しかしゴールを空ける勇気はなかったようだ。
 一対一になれば三宅も明音も相手を振りきるのは容易だった。三宅から明音にパスが通る。すぐに三宅に戻す。ワンタッチパス二回で相手陣に迫り明音は最後にシュートを打つと見せかけ、マークをうまく振りきっていたゆずりはにパスを出した。
 相手ゴレイロはフェイントをかけられたようにずっこけて、楪のシュートがゴールネットに刺さった。
 結局は個人技の差だと思わせる試合となった。二対零で二年D組の勝ちとなった。
 次の試合は三年生相手だったがもっと差がついて四対零で圧勝した。
「トーナメントに進出してしまったね」守崎が言った。
「これでベスト8だから格好がついたかな」三宅は一安心という顔だった。「あかね組が予選敗退なんて許されないからな」
「誰が許さないって?」明音は眉間にしわをつくった。
「失礼しました」三宅は頭を下げて横を向いて舌を出した。
 楪と片倉が静かに笑っている。
「あとは気楽にいこう」守崎が締めた。
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