ウラカタ 二年G組げんき組

hakusuya

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バスケット

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 鶴翔かくしょうが率いるバスケットチームはトーナメント初戦を快勝してベスト四に進んだ。
 予選リーグの間に全員が三分以上の出場を終えていたのでトーナメントは自由に選手を出せる。どこのチームも精鋭を並べていた。それでも鶴翔が中心となったG組は強かった。
 そして準決勝で二年A組とあたることになった。なお、四強のうち三チームが二年生、残り一チームが一年生だった。
「二年A組は優勝候補だな」賀村よしむらが言った。「あのメンバーはヤバい」
 中等部一年生だった頃にA組にいた生出おいでにもその顔ぶれの凄さがわかる。
 中心は高原和泉たかはらいずみ。複数の運動部の助っ人をする学年随一の運動神経の持ち主。成績も常に五位以内にいるからまさに文武両道のスーパーガールだった。彼女がポイントガードにいて持ち前の運動量を生かしてコート内を動きまわる。
 そしてセンターには身長百九十超えの栗原耀太くりはらようた。リバウンドはすべて彼がとってしまうので相手チームは確実に得点できる状況でないとシュートはうてなかった。さらに厄介なのがスリーポイントシューターがいることだ。
「あんな子、A組にいたっけ?」賀村でさえそれが誰なのかわからないようだった。
神々廻ししばさんだよ」生出は教えてやった。
 神々廻璃乃ししばりの。常に学年五位以内に入る才媛。ふだんはメガネをかけ髪を三つ編みにしている。しかし今日の神々廻璃乃はメガネをかけていなかった。髪型もいつもと違う。頭頂部で一つに纏め、少し長めのポニーテールにして項へ落としていた。キリリとした精悍な顔だちはゾッとするほど美しかった。
「カッコいいな、初めて見たよ、美人なんだな」賀村は見とれていた。
 生出は曖昧な返事を返した。あの伝説的なS組をなめてもらっては困る。単なる文武両道ではなく容姿も端麗なのだ。そこに生徒会役員で中間試験学年二位、昨年度総合成績学年一位の東矢泉月とうやいつきが加わると、今のS組が完成するのだ。
 しかし東矢は控えなのかそこに姿はなかった。生徒会役員として運営の手伝いをしているのだろうか。
 神々廻は、高原からパスを受けると積極的にスリーポイントシュートを放った。ほぼ五割の成功率だったが、リバウンドを栗原がとるので、何度でもシュートの機会がめぐってくる。このままではどんどん引き離される。G組は神々廻をマークして、少なくとも安易にはシュートをうてないようにするしかなかった。
 そうなると高原が自由自在に動きまわる。他の二人の男女を使ってG組を翻弄した。前半の七分を終えて十点の差がついていた。
「強すぎるな」賀村の一言が全てだった。
 もともとG組は精鋭を集めたチームではない。鶴翔のリーダーシップと持ち前の元気とノリで勝ち上がってきたのだ。よく四強に残ったと言うべきだろう。
「隣も凄いことになってるな」賀村が隣のコートを観ていた。
 同時並行で準決勝を行っていたから隣の試合もハーフタイムに入っていた。二年C組が十点の差をつけてリードしていた。
「あっちにはバスケの経験者が多いようだ」
 生出が見たところ、知っている顔は篠塚秀一しのづかしゅういちだけだった。
 篠塚は昨年度までA組にいてS組十傑と呼ばれた一人だ。眼鏡をかけた秀才タイプで目立たないが地力がある。中等部一年生の頃に同じクラスだったし、生出にとっては付き合い易い相手だったからよく知っている。
 確か篠塚はバスケ経験者ではなかったが、昼休みなどの時間にS組の仲間とバスケをして遊んでいたはずだ。長身の栗原らに混じって鍛えられただろうからうまいはずだと生出は思った。
 ふと見ると隣のコートの観戦者の中に東矢泉月の姿があった。生出が滅多に目にすることがないジャージ姿だった。さらさらの黒髪が腰近くまで垂れていた。法月美鈴のりづきみすずと双璧をなすクールビューティー。東矢の目は明らかに次の対戦相手を観察する者のそれだった。
 東矢がじっと見つめる先にその観察対象者がいた。目の錯覚かと思うくらい彼女は東矢泉月と瓜二つだった。違うのは髪の長さだけ。C組の彼女はショートボブだった。
「あの子が噂の転入生だよ」
「噂の?」
「あまりに東矢さんにそっくりだから、双子だとか東矢家の隠し子だとか、そんな噂がいろいろたったんだよな」
「知らなかった」
「お前、情報弱者だな」賀村が笑った。「東雲桂羅しののめかつらさんだよ。彼女がC組の得点の半分を叩き出している」
 賀村はこちらにいながらにして隣の試合も観戦していたようだ。
 後半が始まった。生出は賀村とともに隣の試合を観ていた。
 C組には東雲ともう一人恐ろしく動きの良い女子がいた。この二人がA組の高原和泉に匹敵する動きを見せて相手チームを翻弄していた。
 生出が知っている顔は篠塚一人で、あとの生徒は高等部入学生のようだった。その中にあって篠塚は彼らしく裏方に徹していた。ボールを奪って東雲ともう一人の女子にパスを出す。動きの良い女子が二人いて、相手チームはどちらにボールがわたるか予想もできず目を回した。しかも東雲はボールを持つと予想外のステップを踏んで体を反転させ、時には体重移動のみのフェイントを使って相手ディフェンスをかわし、シュートを決めた。
「何だよ、あの動き、半端ねえ」賀村が嘆息を漏らすのみならず、審判をしていたバスケ部の女子が目の色を変えて東雲を追っていた。
「次の決勝が面白そうだ」賀村の一言に生出は頷いた。
 賀村をはじめとする観戦者のほとんどが東雲のプレイに魅せられた。
 しかし生出は篠塚にも目を奪われた。篠塚はすっかりクラスに馴染んでいる。高等部入学生ともうまくやっていた。そこにかつてA組にいたという無駄なプライドは見られなかった。彼のチームならA組を倒すこともできるのではないか、と生出は思った。
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