迷宮の果てのパラトピア

hakusuya

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クインカ・アダマス大迷宮調査日誌(ペテルギア辺境の森 プレセア暦2817年11月)

アングとサーシャ

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 昼前には小屋に戻った。
「はやーい」サーシャが出迎えた。
「フィルさんとルークさんがいたから大猟だ」アングが答えた。
「さすがだわ」サーシャが感謝感激の目を向けてくれた。
 私もルークも悪い気はしない。しかしその気になれば私たちがいなくてもレヴィとアングだけで同じ量の獲物をとって帰ることも可能だと私は思った。
「疲れたでしょう? 休んで」
 サーシャは私とルークに部屋で休むよう言った。アングにも同じことを言ったのだが「僕は食事の仕度があるから」と行ってしまった。
 サーシャは少し頬を膨らませた。
「君は彼のことが好きなのかい?」ルークはそうしたことを遠慮なく訊ける男だった。
「そんな……アングは幼馴染みだし」顔を赤らめるサーシャの様子で答は聞かなくてもわかった。
「幼馴染みかあ」ルークはわざとらしく納得していた。
「アングは両親がいないと言っていたけれど亡くなったのかい?」私は訊いた。
「そうよ。いつだったかしら遠い昔のような気がする。私はまだ小さかった。アングとお父様お母様が山へ入って帰ってこなくなったの。レヴィおじさんが探しに行ってアングだけを連れて帰ってきたわ」
「道に迷ったのかな」そんな単純な話ではないだろうと私は思っていたが、そのような訊き方をした。
「魔物が出たんですって」
「魔物?」ルークが間の抜けた声を出した。
「魔力を持つ化け物よ。だから私たちはそこに近寄らないようにしているの。誰もそこには狩りに行かない」
「そんな恐ろしいものが山の奥に棲んでいるのかい?」
「誰も見たことはないわ。怖くて行けないし」
 よくわからないが、アングとその両親の三人は山の奥深くヘと狩りに出かけ、そこで魔物に襲われたという話らしい。幼かったサーシャはそのことをよく覚えていないようだった。
「戻ってきたのはレヴィ殿とアングだけだったのか」私はしつこいように訊いた。
「そうよ」なぜかそれだけははっきりと覚えているようだった。「それからアングはレヴィおじさんと暮らすようになったの」
「ふうん」
「じゃあね」サーシャが去った。
「何か気になるのかい?」ルークが訊いた。
「いや、別に、何にも」私は答えた。
 幼子を連れて親子三人で山の奥へ狩りに出たりするものだろうか。
 魔物に襲われたとして、どうしてアングだけが助かったのか。
 そもそもサーシャの記憶はどこまで正しいものなのか。
 そうした疑問に答える者はここにはいなかった。
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