迷宮の果てのパラトピア

hakusuya

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クインカ・アダマス大迷宮調査日誌(プレセア暦2811年5月11日~)

目的

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 我が調査団が、問題の「迷宮への扉」の向こう側に踏み入れる目的は大きく分けて三つ。
 一つはあのコウモリ型の小型モンスターが本当にこの扉を通って王国に侵入してきたのかを検証すること。もし扉の向こう側に同じモンスターの大群が確認できればそれは証明されたも同然であろう。
 二つ目は扉の封印を解いた者が扉の向こう側にいるのかを明らかにすることだ。ただしこれは容易ではない。その手の人物に遭遇できればいることの証明になるものの遭遇しなかったからといっていなかったとは言えないからだ。ある程度の時間、探索して成果が得られなければそれで調査は打ち切りとなるだろう。
 そして三つ目。それはこの機会を利用してクインカ・アダマス大迷宮とはいかなるものかを明らかにすることだ。これもまた成就が簡単には叶わない一大事業であろう。
 我々は調査に入る前に一通りの情報収集を行った。事前にクインカ・アダマス大迷宮に関する知識を仕入れたわけだ。
 王都学院アカデミーの学者やプレセア正教会の神官たちから現在手に入れられる情報を余すところなく収集した。それは神官と同等の記憶能力を持つ魔法師の頭の中に入れられ、必要に応じて調査団全員に提示できるようになっている。
 今回の調査にあたってはあらゆる事態を想定してそれに対処できるようにA級以上の異能を持つ者が選ばれたのだ。もちろん私の記録係としての能力もその一つだった。五感で得られた情報は全て記憶できる。その容量に限界はあるものの、もし容量を超えそうになったら同行している魔法師の何人かに精神感応により委譲することも可能だった。
 調査団としての能力は王国を代表するものだと我々の誰もが自負していた。
 さて事前に仕入れたクインカ・アダマス大迷宮について簡単におさらいしておこう。
 大迷宮の存在は三大宗教が発生したとされる紀元より前に確認されている。確たる証拠はないがプレセア正教の聖なる書の中に大天使が大迷宮に入り浄化した上でその出入口を封印したという記述があるからだ。その時代すでに大迷宮は認知されていた。誰が発見した、誰が名づけたか定かではない。しかしそれは少なくとも三千年くらい前には発見されていたようだ。
 迷宮への出入口は世界各国いたるところにある。そのほぼ全てが何らかの方法で封印され遺跡となっている。
 わがバングレア王国においては王国直属の魔法師とプレセア正教会の神官によって二重に封印処置が施されている。
 そしておよそ百年に一度大がかりな点検が行われ、封印の脆弱性が認められれば再度処置が行われてきた。
 なぜそのようなことが必要だったかというと、数百年に一度くらいの頻度で迷宮への出入口から異世界のモンスターがこの世界に侵入してきたからだ。
 なおその史実は紙媒体の記録には残っていない。度重なる大戦の度に紙媒体の書物は焼き払われてきた。
 従って記録は全て書物をまるごと記憶する能力を持つ者たちによって受け継がれてきた。王国直属の魔法師とプレセア正教会の神官だ。
 こと大迷宮に関する記録については二つの記録に齟齬そごはない。異世界のモンスターが侵入してきたとされる年代は一つ残らず一致している。それらは全て大戦が乱戦化した年だ。おそらくは迷宮への出入口の封印に対する監視がおろそかになり、封印が脆弱化したことに気づくのが遅れたからだろう。
 しかし今回のモンスター出現は大戦下ではなかった。極めて例外的な事象なのだ。なぜそれが起こったのか調査する必要性は間違いなくある。
 過去の事例では異世界モンスターの侵入が乱戦の終結をもたらした。はじめは鳥類型の小モンスターだったのが、徐々に獣型モンスターが出現するようになり、各国は戦争どころではなくなった。
 三大宗教の経典にはクインカ・アダマス大迷宮の向こうに巨大なドラゴンやワイバーンがいたという記述がある。それらが侵入してくる可能性に配慮して各国は休戦協定を結んだ。
 実際に巨大なモンスターが侵入してきたという記録はない。しかし世界中のいたるところで巨大モンスターの化石が発見されており、かつてはそれらが複数この世界にやって来たことは間違いないのだ。
 そのクインカ・アダマス大迷宮に我が調査団は足を踏み入れた。想像もつかない事態が待ち構えていると我々は覚悟している。果たして我々は無事任務を終えることが叶うのだろうか。

***

ストーリーテリングが中断
「この映像のドラゴンやワイバーンは?」ジョセフはフレッドに訊ねた。
「彼のイメージです。おそらくは絵本か何かで見た絵ですね。大迷宮へ入ってしばらくは延々と暗闇の中を歩いています。魔法師による照明魔法を頼りに洞窟内を散策といったところでしょうか。彼の説明の際は彼の頭の中にあるイメージがこのように映像化されるのです」
「それは君の能力によるものだろう?」
「まあ、そうですね」
「たいしたものだ」
「恐れ入ります」
「続けよう」
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